さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.8 高波健一さん [その1]

イノシシから守りたかったのは、
畑ではなく、うちのワンちゃんでした。

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回ご登場いただく高波健一さんは、ハンターバンクのフィールドよりも標高の高い、もっと山を上がった箱根から小田原に通っています。これまでお話をうかがったハンターの皆さんとは動きが逆になっているわけで、山に住んでいるなら近所で狩猟ができるのでは、と思ったのですが、そこには全く興味がなかった高波さん。それがなぜハンターバンクに参加したのかというと……。

──早速ですが高波さん、今回このお話をうかがうにあたって気になったのは、箱根にお住まいで、箱根からハンターバンクの小田原に通って狩猟をされている、ということだったんです。で、失礼ながら箱根って、小田原よりもだいぶ……山ですよね?

高波さん: 山ですねえ。山の中です。生まれも育ちも箱根なんですが、ウチの周りには平らなところがない感じですね。小田原のほうが街場です。

──狩猟に関する興味はどんなところから?

高波さん: いえいえ、狩猟のことなんて知りませんでしたし、興味もありませんでした。ただ、家の近くでもイノシシが出てまして、ゴミ箱が荒らされたり……。それに、犬を飼っているんですけど、散歩をしているときにイノシシが出て、ワンちゃんが襲われそうになったことがあったんですよ。

──うわっ! それ、怖かったですね。

高波さん: 怖かったですねえ。いきなり現れて、10メートルぐらい先から突進してきたんです。こちらも慌てて「こらーっ!」っと大きな声を出したら、2メートルぐらいのとこで逃げて行ったんですが、結構これ危ないな、と思っていて。野生鳥獣被害って聞いても、その印象しかなかったですね。

──それがなんでハンターバンクに……。

高波さん: イノシシにワンちゃんが襲われそうになって、そいつが逃げていかなかったら、まあやっつけるしかないわけですよね。で、もしそのイノシシを倒したら、そのイノシシどうすればいいんだろう、と思ったんです。自分じゃなにもできないし、処理に困るよな、と。そんなとき、ワンちゃんの写真を投稿しているSNSがあるんですが、そこにハンターバンクの広告が出てきたんです。それがなんだか面白そうで、しかも小田原なら近くて、ウチからクルマだと30分もかからないくらいの距離なんですよ。ハンターバンクだと、自分たちで箱わなを設置できて、自分たちでイノシシを処理して、料理して食べるまでを体験できるということで、入門プランという3カ月のお試しコースに参加してみたんですよね。

──なかなかユニークなきっかけですね。箱根の場所柄だと、近所にもハンターさんがいたりするんじゃないかと思うんですが、そういうつながりはなかったんですか?

高波さん: いや、それまでは興味がないというか、縁のない世界だったので知らなかったわけですけれど、ハンターバンクを始めてから、そういうアンテナが敏感になったというか……。同級生が銃で狩猟してたり、役場の人が紹介してくれたり、逆に「狩猟する人が足りないんで手伝ってくれないか?」とか言われたり……探してみると、身近なところにもハンターさん、結構いたんですよ。

──先ほどの「もし出くわしたイノシシをやっつけちゃったらどうしよう」という話ですけど、その時点では「イノシシを食べたい」という発想はなかったんですか?

高波さん: 散歩の途中で出くわしたイノシシに突進された時は、それどころじゃなかったので……。でもまあ、そのときから「どうすればいいのかな」と考えていたことへの答えが、ハンターバンクで見つかりそうだったんです。

──それで、まずは「入門プラン」でハンターバンクに参加してみたら、お試しの3カ月の間にめでたく捕獲があったわけですね。

高波さん: そうなんです。ちょうど縞模様が消えたくらいの子どものイノシシだったみたいですね。もう年末の28日で、次の日には解体小屋も閉まっちゃう、というタイミングで、ギリギリでしたね。

──それはラッキーでしたね。そのときは止め刺しから解体まで、実際にご自身で作業されたんですか?

高波さん: はい、5人のチームで、みんなやりたがっていたんですけど、ジャンケンに勝って自分が止め刺しをしました。止め刺しなんて初めての経験だったんですけど、その前にハンターバンクの解体体験にも参加していたので、剥皮とかバラシとか、全体の作業としてはわりとスムーズにできました。ただ止め刺しは、考えていたよりもイノシシのカラダは硬かったな、という感じでしたね。もっとサクッといけるものかと思っていたんですよ。それから内臓摘出なんですが、解体体験で用意されていたイノシシは内臓も抜いてあって、カラダも冷めていたわけですけど、自分で止め刺しをしたイノシシの内臓は温かくて、臭いも感触もリアルだったわけで、それが気持ち悪いとは思わなかったんですが、なるほどこういう感じなのか、と思いましたね。

──それまで鶏を締めたり、といった経験はあったんですか。

高波さん: いや、そういうのはないですね。というか、魚もヌルヌルして触るのイヤなんですよ。小学生のころはミミズとか捕まえてたんですけど、大人になって……30歳を過ぎたころからは、もう虫も触るのがイヤになってましたね。

──じゃあイノシシの止め刺しなんて、結構な冒険でしたね。

高波さん: そう……なんですけど、なんか、別に苦もなくできましたね。なんというか……頭を切り離した時点で、もう肉に見えてましたね。目が合わなくなったら、自分の中では肉になってたんです。

──で、その肉を5人で山分けにして、持って帰って料理して食べたと思うんですけれど、どうでした?

高波さん: それがですね……あの、前にどこかの飲食店でイノシシ肉の料理を食べたとき、それが固くて、あまり美味しくなかったんですよね。そのイメージがあったんで、今回の獲物のイノシシも焼き肉とかで食べるつもりはなくて、干し肉にしたんです。適当に切って2〜3日かけて干した肉を、大きな寸胴鍋に網の棚を5段ぐらい作って並べて、薪ストーブの上で火を入れたんです。自分の分と犬の分、しょっぱいヤツと味のないヤツを作りました。

──全部それにしちゃったんですか?

高波さん: 全部です。美味しくない、ってイメージがあったんで、カレーとか肉じゃがみたいなこともなく、干し肉に……。ハンターバンクでバーベキューしたときのイノシシは、すごく美味しかったんですけど、あれは熟成とか、そういう特別な処理が効いていて美味しかったのかな、とか思いまして……。

──なるほど。で、その干し肉の仕上がりはどうだったんですか?

高波さん: ワンちゃんは、もう唸りながら食べてましたね。美味しかったんでしょうね。で、人間用の干し肉は、味付けが難しかった! 何回かに分けて作ったんですけど、結局は市販の焼肉のタレに漬けたのがいちばん美味しかったですね。ただ、バーベキューのときに食べた脂身の部分がすごく美味しかったのに、網で火入してたら脂はほとんど下に落ちちゃってたのは残念でした。

高波さんのお話は[その2]へと続きます。



高波健一さん(たかなみ・けんいち)
生まれも育ちも、さらには仕事も地元、という箱根っ子。もともと狩猟に興味はなかったものの、増えすぎたイノシシは、気がついたらすぐそばに迫ってきていました。そんなドッキリ体験からハンターバンクを見つけた高波さんの目標は、自宅の近くにも箱わなを置くこと。ワンちゃんとの散歩の平和のためにも(そして美味しい干し肉のためにも!)ハンターバンクで修行中です。
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