さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.10 栗木リョータさん、小林洸介さん [その1]

命と向き合う特別な時間。
大人の仲間づくりもまた、山の恵みです。

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回は、いまも同じチームで活動を続ける、栗木リョータさんと小林洸介さんのおふたりにご登場いただきました。もともとのお知り合いでもなく、それぞれが別々の想いで参加したハンターバンクでしたが、フタを開けたらなんだか最初から意気投合して……。猟果にも恵まれ、ハンターバンクを大いにエンジョイしているチームの中で見つけた〈楽しさ〉を、たっぷりとうかがいました。

──今回は、このハンター体験記のお話をうかがえるということで栗木さんにお願いをしたところ、栗木さんから「同じチームのハンターふたりで話をする、っていうのはどうですか?」というご提案をいただきまして、小林さんにもご参加いただいてのインタビューとなったわけですが、栗木さんと小林さんって、もともとのお知り合いだったんですか?

栗木さん: いや、ハンターバンクが初対面ですね。

小林さん: 最初の3か月のレクチャー期間のキックオフのときに初めてお会いしました。その時に4チームに振り分けられたんですが、たまたま同じチームになったんです。

栗木さん: それで、なんとなくウマがあったんですね。それが昨年の11月で、そこから1月までのレクチャー期間でハンターバンクの活動をスタートしました。

──で、そのあとは、どんな感じで活動されてるんですか?

小林さん: レクチャー期間では4チームに分かれていたんですが、そこでひと通りのノウハウを得て卒業となり、レクチャー期間が終わって継続したのが11人で、それがひとつのチームとして、いまは箱わなをふたつ、シェアしています。

──ところで、まず栗木さんにうかがいますが、そもそもなんでハンターバンクに参加してみよう、ということになったんですか?

栗木さん: 実はハンターバンクを知る前の、2021年の暮れにわな猟の免許を取っていまして……。もともと狩猟には興味があって、というか好奇心が強くて、なんでも自分でやってみたいんですね。狩猟も、ご先祖さまはやっていたはずなのに、いまはやらなくなっているんだよなあ、と思っていました。まあ難しくいえば文化的な興味なんですが、例えば子どものころに、エスキモーの狩りの映像で子どもたちがまだ温かい新鮮な血を分けてもらって飲んでいるのを見て「世界って広いなあ」と思っていたんですが、でもその子たちって自分と同じような年代だけど、どんなこと考えてそういうことしてるんだろうな、とか、自分もそういうことをしたらどんな気持ちになるんだろうな、とか、そういう子どものころの好奇心が、狩猟への興味につながったんです。それで狩猟免許も取得したんですが、実際に活動をスタートするためのフックというか、なにかそういうものが猟友会などに用意されているわけではなくて、いざ狩猟を始めるためには全部を自分で能動的にやらなくちゃいけなかったんですよね。でも、なにから手をつけたらいいのかわからないまま時間だけがズルズルと過ぎていってしまって、なにかきっかけが欲しいな、こんなことしていると猟期もすぐに終わっちゃうぞ……と考えていたところに、SNSでハンターバンクの広告を見つけたんです。お、これはいいかも、それにいつも通勤で使っている小田急電鉄さんがやってるんだ……と思って、それで参加してみようかと思ったんです。

──だとすると、そこで運よくハンターバンクを見つけてなかったら……。

栗木さん: ペーパーハンターまっしぐら、だったかもしれないですね。なにかしらきっかけになることをつかもうとはしていたんですけれど、狩猟者の知り合いもいない個人としては、それもなかなか難しくて……。

──なるほど……。では小林さん、同じことをうかがいますが、ハンターバンクに参加することになったきっかけはなんだったんですか?

小林さん: 私は凝り性なところがありまして、去年から料理をするようになったんですが、そこでジビエ料理を試しに作ってみたら、これは美味しいな、と。その中でも、フランス料理の古典的な手法のひとつに「シヴェ」というのがあるんですが、これは動物の血をソースに使うんですね。それをやってみたいな、と思っていたんですが、その動物の血というのがなかなか手に入らなくて、もちろんネットで通販もあるんですが、豚の血で2キロとか、そういう単位なんですよ。それはさすがに手に余るので、どうしたもんかなあと思っていたところ、SNSでハンターバンクを見つけたんです。これなら肉だけでなく新鮮な血も手に入るし、いろいろと面白そうだな、ということで……。

──なかなかすごいお話ですね。シヴェのソースから狩猟の道に入る、というのは初めて聞きました。小林さんは、もともとジビエがお好きだったんです?

小林さん: いやあ……まあ食べたことはあったんですが、レストランでジビエ料理が出てきたら、みんなで「思っていたほど臭くないね」とか「うん、美味しいじゃん」とか面白がってるレベルだったんです。その時点では自分でシヴェのソースを作るだなんて、思ってもいなかったんですけどね。それが突如として料理にはまって、作ったものをSNSとかに上げていると、やっぱり料理の見栄えもよくしたくなるんですよ。それでフランス料理に手を出したら、フレンチのクラシックにはジビエがあるわけで……。農林水産省が主催している「ジビエ料理コンテスト」というのがあるんですが、それに出品しようとジビエの肉を手に入れたりしているうちに、そこからどんどんとはまっていきましたね。そんなところにハンターバンクが、というわけです。

 

──おふたりともユニークな入り口からハンターバンクに参加された、ということかと思うのですが、実際に狩猟を経験してみて、まずはどんな感想だったんでしょうか。

栗木さん: あの、そもそも「動物を殺めるのが好き」という人もなかなかいないとは思うんですが、もともと動物は可愛いし、愛でたい、という気持ちのほうが強かったので、積極的に「仕留めたい」という気持ちはなくて……。実際に獲物が箱わなに入ると、トレイルカメラの映像が届くので、その様子もわかるわけですよね。それで、いざ捕獲できたぞ、週末に現場に行くぞ、となったときには眠れないくらいドキドキして……。

──そのとき箱わなに入ったのは、どんな獲物だったんですか?

栗木さん: 成獣のメスのイノシシ1頭に、仔イノシシが7〜8頭、ぞろぞろと……。まだレクチャー期間の3カ月の間のことだったんですが、初の猟果としては、大猟でした。でもそれが現実のこととなると、なにかちょっと恐怖感もあったりして、本当にそんなこと自分でやるのか……という感じで、当日になっても気持ちとしては荷が重かったんですよね。ただ、ハンターバンクに参加するとなった時点で自分で決めていたんですが、もしもメンバーの中で積極的に止め刺しをしたいという人がいなければ、そこは率先して自分が手が挙げたいな、と思っていまして、実際にその大きなメスを自分が止め刺ししたんですが、そのときはやっぱり、ちょっとモヤっとした……というか、なんともいえない、不思議な気分になりましたね。

──でもまあ余韻にひたる間もなく、すぐに解体に取り掛からなきゃ、ですよね。

栗木さん: ええ、その日のうちに解体まで終わらせなければならないわけで、仔イノシシたちも止め刺しして解体小屋に移動したんですが、まあ解体の作業中にも「おお、生々しいな……」という感じはありました。ただ、それまでにも箱わなの見回りとか誘引エサの使いかたとか、小林さんを初めチームのみんなとはコミュニケーションが取れていて、それなりに親睦も深まっていたんですよね。そんな仲間といっしょに、獲物を解体していったわけですが、最終的に気持ちの決着がついたのは、最後にみんなでその肉を分かち合うところで、部位ごとに仕分けられた肉を前にして「その左モモ、持ってっていいよ」とか「ここ希少部位だから全員で分けようぜ」とかやってるときに、なにかこう、内面から湧き上がってくる喜びのようなものがあって、それまで精神的にもキツかった部分が消化されていく感覚というか……うまくいえないんですけど、子どものころに感じていた疑問も、そこでちょっと「ああ、なんか、こういうことなのかな……」というのがつかめた感じがあって、その幸福感というのは、ほかではちょっと得難い感覚だな、と思いましたね。

──ふむ……。それは強い絆が生まれたことを感じさせるお話ですけど、でもその仲間の皆さんって、もともとのお知り合いでもなかったんですよね? なにかすごく密度の高いつながりを感じますが……。

栗木さん: ええ、知らない人たちでした。でも、そもそもハンターバンクに参加してくる時点でバイアスがかかっているというか、まあちょっと変わった、面白い人が多いわけですよ。大人になってからの友だちの作りかたというか、やっぱり趣味や嗜好を通して仲良くなっていくときの近付きかたというか、距離の縮まりかたというのがあって、まあ絆も深まりやすいですし、それに「命を扱っている」という緊張感もあって、仲間意識が芽生えやすいのかもしれないですね。目的を共にして、協力して作業して、最後は獲物を分かち合って、コミュニケーションの密度も高くなりますからね。

──いろいろと奥の深いお話ですね。では次に小林さんにも、初めての獲物と向き合った率直な感想をうかがいたいのですが……その前にまず、念願のシヴェの材料は手に入ったんですか?

小林さん: 自分が犬を飼っているのもありまして、どちらかといえば動物愛護というか……農林業被害のある地域のイノシシやシカも、害獣として駆除しなければいけないというのは頭ではわかっていても、いざその場面になったら「ああ、やっぱりかわいそうだなあ」と思ったりするのかなあ、という感じだったんです。それこそ、YouTubeとかで止め刺しの方法を事前に勉強する中でも、どこか「かわいそうだな」とは思っていたんですね。でも、それがいざ、そういう場面に立ち会ってみると、場の空気というのもあるんでしょうけれど、みんな淡々とやるべきことをやる、という感じで、むしろそういう場面で「かわいそう」と騒ぎ立てることのほうが、イノシシにも、というか、その命に対しても失礼なのかな、と感じまして……なにか、当たり前の営みのひとつとして受け入れられた、というのはありますね。

──小林さんとしては、狩猟への入り口が料理だったわけですからね。

小林さん: まあ料理のプロセスのいちばん手前の、というとドライに聞こえちゃうかもしれないですけど、ふだん肉を食べているのだって、誰かが同じことをしているわけですよね。それをたまたま自分が、自分のこととしてやっている、ということですかね。もちろん有害鳥獣駆除という側面もあるので、多少は社会に貢献できているのかな、というところもありますし、初めての止め刺しでもためらう、ということはなかったですね。で、実感としては我ながら上手にできた、と思っています。一発できれいに刃も入りましたし、苦しませることもなく止め刺しできてよかったな、という感じですね。それよりも解体が……あの脂を肉に残しながら皮を剥ぐ、というのが難しいな、と思いました。以前に猟師さんから肉をもらったこともあるんですが、その肉のキレイさとは違うな、という感じですね。扱いやすく、しかも美味しい状態にする、というのはめちゃくちゃ大変ですね。

栗木さん: あの、止め刺しは箱わなに入った現場でやるわけですが、そこから車で運んで小屋のところで解体するわけですよね。現場はやっぱり地面が血みどろだというのもあって、まだドキドキした気持ちをひきずっていたんですが、小屋に移動したら気持ちとしては好奇心のほうが勝ってきて、どうやって解体してどういう部位の肉が取れるのかな、みたいなモードになりましたね。そのうえで、哺乳類なので解剖学的にはイメージしやすいはずなのに、首を落とすにしても一苦労があったりして、そういうところを1分の1のスケールで体験できたというのは、面白かったですね。その時点ではもう肉に見えてましたし。

小林さん: 私も、小屋に移動したあたりからは肉に見えちゃってました。

栗木さん: ブラシでダニを落としているところですら、もう完全に、肉としての下処理でしたね。

──非日常だったものが、日常になった瞬間、ということなんでしょうね。

小林さん: ただ、それにしても狩猟ってとても非日常な体験なわけで、いわゆる「吊り橋効果」みたいなものなのか、非日常を共有することで仲良くなれる、みたいな感じもありましたね。

──そういうこと、あるかもしれませんね。ところで、レクチャー期間から猟果に恵まれて、そのあとも継続してハンターバンクでの活動しているわけですが、それからの捕獲実績はどんな感じなんですか?

小林さん: そのあとも、たぶん5〜6頭は獲れてるんですけど、実はボクら、止め刺しや解体には行けてないんですよ。やっぱり、ハンティングって獲れるタイミングをコントロールできないので。毎日その場に行ける、というわけではないですからね。

栗木さん: そうなんです。その間はチームの皆さんにお願いしている感じですね。

──まあそれでも狩猟ができる、というのがハンターバンクのいいところですからね。

栗木さんと小林さん、おふたりのお話は[その2]へと続きます。



栗木リョータさん(くりき・りょうた)
持ち前の好奇心から、子どものころに感じていた〈問い〉への答えを、ハンターバンクでついに見つけることができたという、三つ子の魂の持ち主。とはいえ、狩猟免許を取得しただけでは、その答えにはたどり着けていなかったのかもしれません。ともあれ、納得のハンター生活を満喫中の栗木さんですが、次なる好奇心の矛先は、どこに向かうのか……。



小林洸介さん(こばやし・こうすけ)
フランス料理の面白さに目覚めた小林さんが作ってみたかったのは、動物の血で作るシヴェのソース。単なるジビエ料理というだけでなく、そのための素材を調達するためのハンターバンク、というきっかけは、まさに凝り性ならでは。次なる挑戦は、材料にたっぷりの血を使ったソーセージ「ブーダンノワール」ですが、素材はもちろん自分たちで獲ったイノシシです。
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