お知らせ - ハンターバンク

お知らせ

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 番外編 石崎英治さん

ハンターバンクを狩猟初心者にこそオススメできる理由 [その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも手軽に、そして安全に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回は趣向を変えて、ハンターバンク事務局の石崎英治さんにお話をうかがいました。すでに活動されているハンターさんへのアドバイスをはじめ、説明会や解体講座などでのサポートなど、初めて狩猟を楽しむハンターさんにとっては頼れる相談役の石崎さんですが、実は根っからの狩猟者というわけでもなく……。ハンターバンクというサービスをどういう視点で捉えているのか、聞いてみました。
──ハンターバンクに参加している会員ハンターさんにとっては、捕獲にうまくこぎつけられない時に助言を受けたり、捕獲後の解体で困ったときに頼りになる相談役としてすっかりお馴染みの石崎さんですが、ここではまず自己紹介からお願いします。小田急電鉄の社員ではないと聞いていますが、どういうバックグラウンドをお持ちなんでしょう?
石崎さん: ひとことで言うと、ジビエの人で、鳥獣被害対策の人ですね。ハンターバンクの事務局としてハンターの皆さんとやりとりさせていただいていますが、鳥獣被害対策のコンサルティングや、島根県でイノシシ肉の生産を、北海道ではエゾシカ肉の生産をしている肉屋さんでもあります。
──もともとは趣味の狩猟としてこの道に入って、という感じなんですか?
石崎さん: いや、それが違いまして……北海道大学の大学院まで林学という林業の勉強をしていたんですが、研究フィールドにしていた森がエゾシカに食べ尽くされるという経験をして、森を守るという立場からエゾシカと向き合うようになったのがきっかけですね。で、増えすぎたエゾシカを減らさなければならないんだったら、せっかくだからそれを美味しく食べられるようにするのがいいんじゃないか、ということでジビエを扱うようになった、ということなんです。そういうことをもう10年以上やってます。

──10年以上となると、いわゆるジビエブームの先駆けでもあったわけですね。それがどうしてハンターバンク事務局に……。

石崎さん: きっかけは、狩猟の楽しい体験を広げることで地域の鳥獣被害対策を進めるというハンターバンクのコンセプトに共感したことですね。これまで長く、ジビエの利活用で鳥獣被害対策を進めてきたのですが、地域をさらに広げて、対策を続けていくことに、限界を感じていたんです。というのも、捕獲したエゾシカやイノシシをジビエとして利活用するのは、鳥獣被害対策の推進と、新しい事業を作るといった効果もありますが、ジビエ事業の採算性をとるのは難しいことなんです。地域内で一定以上の捕獲頭数がないと、採算は取れません。「この地域でもジビエをやりたい!」なんて地元の声でジビエ事業を開始する地域が少なくありませんが、いざやってみると捕獲頭数が足らなくて継続できないなんて話、あるんですよね。

──よその地域に成功事例があるからといって、簡単に真似ができることでもないんですね。

石崎さん: そんな中で、ジビエでは対策にならない地域に対して、都市部のペーパーハンター問題に着目し、都市部の狩猟免許保持者と鳥獣被害に悩む地域、お互いをマッチングすることでジビエではない解決策を提案してきたハンターバンクのコンセプトには、共感できるものがあったんですね。山賊ダイアリー、罠ガール、ゴールデンカムイなどなど、狩猟を扱うマンガが流行したからかも知れませんが、都市部では狩猟免許をとる若い方が増えています。とはいえ、せっかく狩猟免許を取ったのに、実際に狩猟に出ることがない、いわゆるペーパーハンターになってしまう方も多くいらっしゃいます。話を聞くと、狩猟する場所がない、狩猟する仲間がいない、スキルを教えてもらう機会がない。などなど、初めの一歩が踏み出せない方が多いんですね。

──それはもったいない話ですね。

石崎さん: そうなんですよ。鳥獣被害対策を考えたら狩猟者さんの絶対数も必要なんですが、それ以前に狩猟って、自分で自然から食べものを得ることであって、楽しく、うれしい体験であるはずなんですよね。山の獣と知恵比べをして、最初は見向きもされないわけですが、あるときその獣が自分の獲物に、山の恵みとしての〈肉〉になるわけです。そして、もちろん食べたらすごく美味しい! でもこれまでは、どうすれば捕獲の成功にたどり着けるのかわからないとか、それでもがんばって続けていると、どんどん大変なことが出てくるとか……初心者にはなかなか長い道のりだったりもしたのですが、ハンターバンクの仕組みなら、初心者でも十分に楽しく狩猟が体験できる。そこもいいな、と思ったんですよね。

──せっかく興味を持ったのだから、楽しくやりたいですよね。そのためのポイントって、どんなところなんでしょう。

石崎さん: そう、狩猟は楽しく、そして安全に、というのが大切なポイントです。狩猟初心者にとっては、狩猟道具はどういったものなのか、安全な道具なのか、どこで準備すればいいのか、どう扱えばいいのか、といった難しさがあることはイメージしやすいと思うのですが、実は狩猟をはじめてからも、どこにわなを置けばいいのか、それを見極めるのは大変なことなんですね。それに、獲物がかかって解体したら、そこで出たゴミはどうすればいいのか……。狩猟って、やってみないとわからないことも山ほどあるわけです。そこがハンターバンクだと、箱わなは用意されているし、解体時のきれいな水とゴミを回収するゴミ箱がついている解体小屋もあるし、どこに獲物が出没しているのかはホストさんが教えてくれる……、それでハードルはかなり下がるわけです。そもそも初めて獣と対決し、首尾よくわなにかけたとしても、そこから逃れようとする獣の激しい動きには、初心者はかなり驚かされるものだと思いますが、さまざまな狩猟方法の中でも、箱わなって最も安全な方法なんですよ。そうやって、やってみなければわからなかった狩猟のハードルを、先回りして下げておく。狩猟免許の取得後にさまざまな壁にぶつかって辞めてしまう若手の狩猟者さんが少なくないという課題に対しては、これから狩猟をしてみよう、と思った人に向けて「こんなはずじゃなかった」という結果にならないような仕組みを整えておくのは、大切なことだと思います。狩猟の楽しさを安全に味わってもらう工夫を用意しておく。そこがすごいんですよ、ハンターバンクって。

──なるほど。ハンターバンク、狩猟がテーマでワイルドなように見えますが、安全に楽しくを実現するために、先手先手で工夫をしているんですね。
石崎さんのお話は[その2]へと続きます。

石崎英治さん(いしざき・ひではる)

北海道大学の大学院まで林学に取り組んだものの、研究対象だった森がエゾシカに食べられて壊滅したことに衝撃を受け、今度はエゾシカ対策の研究を重ねた結果「美味しく食べて減らせばいいんだ」とジビエの生産を株式会社北海道食美樂(北海道新冠町)と株式会社おおち山くじら(島根県美郷町)で、ジビエの卸売業を株式会社クイージ(東京都日野市)で行う食いしん坊。鳥獣被害に苦慮する自治体のコンサルティングにも従事するかたわらで、ジビエの利活用を普及啓発するNPO法人伝統肉協会の理事長としても奮闘中。

ハンター体験記

テレビでハンターバンクを取り上げていただきました。

2023年5月23日(火)のBSよしもと「ワシんとこ・ポスト」の「ワシんとこヘッドライン」コーナーでハンターバンクを取り上げていただきました。
見逃し配信で全編ご覧いただけます(会員登録無料)。
 

その他メディア掲載情報

わなの中のイノシシを観察する男性

日本農業新聞でハンターバンクを取り上げていただきました。

わなの中のイノシシを観察する男性
2023年4月14日付の日本農業新聞1面にて、ハンターバンクを取り上げていただきました。
記事はこちらでご覧いただけます。
 

その他メディア掲載情報

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.8 高波健一さん

イノシシから守りたかったのは、畑ではなく、うちのワンちゃんでした。 [その2]

入門プランの3カ月の間にもめでたく猟果に恵まれて、止め刺しから解体までひと通りの経験を積むことができた高波さん。もともと興味もなかった狩猟だったのに、始めてみたらいつの間にか次の目標が、そのまた次の目標が、と浮かび上がってきて、どうやら新米ハンターを卒業する日も遠くなさそうです。
──ところで、高波さんとしては3カ月のお試しが終わって、いまは通常プランでハンターバンクでの活動を継続されているわけですね?
高波さん: そうですね。同じ時期に入門プランだったメンバーのうち、11人が継続してるんですけど、チームを分けて4つの箱わなでやっていたのを、獲物が来そうな2カ所に絞って、チームも分けないで、同じ時期にスタートした11人でシェアする感じになってます。
──がんばればまた獲れそうな感じがあった、ということですよね。
高波さん: もちろんそれもあるんですが、いろいろ勉強したいというのもありまして……。実は、ひと通りの作業をやってみて流れもわかったので、自分でも箱わなを買ったんですよ。
──それはまた思い切りましたね。いずれは箱根の、ご自宅の近くでも、ということですか?
高波さん: あの、年末にホームセンターで1万円引きのセールをしてまして……。ま、まだ狩猟免許はないので、今年の試験で免許を取って、それで箱根のどこかに設置しようと思ってたんですけど、箱根は豚熱が出て、イノシシがいなくなっちゃったんですよね。散歩してても、犬も反応しなくなってて……。ともかく、何年かかるのかわからないですけど、豚熱が落ち着いてまた箱根にイノシシが増えてきたら、自分の箱わなが置けるように、それまではハンターバンクで経験を積んでおこう、ということですね。小田原のフィールドは安定的に獲物が獲れそうですし、ハンターバンクで知り合った人もいるわけで。
──その日のためのハンターバンク、ということですね。それにしても箱わな、いきなり買う人もあまりいないと思いますけどね……。
高波さん: 自分、仕事で溶接もやっていて、ウチにも溶接機あるんですよ。それで鉄筋を買ってきて自分で箱わな作ろうかな、とも思ったんですが、ちゃんとやるとなると10センチ間隔で200〜300カ所くらい溶接しなけりゃならないんです。もちろん材料費もかかるわけですから、安くなってるときに買っといたほうがいいかな、と……。
──じゃあ「その日」が来るまでは、買った箱わなは大事にしまっておいて……。
高波さん:いや、それがですね……「箱わな買っちゃてさ〜」という話をしたら、弟の奥さんの実家がミカン畑とかキャンプ場とか持ってて、そこにイノシシが出てるからなんとかしたい、という話になりまして、免許を取ったらそっちでも置かせてもらえそうなんですよね。
──あっという間に自分のフィールドがまたできそう、ってことですね。狩猟免許の試験、がんばらないといけないですね。
高波さん: 弟はもう「獲れたら肉ちょうだい」とか言ってますからね。
──なんか、もともと狩猟に興味がなかった高波さんなのに、頭の中が一気に狩猟マインドになってますね。
高波さん: そうですね。実際にハンターバンクで箱わなをセットしても、ウチらの箱わなだけひと月くらい来てなかったんですよ、イノシシ。トレイルカメラにも映ってなくて。それでチームの何人かが現場を見に行こうという話になって、自分はそのとき行けなかったんですけど、箱わなを置いた場所のちょっと下に獣道があったぞ、という話になって……。
──そのメンバーの皆さんは下から歩いて上がってた、ということだったんですか?

高波さん: そうなんです。自分はいつもクルマかバイクだったので、あの山を歩くってことがなくて、箱わなのすぐ近くしか見てなくて、その獣道には気が付いてなかったんですよね。それで、その獣道から箱わなまでの間に、ヌカを丸めて埋めていったら、見事にイノシシが誘引されて、箱わなのところまで寄ってくるようになったんです。そこからは、家から近いのもあって自分がしょっちゅう通うようにして、箱わなの近くのエサを多く撒いたり少なく撒いたり、いろいろ試してたら、そのうち箱わなの中で親子3匹が食べるようになって、それで「年内に勝負!」ということで蹴り糸をひとつ手前にセットして、2日くらいで子イノシシが獲れた、ということだったんです。

──それはいい判断でしたね。
高波さん:  運も良かったとは思うんですが、やっぱり歩かないとダメだ、ってことでしょうね。ともかく、犬の散歩で出くわしたことからはじまったイノシシへの興味ですけど、ハンターバンクで活動してみて、いろんなことがわかってきました。トレイルカメラでイノシシの動きが見えるのも、足跡だけで見ているのとはイメージが全然、違うんですよ。いちどトレイルカメラで見ておけば、カメラがない場所でもイノシシの動きを想像しやすくなると思います。
──なるほど。いい学びがあったみたいですね。
高波さん: 次は……獲れたイノシシの、肉としての処理のことですね。血抜きとか冷却とか管理方法とか、そこはもっと勉強したいところです……肉を美味しくするためには。
──やっぱり次の猟果では、干し肉はもっと極めて、ほかの肉料理にも挑戦してくださいね。では最後に、この記事でハンターバンクに興味を持たれたかたに、ひとことお願いします。
高波さん: ハンターバンクって、自分が思っていたよりも敷居は高くなかったですよ、というのは知っておいてもらいたいですね。迷ったらやってみよう!みたいな感じで、仲間が増えるといいな、と思います。
──そうですね。どうもありがとうございました。

高波健一さん(たかなみ・けんいち)

生まれも育ちも、さらには仕事も地元、という箱根っ子。もともと狩猟に興味はなかったものの、増えすぎたイノシシは、気がついたらすぐそばに迫ってきていました。そんなドッキリ体験からハンターバンクを見つけた高波さんの目標は、自宅の近くにも箱わなを置くこと。ワンちゃんとの散歩の平和のためにも(そして美味しい干し肉のためにも!)ハンターバンクで修行中です。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.8 高波健一さん

イノシシから守りたかったのは、畑ではなく、うちのワンちゃんでした。 [その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回ご登場いただく高波健一さんは、ハンターバンクのフィールドよりも標高の高い、もっと山を上がった箱根から小田原に通っています。これまでお話をうかがったハンターの皆さんとは動きが逆になっているわけで、山に住んでいるなら近所で狩猟ができるのでは、と思ったのですが、そこには全く興味がなかった高波さん。それがなぜハンターバンクに参加したのかというと……。

──早速ですが高波さん、今回このお話をうかがうにあたって気になったのは、箱根にお住まいで、箱根からハンターバンクの小田原に通って狩猟をされている、ということだったんです。で、失礼ながら箱根って、小田原よりもだいぶ……山ですよね?
高波さん: 山ですねえ。山の中です。生まれも育ちも箱根なんですが、ウチの周りには平らなところがない感じですね。小田原のほうが街場です。
──狩猟に関する興味はどんなところから?
高波さん: いえいえ、狩猟のことなんて知りませんでしたし、興味もありませんでした。ただ、家の近くでもイノシシが出てまして、ゴミ箱が荒らされたり……。それに、犬を飼っているんですけど、散歩をしているときにイノシシが出て、ワンちゃんが襲われそうになったことがあったんですよ。
──うわっ! それ、怖かったですね。
高波さん:  怖かったですねえ。いきなり現れて、10メートルぐらい先から突進してきたんです。こちらも慌てて「こらーっ!」っと大きな声を出したら、2メートルぐらいのとこで逃げて行ったんですが、結構これ危ないな、と思っていて。野生鳥獣被害って聞いても、その印象しかなかったですね。
それがなんでハンターバンクに……。
高波さん:  イノシシにワンちゃんが襲われそうになって、そいつが逃げていかなかったら、まあやっつけるしかないわけですよね。で、もしそのイノシシを倒したら、そのイノシシどうすればいいんだろう、と思ったんです。自分じゃなにもできないし、処理に困るよな、と。そんなとき、ワンちゃんの写真を投稿しているSNSがあるんですが、そこにハンターバンクの広告が出てきたんです。それがなんだか面白そうで、しかも小田原なら近くて、ウチからクルマだと30分もかからないくらいの距離なんですよ。ハンターバンクだと、自分たちで箱わなを設置できて、自分たちでイノシシを処理して、料理して食べるまでを体験できるということで、入門プランという3カ月のお試しコースに参加してみたんですよね。
──なかなかユニークなきっかけですね。箱根の場所柄だと、近所にもハンターさんがいたりするんじゃないかと思うんですが、そういうつながりはなかったんですか?
高波さん: いや、それまでは興味がないというか、縁のない世界だったので知らなかったわけですけれど、ハンターバンクを始めてから、そういうアンテナが敏感になったというか……。同級生が銃で狩猟してたり、役場の人が紹介してくれたり、逆に「狩猟する人が足りないんで手伝ってくれないか?」とか言われたり……探してみると、身近なところにもハンターさん、結構いたんですよ。
──先ほどの「もし出くわしたイノシシをやっつけちゃったらどうしよう」という話ですけど、その時点では「イノシシを食べたい」という発想はなかったんですか?
高波さん: 散歩の途中で出くわしたイノシシに突進された時は、それどころじゃなかったので……。でもまあ、そのときから「どうすればいいのかな」と考えていたことへの答えが、ハンターバンクで見つかりそうだったんです。
──それで、まずは「入門プラン」でハンターバンクに参加してみたら、お試しの3カ月の間にめでたく捕獲があったわけですね。
高波さん: そうなんです。ちょうど縞模様が消えたくらいの子どものイノシシだったみたいですね。もう年末の28日で、次の日には解体小屋も閉まっちゃう、というタイミングで、ギリギリでしたね。
──それはラッキーでしたね。そのときは止め刺しから解体まで、実際にご自身で作業されたんですか?
高波さん: はい、5人のチームで、みんなやりたがっていたんですけど、ジャンケンに勝って自分が止め刺しをしました。止め刺しなんて初めての経験だったんですけど、その前にハンターバンクの解体体験にも参加していたので、剥皮とかバラシとか、全体の作業としてはわりとスムーズにできました。ただ止め刺しは、考えていたよりもイノシシのカラダは硬かったな、という感じでしたね。もっとサクッといけるものかと思っていたんですよ。それから内臓摘出なんですが、解体体験で用意されていたイノシシは内臓も抜いてあって、カラダも冷めていたわけですけど、自分で止め刺しをしたイノシシの内臓は温かくて、臭いも感触もリアルだったわけで、それが気持ち悪いとは思わなかったんですが、なるほどこういう感じなのか、と思いましたね。
──それまで鶏を締めたり、といった経験はあったんですか。
高波さん: いや、そういうのはないですね。というか、魚もヌルヌルして触るのイヤなんですよ。小学生のころはミミズとか捕まえてたんですけど、大人になって……30歳を過ぎたころからは、もう虫も触るのがイヤになってましたね。
──じゃあイノシシの止め刺しなんて、結構な冒険でしたね。
高波さん: そう……なんですけど、なんか、別に苦もなくできましたね。なんというか……頭を切り離した時点で、もう肉に見えてましたね。目が合わなくなったら、自分の中では肉になってたんです。
──で、その肉を5人で山分けにして、持って帰って料理して食べたと思うんですけれど、どうでした?
高波さん: それがですね……あの、前にどこかの飲食店でイノシシ肉の料理を食べたとき、それが固くて、あまり美味しくなかったんですよね。そのイメージがあったんで、今回の獲物のイノシシも焼き肉とかで食べるつもりはなくて、干し肉にしたんです。適当に切って2〜3日かけて干した肉を、大きな寸胴鍋に網の棚を5段ぐらい作って並べて、薪ストーブの上で火を入れたんです。自分の分と犬の分、しょっぱいヤツと味のないヤツを作りました。
──全部それにしちゃったんですか?
高波さん: 全部です。美味しくない、ってイメージがあったんで、カレーとか肉じゃがみたいなこともなく、干し肉に……。ハンターバンクでバーベキューしたときのイノシシは、すごく美味しかったんですけど、あれは熟成とか、そういう特別な処理が効いていて美味しかったのかな、とか思いまして……。
──なるほど。で、その干し肉の仕上がりはどうだったんですか?
高波さん: ワンちゃんは、もう唸りながら食べてましたね。美味しかったんでしょうね。で、人間用の干し肉は、味付けが難しかった! 何回かに分けて作ったんですけど、結局は市販の焼肉のタレに漬けたのがいちばん美味しかったですね。ただ、バーベキューのときに食べた脂身の部分がすごく美味しかったのに、網で火入してたら脂はほとんど下に落ちちゃってたのは残念でした。

高波さんのお話は[その2]へと続きます。

高波健一さん(たかなみ・けんいち)

生まれも育ちも、さらには仕事も地元、という箱根っ子。もともと狩猟に興味はなかったものの、増えすぎたイノシシは、気がついたらすぐそばに迫ってきていました。そんなドッキリ体験からハンターバンクを見つけた高波さんの目標は、自宅の近くにも箱わなを置くこと。ワンちゃんとの散歩の平和のためにも(そして美味しい干し肉のためにも!)ハンターバンクで修行中です。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.7 松本吉保さん

丸ごと美味しく食べるなら、自分の手で──それもハンターバンクの魅力です。[その2]

念願がかなって自分の手でイノシシを解体し、肉にして食べることができた松本さんですが、自分の手で獲物を仕留めた、という感覚よりも、もっとああしたい、こうしたかったという反省の色が強かったそうです。そこには〈美味しく食べる〉ことへのご自身の情熱だけでなく、父親としての〈食育〉にかける想いもあるようで……。

──山の恵みをめでたく自分の獲物として手に入れて、そこから自分の手で肉にしたものを食べるということができたんですけれども、実際にそれを食べてみて、どうでした?

松本さん: 美味しかったですよ、もちろん。獲れたこともうれしかったですし、止め刺しから解体して肉にするのはやりたかったんで、それを自分の手でやる機会を得て、よかったですね。もっと美味しく食べたいので、ちゃんと脂をたくさん残したいとか、肉を切り分ける場所とか、もっと勉強したいな、というのはありますけどね。より効率的なナイフの使い方があるんだろうなと思って、そこら辺を勉強したいと思いました。

──今回のイノシシは自分で解体したわけですけど、買うにしても、ハンターさんからもらうにしても、普通はモモとかロースとかバラバラで来るところが、今回は丸ごと手に入ったわけですよね。どこの部位でも食べられる、という状態になったと思うんですけど、どこを食べました?

松本さん: あの時は料理がうまい仲間もいたので、アバラは骨付きで、スペアリブで食べました。あとは塩だけで焼いて食べるとか、煮込みみたいにして食べました。それとレバーもハツも、大体は焼いて食べましたね。それから脚を1本もらってるんで、ちょっと生ハムでも作ってみようかと思って。

──松本さん、内臓を食べたいとおっしゃってましたけど、大腸や小腸、いわゆる「もつ」類はどうしました?

松本さん: そこは本当はやりたかったんですけどね、時間がなくて断念しました。内臓の中でも、もつは、そのまま家に持って帰るのではなく、捕獲現場の近くに処理ができる環境がないと無理だろうと思うんで、解体小屋の水場のところで全部やりたいですけどね。1時間とか2時間とか、もつの処理だけで現地で時間がとれればいいんでしょうけど……。あの日も、初めは13時に集合です、みたいな連絡だったのが、もうちょっと早いほうがいいという話になって、11時半ぐらいに変更になったんですけど、それでも皮を剥いで、肉を取ったら、もう時間はギリギリで、イノシシを丸ごと食べようと思ったら、作業のスピードも要求されるんですよね。

──いかに早く止めて、いかに早く内臓を出して、いかに早く皮を剥いで……なんか、食いしん坊トークではあるんだけど、ただの食いしん坊とちょっと違うな、という感じがしますね。

松本さん: そうかもしれませんね。家でも魚はよく捌きますけど、捌いたからOKなのではなく、本当に美味しく食べられないと意味がないと思っているので、自分で肉にしたから、ということよりも、それが美味しい肉になっていたかのほうが大事なんですよね。もしかしたら最初のころに、丸ごとの魚を捌いて刺身にしたときには「お、やったぜ!」なんて思っていたかもしれませんけど、もうとっくに忘れちゃいました。

──捕った肉を持って帰って、ご家族で食べられたと思うんですが、反応はいかがでした?

松本さん: 妻には「臭くないの?」とは言われました。食べたら「美味しい!」と言ってましたけどね。翌日からは肉じゃがになったり、ホイコーローになったり、いろんな料理にしてくれて、毎日食べてます。

──じゃ「がんばってもっと獲ってきてね」という感じに……。

松本さん: なってないですね。家の冷凍庫もいっぱいだから……。

──お子さんはどうでした?

松本さん: 美味しい!と言って食べてましたね。子どもにはいい食育をしてあげたいな、というのがあって、ブタやウシだけではなく、いろいろな種類の肉を食べさせたり、カモなどでは内臓を含めた丸ごとの食材を見せたりもしているんです。それで、自分でも勉強して食育関連の資格も取ってみたんですけど……やはり座学だけじゃダメだなと思ったんで、勉強は勉強として、子どもには食べた魚の絵を描かせたりとか、やっていましてね。魚を1匹調達したら、ちゃんと絵を描かせて、長さと重さと住処と料理方法と味と、というフォーマットを作って、最後は食べた感想も書いて、5つ星で評価するんですけど、そういうことをやっていくと魚の種類も覚えるんです。私も妻も台所に立つわけですが、子どもも自然と台所に立つようになってきましたね。

──ああ、いいですねそれ。

松本さん: 子ども用の包丁を買い与えていたのですが、ある時、普通に出刃で三枚おろしをしようとしてたんで、ちゃんと教えました。今は魚も捌き始めている感じなんです。この間の解体体験でも普通に猪の首に包丁を入れてたんで、まあ順調、って感じですね。
(ここでリモート取材の様子を息子さんがのぞきに来ました)

──こんにちは、今お父さんからいろんなお肉を食べたことがあるという話を聞いたんだけど、どの肉がいちばん美味しかった?

息子さん: いちばん、を決めるのは難しいけど……ウマの肉、アナグマの肉、カモの肉、イノシシの肉。あ、ヒツジも好き。

──すごいね。じゃあ、お父さんの獲ったイノシシを食べてみて、どうだった。他のお肉と比べて……。

息子さん: 他の肉より脂が美味しかった!

松本さん: そう、脂がサクサクして甘いって言ってたよね。よかった。いい食育してると思いませんか?

──すばらしいですね。ところで、ハンターバンクでこれからまたイノシシが獲れてくればどんどんいろんなことができる、という状況だと思うんですけれども、実際に箱わな猟をしてみて、改善したいところって、なにかありましたか?

松本さん: いや、現場ではまだちょっと思いついてないですね。もっとヌカをがんがん撒けばイノシシが来るのか、そこもちょっと分かってないんですけど……本当は月いちで3頭ぐらい獲れると最高だろうな、と思いますけどね。そしたら止め刺しとか内臓を出すとか、枝肉にばらすとか、技術も向上するんじゃないかと思います。とはいえやっぱりみんな社会人なので、必ずしもすぐ休みが取れて集合できるという人ばかりじゃないんです。捕獲の頻度が上がればみんなに解体の機会ができて、もっといい体験ができるんじゃないかなと思いますので、そこもまた勉強、ですね。でもまあ、十分に楽しめてると思います。

──あとハンターバンクでの活動、あるいはハンターバンクを通じてご自身の個人的な活動としてでもいいんですけれども、次はどんな風にしてみたいですか、というのを最後にうかがいたいのですが……。

松本さん: あの、トレイルカメラによく、キジが映ってるんですよ。昔、子どものころに食べたきりなんで、あれもちょっと食べたいな、とは思ってます。

──ですね。ありがとうございました。

松本吉保さん(まつもと・よしやす)

魚も鳥も丸ごと、内臓までとことん食べたい!という食いしん坊の鑑。いずれは大きな獣も自分の手で、と思っていたところにハンターバンクへの誘いがあって、ついにイノシシの解体も経験。念願はかなったものの、そこにはまだまだ反省すべき点があったと、勉強の道は続きます。家庭では実践的な食育の道も模索していて、息子さんの将来も期待できそうです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.7 松本吉保さん

丸ごと美味しく食べるなら、自分の手で──それもハンターバンクの魅力です。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

魚も鳥も、内臓まで全部を食べたいから丸ごと調理したい、という松本吉保さん。いずれは大きな獣も全てを自分の手で、と考えていたところに、ハンターバンクとの出会いがありました。そこで猟果にも恵まれ、念願だった、丸ごとで大きくて生きている獣から、という流れを自分の手で経験することができたのですが、そこには食いしん坊ならではの反省もあって……。

──今回お話をうかがうにあたってSNSも拝見したのですが、小田原のフィールドには、お子さんも一緒にいらっしゃることが多いんですか?なんか、可愛らしい写真が……。

松本さん:いや、あれはハンターバンク主催のイノシシ解体体験の時だったんですよ。子どもは、まだその一度だけですね。

──ハンターバンクでは、グループとしてはどんな感じで参加されてるんですか?

松本さん:まだスタートして2カ月ほどなんですが、友人に誘われまして、それで登録して活動を始めたという状況です。グループとしては8人、かな。まあ全員が知り合いなんですが。

──そもそもハンターバンクに参加するきっかけは何だったんですか?

松本さん: メンバーの一人がハンターバンクという存在を見つけてきて、これやろうよということで、仲間内で参加したい人間を募って、手を挙げたのがその8名だった、ということですね。

──メンバーの一人とおっしゃいましたけど、どんな感じのグループだったんですか?

松本さん: 自分たちでいろいろ獲って食べよう、みたいなことをわりとやっているグループなんで、釣りをしたり、魚を突いたりとか。で、そういったメンバーの集まりの中で「イノシシやってみよう、興味あるやついないか」みたいな流れですね。

──狩猟免許はお取りになったんですか?

松本さん: 私は持っておりません。これからの取得も、そこまではちょっと想定していないですね。

──なるほど。では、ハンターバンクでの猟果はどんな感じなんですか? 2カ月ほど活動をされていて……。

松本さん: 一度、イノシシが3頭まとめて獲れたということがありまして、まだそれだけですね。だいたい2歳ぐらいのヤツじゃないかとかいわれていましたけどね。

──扱いやすいというか、程よいサイズのが3頭も入った、ということですね。まあ、結構な猟果ですね。

松本さん: そうですね。箱わなを設置してから獲れたのも早かったんですが、なかなか獲れない方もいらっしゃるということをうかがいましたんで、ラッキーでした。

──頻度としては、どのぐらい通ってらっしゃいます?

松本さん: いや、通ってはないです。今のところ、掛かった時に1度行ったということですね。解体体験もありましたので、合わせて2回です。ヌカを撒いていただくのはグループのメンバーでなく、ホストさんに撒いていただいていまして、なにか特別な餌を撒きたいときにはメンバーが行く、と。直近ですと、トレイルカメラでイノシシの姿が全く見えなくなってしまったので、箱わなの場所を変えてみようということで、先週の土曜日にメンバーが何人か行っていました。

──松本さんのグループは、わりと省エネなタイプなんですね。それでも、なかなか獲れないチームもある中で3頭も獲れたんですから、山の神さまに愛されているチームなんでしょうね。

松本さん: ありがたいですね。全員が都内で会社員なので、なかなか行けないっていうのがなんともな……とは思うんですけども、いろいろとホストさんにお願いしながらやっています。

──それでも獲物にちゃんと巡り合えるというのがハンターバンクのシステムのいいところだと思うんですが、実際にその強みを活かしているチームだな、という感じがしますね。ところで松本さんは、ハンターバンク以前にも、例えば鳥を絞めたりといった経験はあったんですか?

松本さん: 絞めてはいませんが、鳥は、業者さんから羽付き内臓付きのカモを買ってたりして、家で羽をむしって内臓を抜いて食べたことはあります。

──なるほど。でも、内臓や毛がついていると大変じゃないですか?

松本さん: 内臓、食べたいんですよ。内臓を食べたいんで、処理される前の方がありがたいんです。
そうなると羽付きになるんですよね。

──なるほどね。食べるんだったらとことん食べたい、丸ごと食べたい、という強い思いをお持ちだった、っていうことなんですね。

松本さん: そうですね。親もきれいに魚の骨の周りを食べますし、最後は骨も焼いて食べたりしてましたから、そういうのを見て育っていて、丸ごとに馴染みがあったんだと思いますね。

──それにしても大きな獣に関しては、生きてるところから止め刺しをして、剥皮して、内臓摘出をして、という解体の作業をされるのは、今回のハンターバンクでの猟果が初めての経験ということですか?

松本さん: そうですね。解体体験では内臓が抜いてあるものでしたし。

──生きているところから止め刺しや解体をされてみて、率直な感想としてはどうでした?

松本さん: 命を頂戴するということで、感謝をして、ちゃんと丸ごと食べよう、という感じでした。実は止め刺しが一発で仕留められなくて……イノシシが暴れて、もう一回刺し直しをするっていうことをやったんで、ちょっとそこは反省してます。私、ずっと剣道をやっててですね、突くとなるとついつい喉を突いちゃうんで、胸を突くべきだったな、と。どこをどう突くかっていうところをちゃんと予習してやるべきだったと、そこら辺は勉強不足でした。

──解体体験の時には、どの部分から刃先を入れて、どの方向に刺すんですよ、みたいな説明もあるんじゃないかと思うんですが……。

松本さん: ああ、そうでした。忘れてました。そこはちょっとやっぱり、ドキドキしてたんだと思います。その時に考えていたのは、うっかり心臓に刺さってハツが食べられなくなったら嫌だな、と……。それで、胸を刺そうという気持ちにはなってなかったですね。ちゃんと刺すべきところを、経験の豊富な人に聞いて、忠実にやるべきでしたね。

──なるほど。それにしても、止め刺しに失敗した理由がハツを刺したくなかったから、って、そういう人もなかなかいないですよね。

松本さんのお話は[その2]へと続きます。

松本吉保さん(まつもと・よしやす)

魚も鳥も丸ごと、内臓までとことん食べたい!という食いしん坊の鑑。いずれは大きな獣も自分の手で、と思っていたところにハンターバンクへの誘いがあって、ついにイノシシの解体も経験。念願はかなったものの、そこにはまだまだ反省すべき点があったと、勉強の道は続きます。家庭では実践的な食育の道も模索していて、息子さんの将来も期待できそうです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.6 鈴木毅人さん

300年間に渡って山林を守ってきたホストさんは、山だけでなく里との繋がりも考えていました。[その2]

鈴木さんの会社がホストとして提供してくれているフィールドは、小田原市の中心部からすぐ近く。周辺には公園やレジャー施設も数多く、休みの日には多くの人が集まるエリアです。そんな場所で山を守っていくためには、関係者しか立ち入らないような山奥の守り方とは違って、里に近い山ならではの難しさもあるようですが……。狩猟とは違う目的で山に来る人が、狩猟に興味を持つようになる。あるいは小田原の山に縁のなかった人が、遠くから来てくれる。そんな相乗効果への期待も、ホストとしてハンターバンクに参加することの面白さだと話してくれました。

──そういえば鈴木さんご自身は狩猟されるんですか?

鈴木さん: 狩猟免許はまだ取ってないですね。興味はあるので、いずれ取ろうとは思ってますけど。ただ、現場では合法な範囲で、止め刺しから解体まで全部経験はありますよ。

──ということは、生きてる獣がどういう流れで肉に変わっていくのか、命がおいしく変わっていくプロセスというのは、実体験として経験値はたくさんあるんですね。

鈴木さん: ありますね。しかも僕の場合、肉に見えてくるタイミングがわりと早いんです。どのくらいの状態から肉に見えてくるか、っていろんな人に聞くんですけど、僕は皮を完全に剥き終わってなくても、もう食べ物に見えてきちゃってますね。

──なるほど。それはなかなかレベルの高い……。

鈴木さん: 魚突きとかもやるんですよ。魚突きって、獣を締めるのに比べてなんでもないかな。と思いきや、やっぱりグロテスクなんですね。魚だって内臓が飛び出たままでも生きていて、逃げていくんで。だからこそ、真剣に捕ってあげないとかわいそうだと思うんです。そこが雑だと、ただの残虐行為になっちゃうんですよ。そういうのずっとやってたんで、獣の場合も、そこに抵抗感はないですね。あと、水族館も回遊水槽とか、見ているともうお腹が空いちゃってしょうがないですね。

──ハンターバンクに参加しているハンターさんとか、狩猟に興味があって見学に来る人だと、そういう人も少なくないでしょうね。

鈴木さん: そうでしょうね。でも、マウンテンバイクのコースに遊びに来てくれているお客さんも、その辺りに興味のある人はすごく多いんですよ。バーベキューで「この山で獲れたイノシシを出します」なんていうと「最高ですね!」と返ってくるような感じで。もちろん個人差はあると思うし、親子で来ているお客さんにとっては「子どもにどこまで見せるか」という部分では「絶対にダメ」という人もいらっしゃいますけど、基本的には皆さん、山が好きなんですよね。だからといって、じゃあレジャーのお客さんに止め刺しから体験してもらえるかといったら、それはさすがに難しいと思うんですが、内臓を抜いて、皮を剥いで……という段階からなら、サービスとして成り立つんじゃないかとも思っています。もうひとつのレジャー施設、ワイヤーで樹間を飛んでいくほうのお客さんはもっとお子さま連れなんですが、この山でも獣が山を荒らしているんだよ、という背景と、だから獲って食べるんだよ、というバーベキューの部分なら提供できると考えています。

───ハンターバンクでの成果って、ハンターさんの場合には「イノシシが獲れた!」という部分でわかりやすいんですが、鈴木さんの会社のような多角経営のホストさんの場合だと、獣害が減ったという実績に加えて、相乗効果への期待もある、ということなんですね。

鈴木さん: そう思ってます。より多くの人、いろんな層の人が来てくれて、そこから狩猟に興味を持っている人がまた小田原に来て、うちの山でちょっとやってみたいな、という人が増えてくれるといいな、と思っていますね。

──実は今回、初めてホストさんにお話をうかがえるということで、なにを持って成果と捉えていらっしゃるのか知りたいと思っていたんですよね。もちろんハンターさんが増えて、猟果も増えて、目に見えて獣の数が減れば、それは大きな成果なわけなんですが……。

鈴木さん: うちの山の場合は、管理してる部分が山奥ではなくて、里山なんですよ。それも近くに公園があったりとか、普通に人が入ってくるような範囲で。その意味ではロープで区切らないと子どもが入ってくる可能性があるような場所ですし、設置した箱わなが歩いている人から見えるなら説明の看板も設置したほうがいいかな、という場所なんです。そう考えると、深い山で深刻な獣害に悩まされているエリアとは、ちょっと違うと思うんですよね。いま、アクティビティー的にハンターバンクを楽しんでいる人がいて、それがだんだん増えて、間口として広がっていく……という規模感でやっていければいいかな、と考えています。あと、野生鳥獣による林業被害というところでは、木の皮をめくられて甘皮を食べられることによって木がダメになる、っというのはもちろんなんですが、うちの山ではそれ以上に深刻なのが、シカであればヒル、イノシシであればマダニなんですよね。この10年でまだヒルは見ていませんが、マダニはうちのスタッフでも結構やられています。いずれ丹沢あたりからシカが入ってくれば、間違いなくヒルもついてくるわけで、気持ち悪いですよね、お客さんとしたら。丹沢では実際にそれで潰れたレジャー施設もありますし、もうギリギリのところだと思います。うちの山でトレイルランニングしていても、10年前には足を出したスタイルで走っていて平気だったのが、最近はシューズの中に入っていたりしますからね。そういう意味で、レジャーのお客さんのためにも、山の獣が増えないように、これ以上は降りてこないようにしておきたいわけです。でないと、マウンテンバイクを習いに来た子どもさんや、散歩の犬が、マダニを連れて帰ることになりかねないので。それは絶対に避けたいんですよね。

──そのあたりは「山奥での食害が減った」という話とは別の、里に近い山ならではの成果、ということなんですね。

鈴木さん: そもそもハンターバンクって、ひとつの場所だけで展開していくものではなくて、地域を広げていったり、面で考えていかなきゃならないものだと思うんですよね。獣は山から山に移動しますからね。その意味では、濃度としては高くなくても、横につながりながら広くやっていくのが大事だと思うので、いろんな地域でいろんな成功事例が増えていくといいですよね。

 

──本当にそうですね。ありがとうございました。

鈴木毅人さん(すずき・たかひとさん)

自然に関われる仕事を探して東京から移住し、小田原でちょっと変わった林業会社に転職。これからの林業、山林経営を考える中で必要と思う森林のレジャー業を展開してきましたが、そこでハンターバンクのホストも行うことになり、担当者として奮戦中。趣味はトレイルランニングで、ジビエも大好き。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.6 鈴木毅人さん

300年間に渡って山林を守ってきたホストさんは、山だけでなく里との繋がりも考えていました。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて、ここまで5人のハンターさんにお話をうかがってきましたが、今回はハンターではなく、ホストさん。ハンターさんに箱わなを置く場所を提供したり、日々の見回りをしてくれる農林業者さんたちです。今回のホストさんはここ小田原の荻窪で、300年間に渡って山林を守ってきた林業会社。担当者の鈴木毅人さんは、ハンターバンクに参加することで、自分たちの山だけでなく周囲の山々や、その先のことにまで広がる想いを聞かせてくださいました。

──今回はホストとしてハンターバンクに参加している人を、ということでご紹介をいただいたんですけれども、鈴木さんは林業の会社にいらっしゃるということでいいんですか?

鈴木さん: 自分はレジャー業からこの仕事に入っていましてね。この小田原に山を持っているのはうちの代表で、70ヘクタールほどの山を300年ほど守ってきて、当代で八代目になるんですけれど、まあ今は木が高く売れないので、林業としてはやりづらいわけですよ。そういった中で、こりゃ木を刈って売る、いわゆる林業だけではダメだということで、多角的な経営を取り入れていて、今はレジャー業も展開してるんです。そこで自分は、樹上に張ったワイヤーにハーネスでぶら下がって、空を飛んでいくアスレチック施設とか、あとマウンテンバイクのコース運営なども担当しています。

──あ、先日フィールドを見に行ったときに、マウンテンバイクの人たちもたくさんいましたね。

鈴木さん: あと、そういったレジャー業とは別に、農園もやっているんです。季節によって梅だったり、タケノコだったり……そういう意味では、林業だけではなく農業の視点からも山を見ているかな、というところかもしれませんね。

──面白い会社なんですね。

鈴木さん: そうですね、あまりないケースなんです。なので、林野庁さんをはじめ多方面から注目されているかも知れません。エネルギー関係でもメガソーラーとかやってますし、水力発電が元々あったり、そういったものを全部総合した、多角的な山林経営というところで、色々なところから視察に来られます。

──なるほどね。で、鈴木さんご自身は、そこの会社に入る段階では、いわゆる木こりさんになるつもりだったんですか。

鈴木さん: いや、自然に関われる仕事を探して、東京から移住して、ここ小田原のアウトドアレジャー施設のマネージャーに、とお声がけいただいたんですけれど、もっと面白いことを仕掛けたいですね、という話を代表としまして、今はいろんなことをこの山でやっている……というところですね。

──じゃあ「山で飯を食ってくぞ」という思いが、そこで現場とフィットして、今に至るわけですね。

鈴木さん: はい、そうです。今は使われない山が多いので……特に里山、町に近い山ですね。小田原の場合、市街地からクルマで5分、高速道路からなら降りて3分という山なのですが、でもそこに300年の木なんかが生えてるわけですよ。で、せっかくそんな山を持っているにもかかわらず、林業として成り立たないってのは残念なことなんですが、でもまあ林業は繰り返しますので、また先々その木が売れるはずなので、それまできちんと山を管理すること、どうやって維持するかということが大事なので、今はそういった仕事をして10年になりますね。山そのものは江戸時代からで、代々ずっと個人で山を管理されていたんですよ。レジャー業も先代まではやってなかったので、新しい取り組みなんですけどね

──鈴木さんご自身にとっては、こちらにジョインされて、実際に自分のフィールドができて、その時点では野生鳥獣被害というのは認識があったんですか?

鈴木さん: もちろん自然の仕事の中には野生鳥獣被害対策なんかもあるとは知っていたんですが、実際にその山に入ってみて……というか、趣味がトレイルランニングなんですよ。もともとトレランの為に、実はその山にはもう入っていたんですね。で、まあ10年前には尾根沿いにしかいなかったシカが、今はどんどん下りてきて、もうすぐ隣にシカがいるという状態ですね。食害の面積も広くなって、個体数も圧倒的に増えたんだろうな、というのが実感です。まだ小田原はそこまで害がひどいということではないんですけど、個体数ってある程度に達したところから、いきなりぼんと増えるじゃないですか。真剣に対策しなきゃいけないね、と考えるようになったのが、5〜6年前ですかね。

──イノシシはどうですか?

鈴木さん: 増えてますね。イノシシの場合は明らかに形跡を残していくので、足跡以外にも、掘り返しの跡とか、もう至るところにある状態ですね。掘り返すことによって虫を食べたりするんですけど、それで根がダメになって、ミカンの木がやられてしまったり、あとタケノコ、食われちゃうんですね。タケノコ守るのに竹柵を作って……今の日本では竹そのものも田畑を侵食したり家屋の床を突き破ったりで竹害といわれたりしていますが、うちの山では獣害を竹害対策で対策する、みたいなことになってます。まあ山の獣は移動するんで、餌が食べられないとなれば隣に行きますし、隣りがダメになれば戻ってきたり、もうずっと追いかけっこというか、戦っていますね。

──ハンターバンクのホストになって、いろいろなところからハンターさんが通ってくるようになる前から、このエリアにも狩猟者さんがいらっしゃったと思うんですが、積極的に山の獣の相手をしてくれる人たちと連携していく、というアプローチは、どうだったんですか。

鈴木さん: もちろん猟友会さん、山に入ってくる人たちが3団体くらいあったんですが、管理してる側としては、連絡もくれないでそこら辺で勝手にやらないでくれ、という感じもありましたね。例えばレジャーのお客さんのところにまで獣を見失った猟犬が飛び出してきちゃったりして……休みの日だと子ども連れの家族が300人くらいいるわけですが、怖い思いをさせちゃったりしたことも……そうですね、色んなお話がありました。

──それでも狩猟で山の獣を押し返していかないと、シカもイノシシもどんどん増えて、山林経営はますます難しくなっていく、という……。

鈴木さん: そうですね。しかも山林経営の多角化ということで、レジャーのお客さんもたくさんいらっしゃるわけで、なにかと難しい部分もあったんですが、そこで出会ったのが、まさにうちのニーズにピッタリな、ハンターバンクさんだったんですよ。事業モデルが箱わな猟ということで、放たれた猟犬がレジャーのお客さんを驚かせることもないし、効果的な設置場所もこちらで検討できますし、都市部から新しいハンターさんが来てくれるわけですからね。

──いわゆるWin-Winな関係性、ですね。

鈴木さんのお話は[その2]へと続きます。

鈴木毅人さん(すずき・たかひとさん)

自然に関われる仕事を探して東京から移住し、小田原でちょっと変わった林業会社に転職。これからの林業、山林経営を考える中で必要と思う森林のレジャー業を展開してきましたが、そこでハンターバンクのホストも行うことになり、担当者として奮戦中。趣味はトレイルランニングで、ジビエも大好き。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.5 小蝶辺明日子さん

大きな自然の循環の中に、ハンターバンクで自分の居場所が作れました。[その3]

動物の痕跡を探しながら、ひとり静かに山林を忍び歩いて……。ふんわりと思い描いていたという、そんな〈狩猟者さん〉のイメージとは、ずいぶんと違ったスタイルで狩猟デビューをすることになった小蝶辺さん。存在すら知らなかった〈箱わな〉でのハンター体験は、実際に自分で手を動かしてみれば、いろいろと納得のいくものだったようです。

──ところで、小蝶辺さんが最初におっしゃっていた狩猟者のイメージ、山で動物の痕跡を追いながら、最後はひっそりと近づいて……といったスタイルでは、基本的には銃を使わないと捕獲は難しいと思うのですが、それはこれからの挑戦で、ということですか?

小蝶辺さん: もともと狩猟者さんに対する私のイメージが、そういう山歩きの感じだったんですよね。狩猟といえばまず鉄砲、そうでなければくくりわな、みたいに考えていて……実は〈箱わな〉なんて、その存在すら知らなかったんです。それがハンターバンクで箱わな猟を体験して、設置とか誘引とか準備の手間はかかるけど、上手にできれば効率のいい手法のひとつなんだな、ということもわかったんですよね。それに、初心者でも危険性が少ない、という点は、箱わなでの捕獲を経験してみて、実感しましたね。実際に箱わなの中でイノシシが突進する様子とかを見ると……私たちの箱わなに入ったのはそんなにサイズの大きいイノシシではなかったんですが、それでもやっぱり「すっごく力が強いんだなあ」と思ったんで。あれがくくりわなだったとしたら、ちゃんと脚にかかっていても、イノシシはワイヤーの長さの分だけ……まあ、かなり動けるわけですよね……。

──くくりわなの獲物に近づくには、細心の注意だけでなく、度胸も必要でしょうね……。

小蝶辺さん: そういうわけで、単独でも狩猟するとなったら、まずは箱わなから始めて経験を積んでいくのが無難な気はするんです。とはいえ単独でいきなり箱わな猟を……というのも、猟ができる、箱わなが置ける場所を探したり、運ぶ手段を用意したり、そもそも自分だけで高価な道具をあれこれそろえたりするのは初心者には難しいわけで、誰か師匠を見つけて教えてもらうしかないのかな……。その点でも、まだ狩猟免許を持っていない素人の、右も左も分からない段階でも飛び込める、というハンターバンクのサービスは、ありがたかったですね。

──都市部の住人としては、そもそも土地勘もない、知り合いもいないところで狩猟することになるわけですからね。その中で、新米に優しくて教えるのが上手なベテランの狩猟者さんと出会う、というのは、現実的にはなかなか……。

小蝶辺さん: 私たちのグループではサポート付きのサービスを選んだんですが、マッチングしたホストさんやサポートハンターさんが本当にいろいろと助けてくださって、教えてもらうだけでなく、現場でのサポートがすごく手厚かった、っていう印象がありますね。狩猟にまつわるいろんなことを一気に経験できて、その中で、自分として「狩猟と、どう向き合いたいのか」というところまで改めて考えることができたのも、すごくよかった。

──なるほど。新米ハンターさんが銃を使ったグループ猟でデビューしたとしても、例えば自分の目の前に獲物がちゃんと現れるとは限らないし、現れたとして、自分で撃ててもちゃんと当たるとは限らないわけですものね。それで「獲物を仕留めた」というところまでを「一連の経験」だとすると、その一連の経験ができるまで、1シーズンや2シーズンでは足りないことも……。

小蝶辺さん: かなり時間がかかるでしょうね。実は私たちのグループにも銃猟の免許を持っているメンバーがいるのですが、グループ猟での経験としては、解体はみんなでやったけど止め刺しはまだ……みたいな話でした。それが箱わな猟なら、捕獲から止め刺し、解体までを一連の、自分の行為としてちゃんと経験できる、というのは大きかったですね。

──では逆に、ハンターバンクがもっとこうだったらいいな、と感じたことは、なにかありますか?

小蝶辺さん: どうですかねえ……パッと出てこない。あ、でも、これは私の考えが甘かっただけかもしれませんが、獲物がかかると「こんなにたくさんの肉ができちゃうよ」っていう現実は、先にわかっておきたかったですね。

──そこは……いよいよご自宅に冷凍ストッカーを、ですね。お話、ありがとうございました。

小蝶辺明日子さん(こちょうべ・あすこ)

大きな自然の食物連鎖に憧れて、自分もその一部になりたい、という子どものころからの願望を、ついにハンターバンクで実現。お仕事では生物多様性のマクロな世界もテーマとして扱っていらっしゃいますが、もともとは分子生物学のミクロな世界を勉強されていたそうで、いまや粘菌からイノシシにまで循環の輪が広がった新米ハンターさんです。