さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 番外編 石崎英治さん  [その2]

ハンターバンクを狩猟初心者にこそオススメできる理由

いまやブームというよりも市民権を得た印象もある昨今のジビエ事情ですが、10年以上にわたってその最前線を走ってきた石崎さんは、全国の事例を数多く見てきた鳥獣被害対策のコンサルタントでもあります。そんな石崎さんが「これ、面白い!」と感じたハンターバンクの魅力のポイント、取り組みとしての強みはどこにあるのか、もう少し掘り下げて話していただきました。

──さて石崎さん、ハンターバンクというサービスを知った人の中には「そもそもなんで電鉄会社の小田急さんがハンターバンク?」と感じる向きも少なくないと思うのですが、そこはどんな経緯があったんですか?

石崎さん: まあ社外の人間として、という範囲の話になりますが、小田急電鉄の沿線で発生しているシカやイノシシの鳥獣被害に対して、地域貢献として課題解決に貢献したいということで社内プロジェクトが立ち上がって、私のところにも相談があったんですね。そこから鳥獣被害対策のコンサルタントとして意見交換しているうちに、コンセプトがどんどん面白く仕上がっていって、最終的には私自身もプロジェクトに参加することになった、という流れですね。

──ほかではあまり聞いたことのないサービスですよね?

石崎さん: そうですね、ハンターバンクって、いろいろとユニークな取り組みなんですよ。例えばいまサービスを展開している小田原のフィールドですが、ハンターバンクを導入したことで、そこでは会員のハンターさんと、場所を提供しているホストさんが、課題解決に対して同じ目線で話ができて、目標を共有できているんです。日本における狩猟って、法的に認められた資格や方法、期間であれば、市街地や公道、国立公園など狩猟が禁止されている場所でなければどこでも自由に狩猟ができる、というのが大原則なんです。つまり、狩猟者さんと土地の所有者さんがしっかりと話をする機会って、実はあまりなくて……そのために、狩猟者さんが勝手にわなを仕掛けたり、勝手に畑に入ったり……といったトラブルも起きていますし、逆に土地の所有者である農家さんの側でも、鳥獣被害対策が狩猟者さんや行政まかせになって、当事者なのに自助努力がなくて……といった課題もあるんですよね。

──まあ地元で顔見知りだったりはすると思いますが、それ以上である必要はない、ということですね。

石崎さん: それがハンターバンクだと、例えばホストさんがミカン農家だとすれば、どこにイノシシが出ているのかという話をするとき、ざっくりと「ミカン畑が掘り返されて困る」というレベルではなく、ミカン農家さんの目線から品種ごとの収穫期の違いによる対策ポイントの話なんかも聞けるわけです。いまの時期なら極早生を植えてあるエリアが狙われていて、その次は大津や青島の……これは私たちがミカンを食べるときにはあまり意識していない「温州みかん」の中の品種の話なんですが、そんな感じで理解が深まれば、ハンターさんの立場にすれば、季節が進むことで移動していくイノシシの出没ポイントがわかるということですから、箱わなを置くべき場所の精度も上がるわけですよね。地域住民である農林業者さんと、鳥獣被害対策の担い手でもある狩猟者さんの間では、そういうコミュニケーションってなかなか取れないんです。それが、ハンターバンクでは成立している。単なる狩猟者ではなく、ハンターさんが地域の農家の方々と同じ目標を共有する同志のような関係性を築けている、ということなんです。

──都市部から通ってくるハンターさんも多いと思いますが、地域との関係性を深め、近い距離感が持てるようになる取り組みなんですね。

石崎さん: まあ小田原のフィールドに関していえば、電車を降りた駅からも、高速道路を降りたICからも、実際にすごく近いんですけどね。

──そうですね。ところで〈狩猟〉って、ときには「動物がかわいそうじゃないか!」というようなご意見があったりもするんじゃないかと思うのですが、アドバイザーとしては、そこはどう受け止めているんですか?

石崎さん: まず、狩猟すなわち野生鳥獣の命を奪う行為に対して、それがかわいそうだとか、残酷だとかいう意見があることは理解できますし、否定するつもりもありません。その一方で、仕掛けた箱わなにイノシシが入って見事に捕獲できたときってうれしいものですし、その捕獲につながる工夫のあれこれも、楽しいものであるんです。それを〈食育〉として推進するわけでもありませんが、命をいただいて食べることで生きていくというのは動物として当たり前のことであり、その一方で私たち人間としては、そこに〈よろこび〉や〈楽しさ〉や〈美味しさ〉があり、そして〈悲しみ〉といった感情もあるということは、狩猟をしていると実感できるものです。個人的には、それを知る人が増えるというのも悪くないことだと思うんですよね。

──なるほど。たしかに、人間もまた生き物ですからね。

石崎さん: それに、いまも鳥獣被害の問題が解決していない以上、基本的には〈捕獲〉は続けていく必要があるわけです。そのためには、これからの捕獲の担い手として、新しい狩猟者は必要です。狩猟者を増やし、育てていく……というのはおこがましいのですが、途中で諦めずに、長く続けていってもらえないと、被害に悩んでいる農林業者さんも困るわけですよね。この鳥獣被害の問題は全国に共通する課題なんですが、前回の話でも触れたように、対策としてのジビエが成立する地域であれば、ジビエ生産を続けながら新しい狩猟者も増やせると思います。ところが全国のほとんどの地域では、捕獲頭数が少ないなどの理由で対策としてのジビエ生産が成り立たず、捕獲の担い手を増やすというところにもつながりません。しかし、そういった地域でも、というか、ジビエが解決策にならないそういった地域にこそ、ハンターバンクの仕組みは相性がいいと考えています。なんとか広げていけるといいな、という感じですね。

──ハンターバンク、全国に広がっていくといいですね。たまにワーケーションを兼ねて、旅先でひと月くらい箱わなをセットしたりして……。

石崎さん: それは夢のまた夢かもしれませんが、とにかくハンターバンクは狩猟をはじめること、狩猟を楽しむことのハードルを下げていると思います。なので、興味を持ったかたは、ぜひぜひ気軽に参加していただければ、と思います。まずは狩猟という行為を経験して、それを楽しんでもらうことで、その先にある鳥獣被害対策や地域の課題解決といったテーマも実感できるプログラムになっていると思います。私も全力でサポートしますので、ハンターになりたいと思った人は、オンラインや現地での説明会などで、なんでも聞いてみてください。もちろん、鳥獣被害に悩んでいるけどジビエはさすがに無理じゃないか、と考えている自治体の担当者の皆さんのご相談にも乗れると思います。

──心強いですね。今回はいろいろと掘り下げたお話がうかがえました。ありがとうございました。



石崎英治さん(いしざき・ひではる)
北海道大学の大学院まで林学に取り組んだものの、研究対象だった森がエゾシカに食べられて壊滅したことに衝撃を受け、今度はエゾシカ対策の研究を重ねた結果「美味しく食べて減らせばいいんだ」とジビエの生産を株式会社北海道食美樂(北海道新冠町)と株式会社おおち山くじら(島根県美郷町)で、ジビエの卸売業を株式会社クイージ(東京都日野市)で行う食いしん坊。鳥獣被害に苦慮する自治体のコンサルティングにも従事するかたわらで、ジビエの利活用を普及啓発するNPO法人伝統肉協会の理事長としても奮闘中。
一覧に戻る