さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.7 松本吉保さん [その2]

丸ごと美味しく食べるなら、自分の手で
──それもハンターバンクの魅力です。

念願がかなって自分の手でイノシシを解体し、肉にして食べることができた松本さんですが、自分の手で獲物を仕留めた、という感覚よりも、もっとああしたい、こうしたかったという反省の色が強かったそうです。そこには〈美味しく食べる〉ことへのご自身の情熱だけでなく、父親としての〈食育〉にかける想いもあるようで……。

──山の恵みをめでたく自分の獲物として手に入れて、そこから自分の手で肉にしたものを食べるということができたんですけれども、実際にそれを食べてみて、どうでした?

松本さん: 美味しかったですよ、もちろん。獲れたこともうれしかったですし、止め刺しから解体して肉にするのはやりたかったんで、それを自分の手でやる機会を得て、よかったですね。もっと美味しく食べたいので、ちゃんと脂をたくさん残したいとか、肉を切り分ける場所とか、もっと勉強したいな、というのはありますけどね。より効率的なナイフの使い方があるんだろうなと思って、そこら辺を勉強したいと思いました。

──今回のイノシシは自分で解体したわけですけど、買うにしても、ハンターさんからもらうにしても、普通はモモとかロースとかバラバラで来るところが、今回は丸ごと手に入ったわけですよね。どこの部位でも食べられる、という状態になったと思うんですけど、どこを食べました?

松本さん: あの時は料理がうまい仲間もいたので、アバラは骨付きで、スペアリブで食べました。あとは塩だけで焼いて食べるとか、煮込みみたいにして食べました。それとレバーもハツも、大体は焼いて食べましたね。それから脚を1本もらってるんで、ちょっと生ハムでも作ってみようかと思って。

──松本さん、内臓を食べたいとおっしゃってましたけど、大腸や小腸、いわゆる「もつ」類はどうしました?

松本さん: そこは本当はやりたかったんですけどね、時間がなくて断念しました。内臓の中でも、もつは、そのまま家に持って帰るのではなく、捕獲現場の近くに処理ができる環境がないと無理だろうと思うんで、解体小屋の水場のところで全部やりたいですけどね。1時間とか2時間とか、もつの処理だけで現地で時間がとれればいいんでしょうけど……。あの日も、初めは13時に集合です、みたいな連絡だったのが、もうちょっと早いほうがいいという話になって、11時半ぐらいに変更になったんですけど、それでも皮を剥いで、肉を取ったら、もう時間はギリギリで、イノシシを丸ごと食べようと思ったら、作業のスピードも要求されるんですよね。

──いかに早く止めて、いかに早く内臓を出して、いかに早く皮を剥いで……なんか、食いしん坊トークではあるんだけど、ただの食いしん坊とちょっと違うな、という感じがしますね。

松本さん: そうかもしれませんね。家でも魚はよく捌きますけど、捌いたからOKなのではなく、本当に美味しく食べられないと意味がないと思っているので、自分で肉にしたから、ということよりも、それが美味しい肉になっていたかのほうが大事なんですよね。もしかしたら最初のころに、丸ごとの魚を捌いて刺身にしたときには「お、やったぜ!」なんて思っていたかもしれませんけど、もうとっくに忘れちゃいました。

──捕った肉を持って帰って、ご家族で食べられたと思うんですが、反応はいかがでした?

松本さん: 妻には「臭くないの?」とは言われました。食べたら「美味しい!」と言ってましたけどね。翌日からは肉じゃがになったり、ホイコーローになったり、いろんな料理にしてくれて、毎日食べてます。

──じゃ「がんばってもっと獲ってきてね」という感じに……。

松本さん: なってないですね。家の冷凍庫もいっぱいだから……。

──お子さんはどうでした?

松本さん: 美味しい!と言って食べてましたね。子どもにはいい食育をしてあげたいな、というのがあって、ブタやウシだけではなく、いろいろな種類の肉を食べさせたり、カモなどでは内臓を含めた丸ごとの食材を見せたりもしているんです。それで、自分でも勉強して食育関連の資格も取ってみたんですけど……やはり座学だけじゃダメだなと思ったんで、勉強は勉強として、子どもには食べた魚の絵を描かせたりとか、やっていましてね。魚を1匹調達したら、ちゃんと絵を描かせて、長さと重さと住処と料理方法と味と、というフォーマットを作って、最後は食べた感想も書いて、5つ星で評価するんですけど、そういうことをやっていくと魚の種類も覚えるんです。私も妻も台所に立つわけですが、子どもも自然と台所に立つようになってきましたね。

──ああ、いいですねそれ。

松本さん: 子ども用の包丁を買い与えていたのですが、ある時、普通に出刃で三枚おろしをしようとしてたんで、ちゃんと教えました。今は魚も捌き始めている感じなんです。この間の解体体験でも普通に猪の首に包丁を入れてたんで、まあ順調、って感じですね。
(ここでリモート取材の様子を息子さんがのぞきに来ました)

──こんにちは、今お父さんからいろんなお肉を食べたことがあるという話を聞いたんだけど、どの肉がいちばん美味しかった?

息子さん: いちばん、を決めるのは難しいけど……ウマの肉、アナグマの肉、カモの肉、イノシシの肉。あ、ヒツジも好き。

──すごいね。じゃあ、お父さんの獲ったイノシシを食べてみて、どうだった。他のお肉と比べて……。

息子さん: 他の肉より脂が美味しかった!

松本さん: そう、脂がサクサクして甘いって言ってたよね。よかった。いい食育してると思いませんか?

──すばらしいですね。ところで、ハンターバンクでこれからまたイノシシが獲れてくればどんどんいろんなことができる、という状況だと思うんですけれども、実際に箱わな猟をしてみて、改善したいところって、なにかありましたか?

松本さん: いや、現場ではまだちょっと思いついてないですね。もっとヌカをがんがん撒けばイノシシが来るのか、そこもちょっと分かってないんですけど……本当は月いちで3頭ぐらい獲れると最高だろうな、と思いますけどね。そしたら止め刺しとか内臓を出すとか、枝肉にばらすとか、技術も向上するんじゃないかと思います。とはいえやっぱりみんな社会人なので、必ずしもすぐ休みが取れて集合できるという人ばかりじゃないんです。捕獲の頻度が上がればみんなに解体の機会ができて、もっといい体験ができるんじゃないかなと思いますので、そこもまた勉強、ですね。でもまあ、十分に楽しめてると思います。

──あとハンターバンクでの活動、あるいはハンターバンクを通じてご自身の個人的な活動としてでもいいんですけれども、次はどんな風にしてみたいですか、というのを最後にうかがいたいのですが……。

松本さん: あの、トレイルカメラによく、キジが映ってるんですよ。昔、子どものころに食べたきりなんで、あれもちょっと食べたいな、とは思ってます。

──ですね。ありがとうございました。



松本吉保さん(まつもと・よしやす)
魚も鳥も丸ごと、内臓までとことん食べたい!という食いしん坊の鑑。いずれは大きな獣も自分の手で、と思っていたところにハンターバンクへの誘いがあって、ついにイノシシの解体も経験。念願はかなったものの、そこにはまだまだ反省すべき点があったと、勉強の道は続きます。家庭では実践的な食育の道も模索していて、息子さんの将来も期待できそうです。
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