さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.6 鈴木毅人さん [その1]

300年間に渡って山林を守ってきたホストさんは、
山だけでなく里との繋がりも考えていました。

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて、ここまで5人のハンターさんにお話をうかがってきましたが、今回はハンターではなく、ホストさん。ハンターさんに箱わなを置く場所を提供したり、日々の見回りをしてくれる農林業者さんたちです。今回のホストさんはここ小田原の荻窪で、300年間に渡って山林を守ってきた林業会社。担当者の鈴木毅人さんは、ハンターバンクに参加することで、自分たちの山だけでなく周囲の山々や、その先のことにまで広がる想いを聞かせてくださいました。

──今回はホストとしてハンターバンクに参加している人を、ということでご紹介をいただいたんですけれども、鈴木さんは林業の会社にいらっしゃるということでいいんですか?

鈴木さん: 自分はレジャー業からこの仕事に入っていましてね。この小田原に山を持っているのはうちの代表で、70ヘクタールほどの山を300年ほど守ってきて、当代で八代目になるんですけれど、まあ今は木が高く売れないので、林業としてはやりづらいわけですよ。そういった中で、こりゃ木を刈って売る、いわゆる林業だけではダメだということで、多角的な経営を取り入れていて、今はレジャー業も展開してるんです。そこで自分は、樹上に張ったワイヤーにハーネスでぶら下がって、空を飛んでいくアスレチック施設とか、あとマウンテンバイクのコース運営なども担当しています。

──あ、先日フィールドを見に行ったときに、マウンテンバイクの人たちもたくさんいましたね。

鈴木さん: あと、そういったレジャー業とは別に、農園もやっているんです。季節によって梅だったり、タケノコだったり……そういう意味では、林業だけではなく農業の視点からも山を見ているかな、というところかもしれませんね。

──面白い会社なんですね。

鈴木さん: そうですね、あまりないケースなんです。なので、林野庁さんをはじめ多方面から注目されているかも知れません。エネルギー関係でもメガソーラーとかやってますし、水力発電が元々あったり、そういったものを全部総合した、多角的な山林経営というところで、色々なところから視察に来られます。

──なるほどね。で、鈴木さんご自身は、そこの会社に入る段階では、いわゆる木こりさんになるつもりだったんですか。

鈴木さん: いや、自然に関われる仕事を探して、東京から移住して、ここ小田原のアウトドアレジャー施設のマネージャーに、とお声がけいただいたんですけれど、もっと面白いことを仕掛けたいですね、という話を代表としまして、今はいろんなことをこの山でやっている……というところですね。

──じゃあ「山で飯を食ってくぞ」という思いが、そこで現場とフィットして、今に至るわけですね。

鈴木さん: はい、そうです。今は使われない山が多いので……特に里山、町に近い山ですね。小田原の場合、市街地からクルマで5分、高速道路からなら降りて3分という山なのですが、でもそこに300年生の木なんかが生えてるわけですよ。で、せっかくそんな山を持っているにもかかわらず、林業として成り立たないってのは残念なことなんですが、でもまあ林業は繰り返しますので、また先々その木が売れるはずなので、それまできちんと山を管理すること、どうやって維持するかということが大事なので、今はそういった仕事をして10年になりますね。山そのものは江戸時代からで、代々ずっと個人で山を管理されていたんですよ。レジャー業も先代まではやってなかったので、新しい取り組みなんですけどね

──鈴木さんご自身にとっては、こちらにジョインされて、実際に自分のフィールドができて、その時点では野生鳥獣被害というのは認識があったんですか?

鈴木さん: もちろん自然の仕事の中には野生鳥獣被害対策なんかもあるとは知っていたんですが、実際にその山に入ってみて……というか、趣味がトレイルランニングなんですよ。もともとトレランの為に、実はその山にはもう入っていたんですね。で、まあ10年前には尾根沿いにしかいなかったシカが、今はどんどん下りてきて、もうすぐ隣にシカがいるという状態ですね。食害の面積も広くなって、個体数も圧倒的に増えたんだろうな、というのが実感です。まだ小田原はそこまで害がひどいということではないんですけど、個体数ってある程度に達したところから、いきなりぼんと増えるじゃないですか。真剣に対策しなきゃいけないね、と考えるようになったのが、5〜6年前ですかね。

──イノシシはどうですか?

鈴木さん: 増えてますね。イノシシの場合は明らかに形跡を残していくので、足跡以外にも、掘り返しの跡とか、もう至るところにある状態ですね。掘り返すことによって虫を食べたりするんですけど、それで根がダメになって、ミカンの木がやられてしまったり、あとタケノコ、食われちゃうんですね。タケノコ守るのに竹柵を作って……今の日本では竹そのものも田畑を侵食したり家屋の床を突き破ったりで竹害といわれたりしていますが、うちの山では獣害を竹害対策で対策する、みたいなことになってます。まあ山の獣は移動するんで、餌が食べられないとなれば隣に行きますし、隣りがダメになれば戻ってきたり、もうずっと追いかけっこというか、戦っていますね。

──ハンターバンクのホストになって、いろいろなところからハンターさんが通ってくるようになる前から、このエリアにも狩猟者さんがいらっしゃったと思うんですが、積極的に山の獣の相手をしてくれる人たちと連携していく、というアプローチは、どうだったんですか。

鈴木さん: もちろん猟友会さん、山に入ってくる人たちが3団体くらいあったんですが、管理してる側としては、連絡もくれないでそこら辺で勝手にやらないでくれ、という感じもありましたね。例えばレジャーのお客さんのところにまで獣を見失った猟犬が飛び出してきちゃったりして……休みの日だと子ども連れの家族が300人くらいいるわけですが、怖い思いをさせちゃったりしたことも……そうですね、色んなお話がありました。

──それでも狩猟で山の獣を押し返していかないと、シカもイノシシもどんどん増えて、山林経営はますます難しくなっていく、という……。

鈴木さん: そうですね。しかも山林経営の多角化ということで、レジャーのお客さんもたくさんいらっしゃるわけで、なにかと難しい部分もあったんですが、そこで出会ったのが、まさにうちのニーズにピッタリな、ハンターバンクさんだったんですよ。事業モデルが箱わな猟ということで、放たれた猟犬がレジャーのお客さんを驚かせることもないし、効果的な設置場所もこちらで検討できますし、都市部から新しいハンターさんが来てくれるわけですからね。


──いわゆるWin-Winな関係性、ですね。

鈴木さんのお話は[その2]へと続きます。



鈴木毅人さん(すずき・たかひとさん)
自然に関われる仕事を探して東京から移住し、小田原でちょっと変わった林業会社に転職。これからの林業、山林経営を考える中で必要と思う森林のレジャー業を展開してきましたが、そこでハンターバンクのホストも行うことになり、担当者として奮戦中。趣味はトレイルランニングで、ジビエも大好き。
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