さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。
ハンター体験記 Vol.5 小蝶辺明日子さん [その2]
大きな自然の循環の中に、
ハンターバンクで自分の居場所が作れました。
ハンターバンクと出会ったことで、子どものころからの憧れだった、大いなる自然の循環の一員になることができた小蝶辺さん。あれこれと苦心しながらも、めでたく猟果に恵まれて、無事に止め刺しや解体を経験できました。ところが、長年の夢が現実となったその瞬間は、それまで考えてもみなかった、意外な課題を突きつけてきたそうです。
──さて小蝶辺さん、ハンターバンクでの活動をスタートしてから3カ月ほどで猟果に恵まれた、ということで、初めての止め刺しや解体も興味深く、楽しく経験されたわけですね。で、その後にはまさに食物連鎖として〈食べる〉という行為ができるようになるわけですが、そこはどんな感じだったんですか?
小蝶辺さん: 実はですね、その〈食べる〉という行為の前の段階で……解体して、切り分けた肉を持ち帰る、というところがすごく、たいへんだったんです……。理想のイメージとしては、本当に余すところなくきちんと食べて、というのを思い描いていたんですけれど、その日は親イノシシと子イノシシで一度に3頭も獲れて、それをなんとか止め刺しして、解体して、それだけでもう、ありがたいというより疲れ果ててしまって……。作業が雑になってしまったのも反省しているんですが、私たちは6人のグループで活動していて、その日は参加できたのが3人だけだったんですよ。そもそも自分は一人暮らしだし、そんなに消費できないのだから少しだけ分けてもらえればうれしいな、ぐらいの気持ちでいたんですけれど、結局その日は3人でその肉を持ち帰らなきゃいけない、ということになって、それがプレッシャーに変わってしまって……正直なところ、ちょっとつらかったんです。
──全部で何キロあったんですか?
小蝶辺さん: トータルでは量っていないのでわからないんですが、私が持ち帰ったのは、骨付きの状態で6〜7キロぐらいでしたね。しかも、その日に参加した別のメンバーの一人も、それほど大量の肉は持って帰れない、ということで、なんか最後の一人に押しつけるみたいな感じになっちゃって、すごく心苦しかったんです。あの人、一人で20キロぐらい持って帰ってくれたんじゃないか、っていう……。
──そのあたりは事前に具体的なイメージができていなかった、というか、ギャップがあったということなんでしょうか……。
小蝶辺さん: そうですね。自分の家の冷凍庫も一人暮らし用のサイズだし、既にいろいろと食材が入ってるところに肉を入れなきゃならないわけで、そうなると、それほど量を持って帰れないのだけれど、でも仕留めちゃったし……みたいな状況になってしまって、もっとちゃんと覚悟したうえで臨んだほうが良かったな、というのは、すごく感じました。理想と現実のギャップというか、それまではまず肉をキロ単位で考えたことがなくて、それがどれぐらいの分量になるのか、というようなことを認識できていないまま現場に臨んでしまったな、という……自分の甘さですね。
──これから技術が向上してコンスタントに獲物が掛かるようになってきたら、冷凍ストッカーも必要になってきますよね。
小蝶辺さん: 皆さんそうおっしゃいますね……冷凍ストッカーないと収拾つかなくなるよ、って。あと、やっぱり個人消費だと食べられる量も本当に限られているわけで、有害鳥獣駆除としてたくさん捕獲するといっても、そこは個人消費の限界を感じました。だからこそ、それがちゃんと食肉流通とかでうまく循環できるシステムが大切だし、必要なんだな、と思いますね。
──まあでも反省点はあるとして、ともかく実際に食べるところまでいったわけですよね。自分で獲った肉を食べてみて、率直な感想としては、いかがでした?
小蝶辺さん: 実はその、獲った当日にいろんな部位をちょっとずつ切って、さっと焼いて、本当に塩味だけ、ちょろっと塩を振っただけで食べ比べたんですが……。
──それはなかなか面白い食べ比べですけど……。
小蝶辺さん: それが……美味しいとは思えなくて、すごい血生臭さを感じて、これやっぱり止め刺しが悪かったのかな? それともその後の解体処理が悪かったのかな? とかいろいろ考えちゃって……。で、あんまり美味しいと思えない肉がまだこんなにもあるんだ、という負担を感じつつ、骨を外して冷凍庫に詰め込んだんです。ですが、その後に煮込み料理なんかにしてみたら、それはわりと美味しくできまして、改めて「なんだこれ美味しいんじゃん」と思っているところです。疲れ果てて帰った当日に、ちゃんとした味付けもしないで焼くだけで食べたのは、なんだか固くて美味しくなかったわけですが、それがちゃんと調理をしたことで変わったのか、ちょっと時間が経って肉質そのものが変わったのか……そこはよくわからないんですけれど、とにかく初日に「美味しい!」と思えなかったのは、それはそれでショックでしたね。
────まあその肉は手際の問題もあって、いささか放血不良があったかもしれませんし、解体の直後で肉の固さもピークなところを味見しちゃった、ということで、それはなかなか厳しいものがあったんでしょうね。
小蝶辺さん: 全然これ美味しくないんだけど、って他のメンバーもボヤいてました。
──ともあれ、それは肉として美味しいか美味しくないか、という観点での感想なわけですが、自分の手で作った肉として食べた、という点では、どうでしたか? もちろんそれが初めての経験だったと思うんですが……。
小蝶辺さん: 正直なところ、その日は丸1日かけて、本当にいろいろと初めての経験をして、かなり疲れていて、おまけにちょっと食べたら美味しくない!というショックもあって、もう「これを消費しなきゃいけないのか……」というプレッシャーが大きくて……。止め刺しとか解体そのものは楽しかったんですけど、家に帰ってみれば、なにかを達成したというよりは、ネガティブな気持ちのほうが大きかったですね。
──自分が思い描いていたジビエとは違った、という感じですか?
小蝶辺さん: そうなんです。それまでにもイノシシとか食べたことはあって、その時は美味しかったんです。というか、どちらかというとヤギとかヒツジとか、獣臭い肉は好きだったんですよね。だから、自分で獲ったイノシシを食べたら絶対に美味しい!と感じるはずだ、ってタカをくくってたんですけど、実際にはあれれ?という……。ジビエ料理でいわれるところの、いわゆる獣臭さというのは、きちんとしたプロの料理人の演出としての獣臭さだった、というのがよくわかりました。
──じゃあ次の獲物では、美味しくなれ!と思いながら、止め刺しでいかにキレイに放血させるか……みたいなところがポイントですね。
……ということで、リアルな「新米ハンターあるあるネタ」をご披露いただいた小蝶辺さんですが、今回のお話はもう少しだけ……[その3]へと続きます。
大きな自然の食物連鎖に憧れて、自分もその一部になりたい、という子どものころからの願望を、ついにハンターバンクで実現。お仕事では生物多様性のマクロな世界もテーマとして扱っていらっしゃいますが、もともとは分子生物学のミクロな世界を勉強されていたそうで、いまや粘菌からイノシシにまで循環の輪が広がった新米ハンターさんです。