さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。
ハンター体験記 Vol.10 栗木リョータさん、小林洸介さん [その2]
特別な経験を共有したからこそ、
大人の〈仲間づくり〉ができました。
猟果にも恵まれて幸先のいい狩猟ライフをスタートさせることのできたおふたりですが、ハンターバンクに参加して得られたものは、どうやら山の恵みだけではなかったようです。社会のしがらみから離れ、童心に帰った大人たちが、どう仲良くなれるのか……。そんなお話もうかがえました。
──ところで、おふたりそれぞれの想いがあってハンターバンクに参加して、狩猟の現場を経験されたわけですが、その結果として自分の手で得た山の恵みとしての、肉があるわけですよね。ご結婚されているかたには、よく「ジビエを大量に持ち帰って、反応はどうでした?」というところからうかがうんですが……。
栗木さん: うちは、そこはウェルカムでしたね。
小林さん: 奥さん、止め刺し見に来てたもんね。
栗木さん: そうそう。妻に「獲れたから、週末ちょっと行ってくるね」と話したら、なにか興味があったようで「それ私も行っていいの?」と。で、事務局に確認したら了解をいただけたので、当日の参加となりました。妻とふたりで、というのは想定していなかったので、食いつきがよくってびっくりしましたけどね。
──もともとジビエが大好きだった、とか……。
栗木さん: いや、そういう感じでもないですね。ただ、ぼくが狩猟免許を取ることにしたときから、そういう趣味嗜好みたいなものには理解を示してくれていましたし、自分でも「獲る」まではいかないにしても、興味のある領域だったんじゃないですかね。それで、いざ「獲れたよ」となったら、衝動的に行ってみたくなっちゃったようで……。
──なんか、栗木さんご自身の、免許は取ったけどどうすればいいのか途方に暮れていて、そこでハンターバンクを見つけて……というストーリーからすると、奥さまはそこをヒョイっと入ってきちゃった感じですね。それで止め刺し、どんな感じだったんですか?
栗木さん: いやあ、ぼくより肝が据わっていて……止め刺しから解体まで、しっかり見学してました。魚も丸ごとだとさばけない人なのに、もしかしたら彼女のほうが好奇心、強いのかもしれませんね。で、そのときの成獣、母イノシシがかなり大きかったので、ふたりで結構な量を食べながらも、まだ冷凍庫にあるんですけど、本当に「イノシシの肉って美味しいよね」という感じで、いろいろな料理を試しながら大事に食べています。食材としては、我が家の中ではブタを超えて、ウシに並ぶポジションに来てますね。だからといって「私も狩猟免許を……」みたいな話でもなく、あわよくば次回もまた参加してやろう、くらいですけどね。
──それまでにもレストランでシカやイノシシの料理を食べたことはあったと思いますが、自分たちで肉にしたものを持ち帰って、自分たちで料理して食べる、ということを経験されたわけですが、それでなにか感覚の変わったこととか、ありましたか?
栗木さん: とくに心情的には変化はないんですが、あまりにも大きな肉の塊が家にあるんで、暮らしの変化としては、ミンサーを買ったりはしましたね。でも、獲物を獲って、それを持ち帰って食べて、それが美味しい、という喜びみたいなことは、無意識のうちにも分かち合っているんだと思いますね。ホストさんや事務局の皆さんに助けてもらってはいるんですが、自分で野生の生き物を獲って、食べて、美味しいというのは、ある種の循環というか、ひとつのサイクルとしてあるわけで、そういうチャンネルが自分たちの生活の中にできた、というのは面白い経験でしたね。
──小林さんはそのあたり、いかがでしたか?
小林さん: 私の場合は狩猟への興味がジビエ料理からはじまった、ということもあって、うちでイノシシ肉を料理して妻とふたりで「美味しいね」といいながら食べてもいたので、そのあたりの抵抗感みたいなものはありませんでした。シヴェのソースも、まあ大丈夫みたいでしたね。妻もフランス料理、好きなので。そんなわけで、肉だけでなく血まで自家調達できて、念願のシヴェのソースも作ってみたら大変だったんですが、美味しくできたので、充実感はありました。
──なんか、お話を聞いていると、おふたりとも感覚が似ているような気がしますね。それもあって仲良くなられてる、ということかもしれませんが……。
小林さん: まあ大人になってからこういう出会いかたをして、密度の高い瞬間が共有できる機会って、すごく貴重というか、なかなかないですよね。
栗木さん: たしかに、あまりないですよね。ビジネスっぽいつながりで、朝活やってて仲良くなる、というのとも違いますし、なにか社会的背景のようなものを背負っているのとはまったく違うつながりかた、なんでしょうね。ある種、予定調和じゃないというか、みんなが抱えてるわからなさ、とか不安、みたいなものを持ち寄って集まっているからこその、独特なシチュエーションだと思うんですよね。そんなわけでチームの皆さんとはすごく仲良くさせていただけていると思いますし、先日は小林さんのご自宅にもお邪魔して、フランス料理とか本格的なのをコースで振る舞ってもいただきました。もちろんチームの皆さんと話すのは狩猟の話題が中心になるんですが、どんな背景で狩猟を始めたのか、とかいった部分をうかがっているうちに、そこからお仕事の話に広がっていったり、というのもありましたね。……まあでも、小林さんってあった初日から「うちに遊びに来なよ〜」とかいってて、なんか面白いなこの人、距離の詰めかたすごいな〜、とは思ってました。
小林さん: いや、やっぱり「狩猟をやりたい」って変わった人間が多いと思うし、自分でも狩猟をはじめるなんてどういうことなんだろう、とか思っていたわけで、最初の説明会に行くのも、どんな人がいるんだろうと、すごくドキドキしながら行ったんですよ。そしたら、同じチームになにかいい雰囲気の、世代も近くて話も合いそうな人がいたので、すごく安心感があったのかもしれないですね。それで、初対面のときから「仲良くなりたいなあ」と……。
──小林さんって、いわゆる「人たらし」なタイプなんですね。
小林さん: いや、全然そんなことないんですけど。
栗木さん: 遊びに行ったとき、奥さんが「この人がそんなことするの、珍しい」っておっしゃってましたね。
小林さん: いろんなところに出かけていってつながり作ってやろう、というタイプではないので、自分でもびっくりでした。まあでも、やっぱり特殊は特殊ですよね。非日常を共有する、ということの中でも、ハンターバンクの現場にあるのは、すごく特別な非日常なので。考えてみると、それって極めてプリミティヴな、人間の本質に近いことをみんなでやっている、というところで、動物としての人間の本質的な営みに近いんだと思うんですよ。それを共有する、っていうのは、本能的な「群れ」の延長線上にあるのかもしれないですね。
──それこそ「同じ釜の飯」ってことですよね
小林さん: ですね。大人になってから、社会人としての延長線上の友だちづきあいではなくて、こういう感じで人と仲良くなれるのって、本当に稀有な経験だな、とは思います。
栗木さん: ぼくもどこか、ハンターバンクのイベントに行ったり、箱わなの様子を見に行ったりするときって、自分のキャラクターも童心に帰ってる、というか、なにも背負わずに参加できているという感覚もあるので、気負わずに、リラックスしてチームのみんなと会えている、ということかもしれないですね。
──なるほど。それは、獲物が獲れた、とか、肉が美味しい、とかいう部分とはまた違った意味での、狩猟という非日常の経験の魅力というか、ハンターバンクの面白さなのかもしれないですね。
栗木さん: ぼくが今回のインタビューで小林さんを誘ったのも、まさにそういうところだな、と思いますね。
──もともとのお知り合いなんだとばかり思っていましたので、そうじゃないと聞いた時には驚いたんですが、お話をうかがってよくわかりました。ありがとうございました。
持ち前の好奇心から、子どものころに感じていた〈問い〉への答えを、ハンターバンクでついに見つけることができたという、三つ子の魂の持ち主。とはいえ、狩猟免許を取得しただけでは、その答えにはたどり着けていなかったのかもしれません。ともあれ、納得のハンター生活を満喫中の栗木さんですが、次なる好奇心の矛先は、どこに向かうのか……。
フランス料理の面白さに目覚めた小林さんが作ってみたかったのは、動物の血で作るシヴェのソース。単なるジビエ料理というだけでなく、そのための素材を調達するためのハンターバンク、というきっかけは、まさに凝り性ならでは。次なる挑戦は、材料にたっぷりの血を使ったソーセージ「ブーダンノワール」ですが、素材はもちろん自分たちで獲ったイノシシです。