ハンター体験記 Vol.2 菅原隆さん
持続可能性×『HUNTER×HUNTER』の答えは
狩猟のリアリティだった!
日々の仕事と好きなマンガの掛け合わせで生まれた狩猟への興味から、幸運なデビューへとつながった菅原さんのハンター生活。早々に猟果も挙がって気分はすっかり中堅ハンターさん……かと思いきや、現実の〈狩猟〉と向き合ってみた菅原さんの中には、まだ落としどころの見えていない、言葉にならない〈思い〉があるようです。そのあたり、実は同じように感じている新米ハンターさんも、いらっしゃるのではないでしょうか……。
──さて菅原さん、インタビューの最初にもお話いただいていた「モヤモヤ」について、もう少し詳しく教えていただけますか?
菅原さん:そうですね……正直なところ、完全な興味本位で足を踏み入れてみた狩猟の世界でした。それで、ハンターになった自分としての最初の捕獲までは、狩猟という行為も、有害鳥獣駆除としての社会的な課題の解決手段として、あるいは山の恵みの利活用としてのビジネスモデル的な可能性として考えていたんですが……。
──いざとなると……。
菅原さん:自分の箱わなに「獲物がかかった」とホストさんから連絡をもらって、いよいよ現場に向かうぞ、というその前日になったら、それまで考えてもいなかった「あえて殺す」というイメージが自分の中にふくれ上がってきて……。それがいまも、なんかモヤモヤになっているんですよね。
──なるほど。それまでは、ある種〈理想のハンター生活〉だった話が、急に現実味を帯びてきた、という感じなんですね。
菅原さん:捕獲した野生鳥獣の命をいただく〈狩猟という行為〉は、それまで考えていた、自分の目に映っていた社会的な課題やビジネスモデルの文脈とは、やっぱり別の現実なんだな、という思いですね。そこには狩猟という行為、すなわち「あえて殺す」という行動の理由を考える自分がいたわけです。
──不思議ですよね。魚を釣って、締めてさばいて食べるのと本質的には変わらない行為のはずなんですが、獲物の大きさなのか、体の温かさの問題なのか、そこには大きな違いというか、壁があったというお話を聞くことは、少なくないんですよね……。
菅原さん:そこは自分の中でどう言語化して、どう収めるべきなのか、まだまだスッキリとはしていない部分ですね。
──とはいえ獲物は自分の箱わなに入っているわけで、その獲物を放棄する、という選択肢もなく……。そこはどうやって折り合いをつけたんですか?
菅原さん:実はそのタイミングで、現地のサポートハンターさんからメッセージをいただきまして、それでなんとか、という感じでした。具体的な手順や技術的なアドバイスを再確認させてもらったうえで「あとはメンタルの問題だけですよ」と。そのメッセージに背中を押していただいて、覚悟も決まった、ということですね。
──実際に体験した初めての〈狩猟という行為〉は、どんな感じでしたか?
菅原さん:最初の獲物はイノシシの幼獣、いわゆるウリ坊ばかりが6頭で、箱わなの中で小さい獲物がやたらと動き回っているわけですから、止め刺しも時間がかかって大変でした。それに、その獲物を解体するにしても、作業の手間に対して得られる肉は少ないわけで、まあ歩留まりも悪いわけです。そもそも初めての作業ばかりで腕は筋肉痛でパンパンだし、だんだん握力もなくなってきて、途中で「解体、もう止めちゃおうかな……」なんて思いも、正直なところ頭をよぎりました。
──小さいから丸焼きで、というわけにもいきませんからね……。
菅原さん:でも、あえて自分が殺したんだから最後まで責任を持って……というところで気持ちを入れ直して、なんとかやり遂げて……。結果として、その肉を持ち帰ってありがたく食べることができたのは、本当に良かったと思います。自分がそれまで考えたこともなかった経験に、感じたことのなかった気持ちに直面することができた、というのは……面白かったですね。
──実際に自分の手で「狩猟」のリアリティに触れたことで、菅原さんの中にあったイメージも、変わったわけですね。
菅原さん:ホストの農家さんがミカンを作ってらっしゃるんですが、以前には獣害と聞いても「ミカンが食べられて収穫量が減ってしまう」という全体的な収益性の問題だとイメージしていたのが、実際に現場で「土を掘り返されて根っこがやられるんで、植え直さないといけないんだよね」とか「その若木にのしかかってくるもんだから、枝が折られちゃってね」とか「苦労して作った石垣を崩されて、土砂崩れになっちゃってね」といったようなお話をうかがうと、ひとつひとつの自分の「捕獲」にもちゃんと意義があるんだな、と実感できるんですよね。
──総論が各論につながった、という瞬間ですね。
菅原さん:そしてその実感がないと、止め刺しのヤリを向けることも自分にはできないのかな、と思うようになったんですよね。
──まだまだ考察を深めている途上の菅原さんですが、最後に「ハンターバンクでいちばんよかったこと」を、ひとつお願いできますか?
菅原さん:現場に行った日だけ箱わなを借りるのではなく、きちんと「自分のわなです」と胸が張れる、ということですね。そのための環境が、すべて整う。
──そこに〈意義〉もあるわけですね。ありがとうございました。
東京での仕事と小田原でのハンター生活の両立を、もっと充実させたいと考えているハンターさん。会社の業務としても、里山にサテライトな拠点を持ったり、民泊事業で都市部から地方への人口導線を設計したり、公私ともどもいろいろと仕掛け中。