ハンター体験記Vol.1 中島めぐみさん
IT支援の仕事で里山を訪ねたら、
いつしか自分がハンターになっていたんです [その2]
たまたま仕事で担当した案件から心を惹かれ、興味のままに狩猟免許を取得して、ハンターバンクと出会ったことで、晴れて通いのハンターとなった中島さん。初心者ながら猟場にも恵まれ、めでたく挙がった猟果では、生まれて初めての止め刺しも経験しました。さて、それで中島さんの日々の暮らしには、あるいは気持ちには、どんな変化があったのでしょうか。そのあたりのお話もうかがってみました。
──ハンターバンクに参加してハンターの仲間入りをされた中島さんですが、それまでの生活では完全に非日常だったことが、いまやライフスタイルの中でも大きな存在となってるのではないかと思います。いまの中島さんにとって、それはどんな位置付けになっているんですか?
中島さん:そうですね……最初に行った九州の里山でも、地元のハンターさんが止め刺しをするのは見ていまして、もちろん捕獲した獲物が大きかったりすれば銃を使うこともあるわけですが、そうでない場合でも、例えば持ち手の長い金づちを使って、獲物の頭をコツンと叩いて、動きを止めて……。とにかくベテランのハンターさんたちの止め刺しは本当に手際が良くて、なにからなにまでスムーズな手順だと感じていたんです。
──ご高齢のかたも少なくない狩猟の世界ですが、皆さん実にお元気で、なにをされるにもパッパッと、あっという間ですよね……。
中島さん:そうですよね。ところが、ハンターバンクで設置した自分たちの箱わなに「獲物が入った」とホストさんから連絡をもらって、それで初めての止め刺しに向かうことになったら……前の夜から、なんだか緊張してよく眠れなかったんです。
──その最初の獲物はなんだったんですか?
中島さん:成獣になったばかりの、30キロくらいのイノシシでした。それで次の日、いざ長柄の槍を手にして獲物と向き合ってみたわけですが……。技術的にも、心情的にも、迷いなくスッと刃先を入れる、というのは本当に難しくて、結局は1時間くらい格闘していた感じになってしまいましたね。
──都市部の日常生活では絶対に味わえない、ドラマチックな体験ですからね。
中島さん:私、子どものころから動物が大好きで、狩猟という行為についても、もともとは「動物を殺すなんて!」と思っていたところがあったんです。それが、たまたま仕事で向かった先で、野生鳥獣による農林業被害の実態を知ったり、それをきっかけにあちらこちらで狩猟の現場を見たりして……。
──興味を抱くようになった、と……。
中島さん:そしてなにより、自分自身がハンターとして狩猟の世界に飛び込んでみたら、私たち人間もまた動物の世界の一員であって、その大きな自然の中で生きている、生かされているんだ、ということが実感できました。
──認識が変わって、理解も深まって、ということなんですね。
中島さん:それに、農林業被害の現場で獣害対策などについて知るようになった最初のころには、よく「害獣駆除ではほとんどの肉が廃棄になってしまう」なんていう残念な話を聞いていたんですが、実際に地元のハンターさんたちにお会いしてみると、皆さん獲物をていねいに扱って、山の恵みとしてちゃんと食べているんだなあ、ということもわかってきました。
──ま、なにより美味しいですからね。
中島さん:もちろん捕獲した状況や処理場の条件もありますし、自家消費だとしても美味しく食べられるキャパシティの問題はあるわけですが、それでもやはり、自分の獲物は大切に、ムダなく活かしたいんですよね
──なるほど。で、初の獲物で、初の止め刺しから解体までを経験されたわけですが、実際のところはどんな感想でしたか?
中島さん:ああ……止め刺しにはなかなか苦労したわけですけれど、その獲物を解体していると、自分が止め刺しに失敗したムダな刃の跡を目の当たりにするわけで、とても申し訳ない気持ちになったんです。でもその一方では、私の中に初めての猟果を喜ぶ気持ちもあったわけで……まあ、涙とヨダレのどっちも流れている感じでしたね
──複雑な感情ですが、それが〈命と向き合う〉ということの本質なのかもしれませんね。
中島さん:いただいた命は大切にしたいし、だからこそなるべく苦しませずに止め刺しをしたい、と思っています。それに、もっと解体の技術を高めて、将来的には皮も使えるようになりたいですね。いまはまだ、剥皮の途中で穴を開けちゃったりもしていますので……。
──ハンターデビューからの短い年数でも、そこそこの猟果に恵まれ、経験値も上がってきた中島さんですが、ますます狩猟が面白くなってきているのではありませんか?
中島さん:実はいま、都心からもっと猟場の近くに引っ越したいと、夫婦で物件を探しているんです! 将来的には自宅で解体できるようにしたいな、なんて妄想しています。
──それは楽しみですね。お話、ありがとうございました。
東京の都心から小田原に通うハンターさん。家族は夫婦と猫2匹。港町の生まれで魚を扱うことには慣れていたものの、仕事で里山に出向くまで、狩猟に関する経験値はゼロだったとか。そして、鶏も締めたことがないままに、イノシシという大型哺乳類で初の〈止め刺し〉にチャレンジした。