さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.3 池渕隆志さん

夢の田舎暮らしが〈田舎過ぎ〉ても、
ハンターバンクで準備万端でした。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

今回ご登場の池渕隆志さん、ハンターバンクに参加した時点ではご本人は都市生活者なのですが、すでに田舎で家を手に入れていて、ご家族は田舎に、ご本人は東京で単身赴任の状態でした。で、その家が、出るんです……イノシシとかウサギとか、とにかく害獣だらけ。そんなわけで、実際の猟果だけでなく、小田原のフィールドから田舎の我が家の庭先や裏山に持って帰れる〈学び〉の大きなハンターバンク体験になったそうです。

──小田急ハンターバンクに参加しているハンターさんは、基本的には日常を都会で働き、休みの日に猟場に繰り出す都市生活者の皆さんなのですが、池渕さんは都心が自分ひとりの仮住まいで、ご家族は田舎のご自宅にいらっしゃるんですね?

池渕さん:そうなんですよ。実は以前に、義父の介護というものを経験しまして、最初は東京から群馬まで妻と通ったんですが、それがなかなか大変で……。子どもたちも独立しているんだし、どこか近くでアパートでも借りたほうがいいかな、なんて話していたのが、運転しながら眺める景色に、なんだか「このあたりで家を探す、ってのもいいかもね」という流れになりまして、それが道中の埼玉の田舎で、現地の不動産屋さんにいくつか案内してもらった物件の中で気に入ったのが、高台の一軒家だったんです。

──ゆくゆくは夢の田舎暮らし、という憧れのライフスタイルが、期せずして前倒しになった……というわけですね。

池渕さん:まだ会社勤めをしていましたから、スタートは自分だけが東京に残る二拠点生活になりましたけどね。田舎の家には、独立していた娘のひとりも戻ってきていて、自分は週末に田舎の我が家に帰る、という感じですね。

──で、その我が家が、そこそこ田舎だそうで……。

池渕さん:いやあ、出るんですよ、獣が。家庭菜園でなにか植えても、すぐイノシシに穴を掘られるし、菜っぱの芽が出ればウサギにやられるし、果物が実れば鳥にやられるし……あ、タヌキも出ますし、屋根裏にはネズミもいますし、獣じゃないけどハチもいます。その時点では狩猟がしたくて田舎に家を買ったわけでもないので、獲る、獲らないの前にまず、野生の生き物たちについて学ばなければならない状況があったんです。もちろん自分の家ですから、将来的には自力でなんとかしたい、とは思いましたけどね。


──それはなかなかの田舎っぷりですね。

池渕さん:なにせ裏山に森がついている物件でしたからね、否応なしに〈森〉というものへの意識も高まっていたわけでして、朝活の勉強会を見つけて、それが森について学ぶ機会になったんですが、森のことを考えるなら野生鳥獣に関わる課題も避けては通れないわけで、そこからジビエに対する興味も増してきまして……。食べることは好きなので、それ以前にもシカやイノシシを食べる機会はあったんですが、自分の中でその意味みたいなことがスッとつながったという感じでした。そんなわけで、裏山に森を抱えた自分の家での暮らしにはどんな課題があるのかを学んでいったら、そのキーワードのひとつが〈狩猟〉だったんです。

──なるほど。それで狩猟免許を……。

池渕さん:まずは勉強して試験に臨み、無事に狩猟免許を取得しました。でもまあ、狩猟免許を取ったというだけでは、まさにペーパーハンターで、実質なにもできないわけですよ。意気込んで「田舎の家の暮らしを守る!」といっても、いざ我が家の家庭菜園や裏山の森を眺めたところで、どこから獣がやってくるのかわからないし、どこにどんなわなを仕掛ければいいのかも見当がつかない。そんなときに、ハンターバンクというものを知ったんです。これに参加すれば小田原のフィールドに自分の猟場ができて、自分のわなが持てて、狩猟についてのノウハウを学べて、しかもあれこれ試せるなんて渡りに船だ!と説明会に参加したのが年の暮れで、年明けすぐにはハンターバンクでの活動をスタートしていましたね。

──即断即決ですね。まさに「求めていたものがあった!」という感じだったんですね。

池渕さん:そこから夏までの間に、イノシシのオスの成獣が1頭と、幼獣が1頭、わなにかかったんです。最初のイノシシは3年目か4年目くらいの若いオスだったんですが、40キロか50キロくらいありまして、止め刺しは別のメンバーがやってくれたのですが、横で見ていてもまあ、たいへんでした。それからサポートハンターさんに指示をもらいながら、自分たちで内臓摘出やら剥皮やら解体やら、とにかく大仕事になりましたね。でも、そんな猟果に恵まれて、自分の獲物としての肉を手に入れたのもよかったんですが、自分としてはそれ以上に大きな学びを得た、と感じているんです。

──そこが田舎の我が家に持って帰れるノウハウ、というわけですね。

池渕さんのお話は[その2]へと続きます。

  

池渕隆志さん(いけぶち・たかし)
縁あって手に入れた北関東の田舎の家が、暮らしてみたら野生鳥獣の天国だった!という新米ハンターさん。家庭菜園を作ったからには、野菜も果物も獣たちにやられっぱなしではいられないということで、狩猟免許を取得。田舎の家の暮らしを守るための知識と技術と経験を身につけるべく、ハンターバンクでいい修行ができたそうです。

 

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