さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.9 鈴木農人さん  [その1]

ハンターバンク、
長く続いて、広がってもらわないと困るんです!

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回は、ハンターバンクがスタートした時から会員のハンターさん達に狩猟の場を提供してくださっているホストの農家さんである鈴木農人さんにお話をうかがいました。ここ10年ほどでイノシシが増え、畑の足元を荒らされるようになって困っていたところで、耳にしたのがハンターバンク。それまで狩猟には縁がなかったそうですが、人任せではない獣害対策として、自らホストとなって挑戦してみることにしたそうです。さてさて、その成果はどのように……。

──お名前、農の人と書いてタカヒトさんとお読みするんですね。これはご両親か、ご親戚か、命名されたかたにセンスがあったというか……やっぱり代々の農家さんでいらっしゃるんですよね?

鈴木さん: まあ後を継ぐことを仕組まれた名前、というか……そういうことですね。うちはシキミとサカキを専門にやってまして、食べるものを作ってない農家、ということになります。静岡県なんかだとシキミやサカキをメインでやっている地域もあるんですが、栽培としてはここ小田原あたりが北限になるので、専門でやる農家がないんですよね。

──シキミは仏事の、サカキは神事のお供え、というイメージがあるんですが、そんなに需要があるものなんですか?

鈴木さん: 日本の家って神棚と仏壇の両方があったりしたので、もともとは日常の暮らしの中にも需要があったんですよ。それで、昔はこのあたり、小田原や早川には野菜やミカンを作りながらその傍らでシキミやサカキをやっている農家がたくさんあったんですが、だんだん作る人も減ってきて……。そのうちにオレンジの輸入自由化ということがあって、国産ミカン類の価格が暴落したんですが、うちはその時にミカンをやめて、シキミとサカキに全面的に切り替えちゃった、ということなんです。

──なるほど。で、そんな鈴木さんはハンターバンクにホストとして箱わなを置く場所を提供されているということなんですが、ホストさんになったきっかけはなんだったんですか? やっぱりシキミやサカキがイノシシの食害で……。

鈴木さん: いや、食害というよりも、石垣や土手が掘り返されて崩されるので困っていたんです。シキミもサカキも常緑樹で、畑を回って剪定をし、きれいな枝葉を切って出荷するんですが、イノシシに荒らされると作業性が悪くなっちゃうんですよね。そもそもシキミって、葉にも根にも毒性があるので、野生動物は避けて通るんですよ。で、実はサカキも同じように「直接の食害はない」と考えていたんですが、最近どうやらイノシシが根っこをかじっているんじゃないかと感じています。サカキの畑だけ、根元が掘り返されてるんですよ。まあ何十年も育っているような大きな木なので、それですぐに枯れるということでもないんですが、葉の生育にはちょっと影響が出ているのかもしれませんね。

──ご自身でなにか対策はされていたんですか?

鈴木さん: 食害のような直接の被害がないと考えていたこともあって、どうしたものかと思いつつも、具体的にはなにもしないでいたんですよね。そりゃ以前からイノシシがいたことはいたんですが、畑を荒らされるということは、そこまで多くなかったんです。それがこの10年くらいで、だんだん荒らされるのがひどくなってきて、いよいよ困ったなあ、と……。そんなときにハンターバンクの話を聞きまして、これはいい機会かな、と思いまして、ホストとしてハンターバンクに参加して、そろそろ2年になりますかね。

──捕獲の実績はどんな感じですか?

鈴木さん: 去年の暮れから3回、捕獲がありまして、全部で11頭、かな。いちど、親イノシシといっしょに子イノシシがたくさん入ったこともありまして、回数のわりには数が多くなってますね。このあと行きますけど、今日もわりと大きいのが入ってるんですよ。

──それはぜひ見せてください! それで、畑が荒らされるといったイノシシの被害に対する抑止効果としては、どんな感じですか?

鈴木さん: ものすごく出ましたね、効果。以前とは、だいぶ状況が違います。イノシシの出てくる数が減ったので、おのずと被害も減ったんだと思います。まあイノシシの行動範囲がきちんとわかっているわけではないので、なんとも言えない部分はありますが、まわりの農家さんもわりと広い範囲で「イノシシ、見なくなったよね」という話になってます。近所ではホストとして参加しているのはうちだけなんですけどね。これまでも自分の農地をフェンスでぐるりと囲ってた農家さんが少なくなかったんですが、それでもどこからか入っちゃってたんですよね、イノシシが。でもうちの農地にハンターバンクの箱わなを置いたことで、近隣農家さんでも侵入される回数が減ったし、もちろん作物を食われる回数も減っているようですね。

──まさしく効果てきめんですね。ところで、鈴木さんが場所を提供されているその箱わなをシェアして活動しているハンターさんのグループがあるわけですが、そのハンターさんたちとのやりとりって、どんな感じなんですか?

鈴木さん: もちろん畑に出ているときに顔を合わせれば、そこで話もするし、情報交換もするし、ということなんですが、基本的にはチャットアプリを使ったやりとりですね。皆さん毎日は来ることができませんから、私が見回りをして、イノシシを誘引するためのヌカを撒いたりしてるわけです。それに対して「ヌカをもう少し多めに撒いてくれませんか」とか、アプリで依頼があったりするわけですね。で、そのヌカがどんなふうに食べられているか、あるいは食べに来ていないのか、周辺に掘り起こされた形跡はあるのか、ないのか、そんなことも書き込んで、やり取りをしています。

──箱わな周りの状況を毎日ずっと観察していらっしゃると、狩猟者的な視点もだいぶ身についてきたんじゃないですか?

鈴木さん: いやいや、もともと狩猟に興味があったわけではないので……食べるのは好きですけどね、イノシシ。ただ、ハンターさんと畑でいっしょになってヌカを撒いたりすることもあるんですが、そのときに私らが地べたにヌカを撒いているのに、木の盆とか、器にヌカを入れて置いてみたり、こんもりときれいに盛ってみたりするハンターさんもいて、なんだかイヌやネコにエサをあげてるみたいで、それはそれで面白い感覚だな、と思ったこともありましたね。食べてませんでしたけど。
でも、そういう工夫をいろいろと考えて試してみるのも、面白いですよね。私も、ハンターさんたちも、イノシシを捕まえるなんてそれまでやったことがないわけで、だからわからないのも当然でしょ?
いろんなことを試してみて、ダメだったらそれを省いていけばいいわけで、なんでもやってみるのがいいと思うんですよ。そういう工夫って面白いことだし、やっぱり楽しくないと続かないと思うので、まあこちらに迷惑がかからない範囲であれば、あれこれチャレンジしてもらうのがいいと思います。こちらとしては、どんなやり方であってもイノシシの被害が減るのであれば、それがいちばんですからね。
ともかく、いまはイノシシが獲れてますし、それで被害も減ってますから、私も面白いですね。なにをやっても全然イノシシが箱わなに入らなくて、あいかわらず畑が掘り返されてるのを見てると、ちょっとイライラしたりもするんですよ。


──それはもう、単に場所を提供してるだけ、という感覚じゃなくなっている、ということですよね。

鈴木さんのお話は[その2]へと続きます。



鈴木農人さん(すずき・たかひと)
小田原のエリアでは珍しい、シキミ(樒)とサカキ(榊)を専門に栽培する農家さん。ハンターバンクには初期からのホストさんとして参加し、箱わなの設置場所を提供する。最近は捕獲成績も好調で、それにともなってイノシシの被害も減ったのはうれしいものの、イノシシが減った分だけ、次はシカが増えてくるのでは、とお悩み中。
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