さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。
ハンター体験記 番外編 石崎英治さん [その1]
ハンターバンクを狩猟初心者にこそオススメできる理由
狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも手軽に、そして安全に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。
さて今回は趣向を変えて、ハンターバンク事務局の石崎英治さんにお話をうかがいました。すでに活動されているハンターさんへのアドバイスをはじめ、説明会や解体講座などでのサポートなど、初めて狩猟を楽しむハンターさんにとっては頼れる相談役の石崎さんですが、実は根っからの狩猟者というわけでもなく……。ハンターバンクというサービスをどういう視点で捉えているのか、聞いてみました。
──ハンターバンクに参加している会員ハンターさんにとっては、捕獲にうまくこぎつけられない時に助言を受けたり、捕獲後の解体で困ったときに頼りになる相談役としてすっかりお馴染みの石崎さんですが、ここではまず自己紹介からお願いします。小田急電鉄の社員ではないと聞いていますが、どういうバックグラウンドをお持ちなんでしょう?
石崎さん: ひとことで言うと、ジビエの人で、鳥獣被害対策の人ですね。ハンターバンクの事務局としてハンターの皆さんとやりとりさせていただいていますが、鳥獣被害対策のコンサルティングや、島根県でイノシシ肉の生産を、北海道ではエゾシカ肉の生産をしている肉屋さんでもあります。
──もともとは趣味の狩猟としてこの道に入って、という感じなんですか?
石崎さん: いや、それが違いまして……北海道大学の大学院まで林学という林業の勉強をしていたんですが、研究フィールドにしていた森がエゾシカに食べ尽くされるという経験をして、森を守るという立場からエゾシカと向き合うようになったのがきっかけですね。で、増えすぎたエゾシカを減らさなければならないんだったら、せっかくだからそれを美味しく食べられるようにするのがいいんじゃないか、ということでジビエを扱うようになった、ということなんです。そういうことをもう10年以上やってます。
──10年以上となると、いわゆるジビエブームの先駆けでもあったわけですね。それがどうしてハンターバンク事務局に……。
石崎さん: きっかけは、狩猟の楽しい体験を広げることで地域の鳥獣被害対策を進めるというハンターバンクのコンセプトに共感したことですね。これまで長く、ジビエの利活用で鳥獣被害対策を進めてきたのですが、地域をさらに広げて、対策を続けていくことに、限界を感じていたんです。というのも、捕獲したエゾシカやイノシシをジビエとして利活用するのは、鳥獣被害対策の推進と、新しい事業を作るといった効果もありますが、ジビエ事業の採算性をとるのは難しいことなんです。地域内で一定以上の捕獲頭数がないと、採算は取れません。「この地域でもジビエをやりたい!」なんて地元の声でジビエ事業を開始する地域が少なくありませんが、いざやってみると捕獲頭数が足らなくて継続できないなんて話、あるんですよね。
──よその地域に成功事例があるからといって、簡単に真似ができることでもないんですね。
石崎さん: そんな中で、ジビエでは対策にならない地域に対して、都市部のペーパーハンター問題に着目し、都市部の狩猟免許保持者と鳥獣被害に悩む地域、お互いをマッチングすることでジビエではない解決策を提案してきたハンターバンクのコンセプトには、共感できるものがあったんですね。山賊ダイアリー、罠ガール、ゴールデンカムイなどなど、狩猟を扱うマンガが流行したからかも知れませんが、都市部では狩猟免許をとる若い方が増えています。とはいえ、せっかく狩猟免許を取ったのに、実際に狩猟に出ることがない、いわゆるペーパーハンターになってしまう方も多くいらっしゃいます。話を聞くと、狩猟する場所がない、狩猟する仲間がいない、スキルを教えてもらう機会がない。などなど、初めの一歩が踏み出せない方が多いんですね。
──それはもったいない話ですね。
石崎さん: そうなんですよ。鳥獣被害対策を考えたら狩猟者さんの絶対数も必要なんですが、それ以前に狩猟って、自分で自然から食べものを得ることであって、楽しく、うれしい体験であるはずなんですよね。山の獣と知恵比べをして、最初は見向きもされないわけですが、あるときその獣が自分の獲物に、山の恵みとしての〈肉〉になるわけです。そして、もちろん食べたらすごく美味しい! でもこれまでは、どうすれば捕獲の成功にたどり着けるのかわからないとか、それでもがんばって続けていると、どんどん大変なことが出てくるとか……初心者にはなかなか長い道のりだったりもしたのですが、ハンターバンクの仕組みなら、初心者でも十分に楽しく狩猟が体験できる。そこもいいな、と思ったんですよね。
──せっかく興味を持ったのだから、楽しくやりたいですよね。そのためのポイントって、どんなところなんでしょう。
石崎さん: そう、狩猟は楽しく、そして安全に、というのが大切なポイントです。狩猟初心者にとっては、狩猟道具はどういったものなのか、安全な道具なのか、どこで準備すればいいのか、どう扱えばいいのか、といった難しさがあることはイメージしやすいと思うのですが、実は狩猟をはじめてからも、どこにわなを置けばいいのか、それを見極めるのは大変なことなんですね。それに、獲物がかかって解体したら、そこで出たゴミはどうすればいいのか……。狩猟って、やってみないとわからないことも山ほどあるわけです。そこがハンターバンクだと、箱わなは用意されているし、解体時のきれいな水とゴミを回収するゴミ箱がついている解体小屋もあるし、どこに獲物が出没しているのかはホストさんが教えてくれる……、それでハードルはかなり下がるわけです。そもそも初めて獣と対決し、首尾よくわなにかけたとしても、そこから逃れようとする獣の激しい動きには、初心者はかなり驚かされるものだと思いますが、さまざまな狩猟方法の中でも、箱わなって最も安全な方法なんですよ。そうやって、やってみなければわからなかった狩猟のハードルを、先回りして下げておく。狩猟免許の取得後にさまざまな壁にぶつかって辞めてしまう若手の狩猟者さんが少なくないという課題に対しては、これから狩猟をしてみよう、と思った人に向けて「こんなはずじゃなかった」という結果にならないような仕組みを整えておくのは、大切なことだと思います。狩猟の楽しさを安全に味わってもらう工夫を用意しておく。そこがすごいんですよ、ハンターバンクって。
──なるほど。ハンターバンク、狩猟がテーマでワイルドなように見えますが、安全に楽しくを実現するために、先手先手で工夫をしているんですね。
石崎さんのお話は[その2]へと続きます。
北海道大学の大学院まで林学に取り組んだものの、研究対象だった森がエゾシカに食べられて壊滅したことに衝撃を受け、今度はエゾシカ対策の研究を重ねた結果「美味しく食べて減らせばいいんだ」とジビエの生産を株式会社北海道食美樂(北海道新冠町)と株式会社おおち山くじら(島根県美郷町)で、ジビエの卸売業を株式会社クイージ(東京都日野市)で行う食いしん坊。鳥獣被害に苦慮する自治体のコンサルティングにも従事するかたわらで、ジビエの利活用を普及啓発するNPO法人伝統肉協会の理事長としても奮闘中。