狩猟は「勘」だけではない。再現できる技術である
ベテランの「勘」は、どこから生まれるのか

ベテランのハンターと山を歩いていると、「このあたりに箱わなを置けば捕れるよ」と教えてもらうことがあります。
なぜ、そこがよいのか。
尋ねてみると、「獣が通りそうだから」「この地形なら来ると思う」といった答えが返ってくることがあります。
もちろん、当てずっぽうで言っているわけではありません。
動物の足跡や獣道、周辺の地形、エサとなる植物、過去の経験など、さまざまな情報をもとに判断しているはずです。
ただ、長年の経験によって身についた判断ほど、言葉で説明するのは難しいものです。
教わる側も、最初は何を見ればよいのか分かりません。
それでは、自分で同じように判断できるようになるまで、長い経験が必要になってしまいます。
ハンターバンクでは、こうしたベテランの経験や勘を否定するのではなく、できるだけ言葉にして、誰もが学べる技術にしていきたいと考えています。

狩猟を、観察と試行錯誤の積み重ねにする
野生動物を捕獲するには、まず動物の行動を知る必要があります。
どこを通っているのか。いつ現れるのか。何を食べているのか。箱わなを警戒していないか。
こうした情報を集め、捕獲までの方法を考えていきます。
ハンターバンクでは、箱わなの周辺にトレイルカメラを設置し、動物の行動を観察しています。
会員が山に行けない日でも、カメラが撮影した画像を確認できます。
さらに、現地での見回りでは、カメラに映らない場所の足跡や掘り返し、エサの食べられ方などを確認します。
カメラと現地、それぞれで得られる情報を組み合わせることで、動物の行動をより詳しく理解できるようになります。
例えば、箱わなの入口まではイノシシが来ているのに、中には入らないとします。
警戒しているのかもしれません。エサの置き方に問題があるのかもしれません。
そこで仮説を立て、エサの配置を変えてみる。そして、翌日以降のカメラ画像で反応を確かめる。
一度でうまくいくとは限りませんが、こうした試行錯誤を繰り返すことで、次に何をすればよいのかが少しずつ見えてきます。
圧倒的な経験量を、みんなで共有する
ハンターバンクの大きな特徴の一つは、複数の地域で、多数の箱わなを運用していることです。
一人のハンターが週末に一つの箱わなを管理する場合と比べれば、組織全体で観察できる動物の行動や、試すことのできる方法の数は大きく異なります。
しかも、トレイルカメラによって日々の変化を確認できます。
昨日は箱わなの近くまでしか来なかったシカが、今日は入口まで来ている。数日前には警戒していた個体が、少しずつ奥へ入るようになる。
こうした変化を継続的に追いかけられることは、捕獲方法を考えるうえで大きな強みです。
例えば、八王子と富津では、地形も植生も動物の行動も異なります。



同じ方法がどこでも通用するとは限りませんが、地域ごとの違いを比較することにも意味があります。
ある場所でうまくいった方法を、別の場所でも試してみる。
うまくいかなければ、何が違うのかを考える。
一人では経験できない数の事例を、ハンターバンク全体で積み重ねることができるのです。
一人では気づかないことも、みんなで見れば気づく
もう一つの特徴は、同じ情報を複数人で観察していることです。
ハンターバンクでは、トレイルカメラの画像や現地見回りの結果をSlackで共有し、会員同士で捕獲に向けた作戦を考えます。
面白いのは、同じ画像を見ても、人によって気づくことが違うことです。
経験が豊富な人は動物の姿勢や動きから警戒心を読み取るかもしれません。
初心者は、ベテランが気にも留めなかったことに疑問を持つかもしれません。
別の地域で捕獲経験のある会員から、違った方法が提案されることもあります。
「どうして、このイノシシは箱わなに入らないんでしょう?」
「エサをもう少し奥に置いたらどうでしょう?」
「別の箱わなでは、こんな方法でうまくいきましたよ」
一人では思いつかなかった仮説が、会話の中から生まれてきます。
初心者だからといって、観察する力がないわけではありません。むしろ、経験が少ないからこそ気づくこともあります。
ハンターバンクでは、教える人だけが答えを持っているわけではないのです。

教えることで、教える側も成長する
人に教えることも、技術を磨くうえで大切な機会です。
例えば、経験豊富なハンターが「この場所なら捕れる」と判断したとします。
ところが、初心者から「なぜ、この場所なんですか?」と聞かれると、その理由を言葉にしなければなりません。
獣道が交差しているからなのか。近くにエサとなるものがあるからなのか。動物が警戒せずに通れる地形だからなのか。
普段は無意識に行っている判断でも、説明しようとすると、その根拠を改めて整理することになります。
ときには、説明してみて初めて、自分でもよく分かっていなかったことに気づくかもしれません。
そこから新しい観察や検証が始まります。
教えることは、自分の経験を言葉にし、自分自身の理解を深めることでもあります。
そして、言葉になった経験は、ほかの人にも伝えられるようになります。
一人のハンターの中にあった知識が、チームで共有できる知識へと変わっていくのです。

「よせ・さそい・しとめ」も、技術を共有するための言葉
ハンターバンクでは、箱わなによる捕獲を「よせ・さそい・しとめ」という三つの段階に分けて考えています。
「よせ」は、動物を箱わなの周辺に寄せる段階。
「さそい」は、動物を箱わなの中へ誘導する段階。
「しとめ」は、仕掛けを使って実際の捕獲につなげる段階です。
例えば、動物が箱わなの周囲に現れないのであれば、「よせ」に課題があるのかもしれません。
周辺には来ているのに、中に入らないのであれば、「さそい」の方法を考える必要があります。
箱わなの奥まで入っているのに捕獲できないのであれば、「しとめ」の仕掛けや設定を確認することになります。
「なかなか捕れない」という一つの問題も、段階を分ければ、何を改善すればよいのかを具体的に話し合えるようになります。
このように、捕獲のプロセスを分解し、共通の言葉を使うことも、狩猟技術を共有するための工夫です。
捕れなかった日にも、価値がある
もちろん、野生動物は人間の思いどおりには動きません。
同じ場所に箱わなを置き、同じエサを使っても、必ず同じ結果になるとは限りません。
けれども、捕獲できなかったことが、何も得られなかったことを意味するわけではありません。
動物が来なかったのか。近づいたけれど警戒していたのか。中に入ったけれど仕掛けが作動しなかったのか。
原因を考え、次の方法を試すことができれば、その経験は次の捕獲に活かせます。
狩猟を再現できる技術にするとは、同じことをすれば必ず捕れるようにすることではありません。
状況を観察し、仮説を立て、試し、結果を検証する。その方法を誰もが学び、繰り返せるようにすることです。
ベテランが長い時間をかけて培ってきた経験は、狩猟の大切な財産です。
ハンターバンクでは、その経験を一人の勘の中だけにとどめず、言葉にして、みんなで共有し、さらに磨いていきたいと考えています。
昨日まで教わっていた人が、今日、新しい発見をするかもしれません。
その発見が、別の誰かの捕獲につながるかもしれません。
一人の経験を、みんなの技術にしていく。
それが、ハンターバンクの目指す狩猟のあり方です。
ハンターバンクでは、初心者が現場を理解しつつわかりやすい説明会や会員向けの情報発信を行っています。
狩猟や獣害対策に関心がある方、現場を見ながら学んでみたい方は、ぜひご参加ください。
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