さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.5 小蝶辺明日子さん [その1]

大きな自然の循環の中に、
ハンターバンクで自分の居場所が作れました。

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

子どものころから憧れていた、大きな、大きな自然の循環。それは食物連鎖の仕組みの中に、自分も食べ、そしていつかは食べられる存在としてありたい……というユニークな発想でした。そんな小蝶辺明日子さんが大人になって知ったのは、狩猟という行為は、他の生き物の命を食べるということ。すなわち、自然の循環に積極的に関われる手段のひとつだということです。そして、そこにはハンターバンクがありました。

──まずはハンターバンクに参加したきっかけからうかがいたいのですが、もともと狩猟に興味があったとか、家族にハンターさんがいらっしゃったとか……。

小蝶辺さん: いや、ただただもう個人的な興味が子どものころからあった、って感じですね。そのころに狩猟という言葉がどんな意味なのか知っていたわけではないのですが、生き物が生き物を捕まえる、みたいな、食連鎖的なところから来ている興味なんです。

──食物連鎖とか弱肉強食とか、子どもにとって興味の対象になりやすいテーマではありますが、その食物連鎖の中に自分が入ろう、とは、なかなかならないと思います。それは「私も食物連鎖の上の方に行くぞ」みたいなことだったんですか?

小蝶辺さん: それはちょっと違って、食物連鎖のピラミッドの頂点というよりは、自然界で巡り回って循環している、その中に自分も入る、というイメージが強かったんですね。根っこにあるのは、自然の偉大さへの憧れだと思います。自分が死んだら動物や微生物に食べられたりして、自分が上に立つだけではなく、大きな自然の中の一部になりたいな、みたいな憧れが、ずっとあったんです。もっとも、循環の一部になりたいという基本的な想いと、そのうちのひとつが狩猟なんだ、とわかったのは、大人になってからですけどね。

──なかなかユニークなお子さんだったわけですね。そして大人になって、気がついて、ついには〈狩り〉がしたくなった、という……。ハンターバンクに参加される前にも、例えば狩猟の見学に行ったり、動物解体ワークショップみたいなことを体験したり、ということはあったんですか?

小蝶辺さん: 私の場合はハンターバンクが初めてですね。実は仕事の関連で有害鳥獣への対策なんかを調べているうちに、たまたまハンターバンクを見つけて、すぐに飛び込んだ、って感じでした。仕事の関連というのは生物多様性のリサーチだったりするんですけれど、その分野でもイノシシやシカが増えているのが問題だ、と聞くので、ちょっと面白いなと調べていくうちに……。

──そうすると小蝶辺さんの中では、自然の大きな循環の中に自分も居場所を見つけたいという長年の想いと、生物多様性について考えていく時に避けることができない有害鳥獣対策どう向き合うかということが、ハンターバンクという場所でちょうど交わった、ということなんですね。

小蝶辺さん: そうですね。そもそも狩猟っていきなりは入りづらい世界で、どこで何をしたらいいのかもよくわからないわけですが、そういう素人でもとりあえず飛び込める、という環境だったのが、すごく良かったと思います。

──なるほど。で、実際にハンターバンクで狩猟という活動をされて、試行錯誤があって、やっと猟果に恵まれる日が来たわけですが、大きな食物連鎖、自然の循環の話からすると、実際にそれが現実になって、どういう感じだったんですか?

小蝶辺さん: こういう言いかたはちょっと良くないのかもしれないですけど、止め刺しとか解体とか初めてのことばかりで、この関節はこう動くんだとか、この筋肉はこの骨につながってるんだとか、そういうところからして、すごく楽しかったんです。もちろん反省点もあって、止め刺しがうまくいかなくて時間がかかってしまったり、解体もきれいにできなかったり……もっと冷静に、ささっとできるようになりたいな、っていう想いが強くなりました。さっと止め刺しできたほうが動物にとってはいいのかな、というのもありますし、血管の位置とかもっと勉強しとけば良かったな、とすごく反省しました。そこから解体までの技術向上というのも、その後で肉を食べるという意味で、せっかく捕ったのだからおいしい肉にしたいよね、という気持ちになりました。でもまあイノシシも箱わなの中で動いていますし、なかなか難しかったですね。

──ともあれ、ハンターバンクに参加して、捕獲から止め刺し、解体をして、命が肉に変わるというところを経験したことで、これで自然の大きな循環の一部になれた、というわけですね。

小蝶辺さん: そうですね。まあ昔は釣りもしてたんですが、鶏を締めたりとかはしたことがなかったので、食物連鎖の中で考えると、魚の次がイノシシで、自分もいまそこに、ということですね。

──大きな自然の循環、という視点で、なかなかユニークな狩猟観をお持ちの小蝶辺さん。ところが実際の猟果に恵まれて、いざ自分の手で肉を得てみると、そこには考えてもみなかった意外な問題が……。

小蝶辺さんのお話は[その2]へと続きます。



小蝶辺明日子さん(こちょうべ・あすこ)
大きな自然の食物連鎖に憧れて、自分もその一部になりたい、という子どものころからの願望を、ついにハンターバンクで実現。お仕事では生物多様性のマクロな世界もテーマとして扱っていらっしゃいますが、もともとは分子生物学のミクロな世界を勉強されていたそうで、いまや粘菌からイノシシにまで循環の輪が広がった新米ハンターさんです。
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