さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.9 鈴木農人さん [その2]

ハンターバンク、
長く続いて、広がってもらわないと困るんです!

ホストとして場所を提供している箱わなに捕獲があれば、それだけ自分の畑の被害も減っていく。そう実感している鈴木さんですが、だからといって「その時に獲れるだけ獲ってしまえばいい」と考えているわけではないそうです。山の獣と向き合うのは、自然と向き合うこと。それは長い闘いであり、長い付き合いでもある。そこには5年後、あるいは10年後をイメージした、山の農家さんならではの想いが、ありました。

──鈴木さんの畑の箱わな、捕獲の成績って最初から好調だったんですか?

鈴木さん: いやいや、実はいちばん最初のころ、このあたりの仲間の農家で、みんなでハンターバンクのホストをやってみようという話になったんですが、私のところだけ獲れなかったんですよ。ほかの箱わなにはどれも入ってたのに……。それで「なんでオレんとこだけ入らねえんだ?」ってずっと思ってたんですけど、箱わなの場所を変えてみたら、なんだかいちばん入るようになったんです。でも、その場所の違いっていうのが、まあよくわからないんですよね。それもまた、ハンターさんといっしょに勉強していければいいかな、と思っています。それに、これは親しくしている地元の猟師さんから聞いた話なんですが、イノシシも親から学ぶことって、あるみたいなんです。エサのありかとか、箱わなの危険性とか。ところが、子イノシシが教わる前に親イノシシが死んじゃったりして、箱わなを知らないまま育っちゃったイノシシもいるらしいんです。そういうイノシシはヌカに誘われてヒョイっと箱わなに入っちゃったりするかもしれないわけで、そういうところも面白いですよね。

──そういえば先ほど、今日も大きいのが箱わなに入ってる、とおっしゃってましたけど、それは親イノシシというか、大人のイノシシですよね?

鈴木さん: それがたぶん、この辺りに出没していたいくつかの家族の、親イノシシとしては最後の1頭なんだと思います。前に親イノシシと子イノシシがまとめて箱わなに入って、ということがあったわけですが、その子イノシシって、別の母イノシシのところの子イノシシもいっしょに入ってたみたいなんですよね、サイズ的に。で、今日のイノシシはたぶん、残ってた母イノシシかな、と。

──だとすれば、それでちょっと落ち着きそうですね、このエリアとしては。

鈴木さん: 農家としては、助かりますね。

──ところで、鈴木さんの畑に来てるのは、イノシシだけなんですか?

鈴木さん: いや、イノシシだけじゃなく、この5年くらいは、シカも来てますね。で、ハンターバンクにホストとして参加してよかったと思っていることのひとつは、トレイルカメラでどんな動物が来ているのか、実際に見ることができる、ってところなんですよね。箱わなの周辺でなにか動きがあると、それに反応して撮影した画像をアプリに送ってくれるんですが、これまでは夜中に荒らされていても、あとからその痕跡を見つけるだけで動物たちの行動は全然わからなかったわけですけど、どんなところからどんな風に入ってきているのか、そういうことが見えるようになりました。シカの食害というのは直接的な被害で、どうやら4年目、5年目あたりの太さの木が食べごろらしく、その樹皮がかじられちゃってるんです。ほかにもタヌキとか、アナグマとか、ハクビシンとか、いろいろ来てるのが写っていて、もちろんいろんな動物がいるのはわかってましたけど、それが可視化されたわけですね。どれくらいの数がいるのか、どういう風に行動しているのか、その実物が映っているって、これ農家にとってはすごく大きな知見になるんです。仮にイノシシが減ったら、その分だけシカが出てくる可能性もあるわけで、いま周辺の農家さんもそこを心配してるんですよね。

──そこはまた新たな対策が必要ですね。

鈴木さん: 近隣の農家さん、皆さん金属の柵でそこそこ農地を囲ってらっしゃるんですが、まあイノシシ用の高さですからね。シカが跳び越えられない高さとなると2メートルは必要らしいので、なかなか大変なんです。それをどう対策するか、というのをみんなで考えるためにも、トレイルカメラの映像があれば、いいアイディアが出てくるかもな、と思ってるんです。これまでは近所の農家さんで集まっても、夜中の動物の姿なんて、想像だけで話し合ってたわけですからね。 なので、このハンターバンクの取り組みがどんどん広がっていけば、私たちの知らない対策をやってる地域があって、そういう地域と横のつながりができたりするかもしれないわけで、面的に広がっていけば農家としては本当にありがたいな、というところなんですよ。それに……これ私ずっと思っているんですが、いまは同じエリアの中でも、例えばハンターバンクの箱わなのすぐ近くに、知らない猟師さんのくくりわなが仕掛けてあったりするんですよね。いろんな人がいろんなところで、それぞれのわなを仕掛けていて。わなをどこに仕掛けているか、最近の農業被害やイノシシの出没情報とか、情報が共有できて連携が取れるようになったらいいなと思っています。そこもハンターバンクが面的に広がって、わなの設置の情報や捕獲の成果が共有できたら、ムダがなくなるんじゃないかと思っているんです。なにしろ個人の箱わながずっと使われてなくて、もう錆び付いて、草ぼうぼうになってるようなのもありますからね。辞める人は勝手に辞めちゃうから……。

──そんな箱わなの残骸でも、動物からしたら怪しい存在なので、寄り付かない、ってこともあるんでしょうね……。

鈴木さん: かもしれませんね。とにかくハンターバンク、本当にいい取り組みだと思うので、それが続いていってほしいわけですけど、まあ獲れなかったら楽しくないので、ハンターさんもモチベーション下がっちゃいますよね。なので、このエリアだったらこっちの端とこっちの端の2カ所で、みたいなコントロールで、イノシシの被害が出ている場所をフォローしながらコンスタントに捕獲ができる状況を維持していけるのが、ホストにとってもハンターさんにとってもいいと思うんです。一時期に集中的にイノシシを獲って、それで数が減ったら被害も減るわけですが、獲れなくなるのでハンターさんも来なくなって、何年かしたらまたイノシシが増えてくるのにハンターさんいないじゃん、みたいなことになったりしたら、農家としては困るわけですよ。逆に、ハンターバンクが農家の間でも広がっていけば、ホスト農家からの情報も増えて、知恵も集まるわけですから、獣害対策としても、ハンターさんの捕獲効率としても、よくなっていくと思うんです。そういう意味では、これもまた持続可能性の話なんですよね。

──なかなか難しい問題ですが、たしかに大きな課題ですね。ありがとうございました。



鈴木農人さん(すずき・たかひと)
小田原のエリアでは珍しい、シキミ(樒)とサカキ(榊)を専門に栽培する農家さん。ハンターバンクには初期からのホストさんとして参加し、箱わなの設置場所を提供する。最近は捕獲成績も好調で、それにともなってイノシシの被害も減ったのはうれしいものの、イノシシが減った分だけ、次はシカが増えてくるのでは、とお悩み中。
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