体験談 - ハンターバンク

体験談

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.10
栗木リョータさん、小林洸介さん

特別な経験を共有したからこそ、大人の〈仲間づくり〉ができました。

猟果にも恵まれて幸先のいい狩猟ライフをスタートさせることのできたおふたりですが、ハンターバンクに参加して得られたものは、どうやら山の恵みだけではなかったようです。社会のしがらみから離れ、童心に帰った大人たちが、どう仲良くなれるのか……。そんなお話もうかがえました。
──ところで、おふたりそれぞれの想いがあってハンターバンクに参加して、狩猟の現場を経験されたわけですが、その結果として自分の手で得た山の恵みとしての、肉があるわけですよね。ご結婚されているかたには、よく「ジビエを大量に持ち帰って、反応はどうでした?」というところからうかがうんですが……。
栗木さん: うちは、そこはウェルカムでしたね。
小林さん: 奥さん、止め刺し見に来てたもんね。
栗木さん: そうそう。妻に「獲れたから、週末ちょっと行ってくるね」と話したら、なにか興味があったようで「それ私も行っていいの?」と。で、事務局に確認したら了解をいただけたので、当日の参加となりました。妻とふたりで、というのは想定していなかったので、食いつきがよくってびっくりしましたけどね。
──もともとジビエが大好きだった、とか……。
栗木さん: いや、そういう感じでもないですね。ただ、ぼくが狩猟免許を取ることにしたときから、そういう趣味嗜好みたいなものには理解を示してくれていましたし、自分でも「獲る」まではいかないにしても、興味のある領域だったんじゃないですかね。それで、いざ「獲れたよ」となったら、衝動的に行ってみたくなっちゃったようで……。
──なんか、栗木さんご自身の、免許は取ったけどどうすればいいのか途方に暮れていて、そこでハンターバンクを見つけて……というストーリーからすると、奥さまはそこをヒョイっと入ってきちゃった感じですね。それで止め刺し、どんな感じだったんですか?
栗木さん: いやあ、ぼくより肝が据わっていて……止め刺しから解体まで、しっかり見学してました。魚も丸ごとだとさばけない人なのに、もしかしたら彼女のほうが好奇心、強いのかもしれませんね。で、そのときの成獣、母イノシシがかなり大きかったので、ふたりで結構な量を食べながらも、まだ冷凍庫にあるんですけど、本当に「イノシシの肉って美味しいよね」という感じで、いろいろな料理を試しながら大事に食べています。食材としては、我が家の中ではブタを超えて、ウシに並ぶポジションに来てますね。だからといって「私も狩猟免許を……」みたいな話でもなく、あわよくば次回もまた参加してやろう、くらいですけどね。
──それまでにもレストランでシカやイノシシの料理を食べたことはあったと思いますが、自分たちで肉にしたものを持ち帰って、自分たちで料理して食べる、ということを経験されたわけですが、それでなにか感覚の変わったこととか、ありましたか?
栗木さん: とくに心情的には変化はないんですが、あまりにも大きな肉の塊が家にあるんで、暮らしの変化としては、ミンサーを買ったりはしましたね。でも、獲物を獲って、それを持ち帰って食べて、それが美味しい、という喜びみたいなことは、無意識のうちにも分かち合っているんだと思いますね。ホストさんや事務局の皆さんに助けてもらってはいるんですが、自分で野生の生き物を獲って、食べて、美味しいというのは、ある種の循環というか、ひとつのサイクルとしてあるわけで、そういうチャンネルが自分たちの生活の中にできた、というのは面白い経験でしたね。
──小林さんはそのあたり、いかがでしたか?
小林さん: 私の場合は狩猟への興味がジビエ料理からはじまった、ということもあって、うちでイノシシ肉を料理して妻とふたりで「美味しいね」といいながら食べてもいたので、そのあたりの抵抗感みたいなものはありませんでした。シヴェのソースも、まあ大丈夫みたいでしたね。妻もフランス料理、好きなので。そんなわけで、肉だけでなく血まで自家調達できて、念願のシヴェのソースも作ってみたら大変だったんですが、美味しくできたので、充実感はありました。
──なんか、お話を聞いていると、おふたりとも感覚が似ているような気がしますね。それもあって仲良くなられてる、ということかもしれませんが……。
小林さん: まあ大人になってからこういう出会いかたをして、密度の高い瞬間が共有できる機会って、すごく貴重というか、なかなかないですよね。
栗木さん: たしかに、あまりないですよね。ビジネスっぽいつながりで、朝活やってて仲良くなる、というのとも違いますし、なにか社会的背景のようなものを背負っているのとはまったく違うつながりかた、なんでしょうね。ある種、予定調和じゃないというか、みんなが抱えてるわからなさ、とか不安、みたいなものを持ち寄って集まっているからこその、独特なシチュエーションだと思うんですよね。そんなわけでチームの皆さんとはすごく仲良くさせていただけていると思いますし、先日は小林さんのご自宅にもお邪魔して、フランス料理とか本格的なのをコースで振る舞ってもいただきました。もちろんチームの皆さんと話すのは狩猟の話題が中心になるんですが、どんな背景で狩猟を始めたのか、とかいった部分をうかがっているうちに、そこからお仕事の話に広がっていったり、というのもありましたね。……まあでも、小林さんってあった初日から「うちに遊びに来なよ〜」とかいってて、なんか面白いなこの人、距離の詰めかたすごいな〜、とは思ってました。
小林さん: いや、やっぱり「狩猟をやりたい」って変わった人間が多いと思うし、自分でも狩猟をはじめるなんてどういうことなんだろう、とか思っていたわけで、最初の説明会に行くのも、どんな人がいるんだろうと、すごくドキドキしながら行ったんですよ。そしたら、同じチームになにかいい雰囲気の、世代も近くて話も合いそうな人がいたので、すごく安心感があったのかもしれないですね。それで、初対面のときから「仲良くなりたいなあ」と……。
──小林さんって、いわゆる「人たらし」なタイプなんですね。
小林さん: いや、全然そんなことないんですけど。
栗木さん: 遊びに行ったとき、奥さんが「この人がそんなことするの、珍しい」っておっしゃってましたね。
小林さん: いろんなところに出かけていってつながり作ってやろう、というタイプではないので、自分でもびっくりでした。まあでも、やっぱり特殊は特殊ですよね。非日常を共有する、ということの中でも、ハンターバンクの現場にあるのは、すごく特別な非日常なので。考えてみると、それって極めてプリミティヴな、人間の本質に近いことをみんなでやっている、というところで、動物としての人間の本質的な営みに近いんだと思うんですよ。それを共有する、っていうのは、本能的な「群れ」の延長線上にあるのかもしれないですね。
──それこそ「同じ釜の飯」ってことですよね
小林さん: ですね。大人になってから、社会人としての延長線上の友だちづきあいではなくて、こういう感じで人と仲良くなれるのって、本当に稀有な経験だな、とは思います。
栗木さん: ぼくもどこか、ハンターバンクのイベントに行ったり、箱わなの様子を見に行ったりするときって、自分のキャラクターも童心に帰ってる、というか、なにも背負わずに参加できているという感覚もあるので、気負わずに、リラックスしてチームのみんなと会えている、ということかもしれないですね。
──なるほど。それは、獲物が獲れた、とか、肉が美味しい、とかいう部分とはまた違った意味での、狩猟という非日常の経験の魅力というか、ハンターバンクの面白さなのかもしれないですね。
栗木さん: ぼくが今回のインタビューで小林さんを誘ったのも、まさにそういうところだな、と思いますね。
──もともとのお知り合いなんだとばかり思っていましたので、そうじゃないと聞いた時には驚いたんですが、お話をうかがってよくわかりました。ありがとうございました。

栗木リョータさん(くりき・りょうた)

持ち前の好奇心から、子どものころに感じていた〈問い〉への答えを、ハンターバンクでついに見つけることができたという、三つ子の魂の持ち主。とはいえ、狩猟免許を取得しただけでは、その答えにはたどり着けていなかったのかもしれません。ともあれ、納得のハンター生活を満喫中の栗木さんですが、次なる好奇心の矛先は、どこに向かうのか……。

小林洸介さん(こばやし・こうすけ)

フランス料理の面白さに目覚めた小林さんが作ってみたかったのは、動物の血で作るシヴェのソース。単なるジビエ料理というだけでなく、そのための素材を調達するためのハンターバンク、というきっかけは、まさに凝り性ならでは。次なる挑戦は、材料にたっぷりの血を使ったソーセージ「ブーダンノワール」ですが、素材はもちろん自分たちで獲ったイノシシです。

ハンター体験記

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.10
栗木リョータさん、小林洸介さん

命と向き合う特別な時間。大人の仲間づくりもまた、山の恵みです。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回は、いまも同じチームで活動を続ける、栗木リョータさんと小林洸介さんのおふたりにご登場いただきました。もともとのお知り合いでもなく、それぞれが別々の想いで参加したハンターバンクでしたが、フタを開けたらなんだか最初から意気投合して……。猟果にも恵まれ、ハンターバンクを大いにエンジョイしているチームの中で見つけた〈楽しさ〉を、たっぷりとうかがいました。
──今回は、このハンター体験記のお話をうかがえるということで栗木さんにお願いをしたところ、栗木さんから「同じチームのハンターふたりで話をする、っていうのはどうですか?」というご提案をいただきまして、小林さんにもご参加いただいてのインタビューとなったわけですが、栗木さんと小林さんって、もともとのお知り合いだったんですか?
栗木さん: いや、ハンターバンクが初対面ですね。
小林さん: 最初の3か月のレクチャー期間のキックオフのときに初めてお会いしました。その時に4チームに振り分けられたんですが、たまたま同じチームになったんです。
栗木さん: それで、なんとなくウマがあったんですね。それが昨年の11月で、そこから1月までのレクチャー期間でハンターバンクの活動をスタートしました。
──で、そのあとは、どんな感じで活動されてるんですか?
小林さん: レクチャー期間では4チームに分かれていたんですが、そこでひと通りのノウハウを得て卒業となり、レクチャー期間が終わって継続したのが11人で、それがひとつのチームとして、いまは箱わなをふたつ、シェアしています。
──ところで、まず栗木さんにうかがいますが、そもそもなんでハンターバンクに参加してみよう、ということになったんですか?
栗木さん: 実はハンターバンクを知る前の、2021年の暮れにわな猟の免許を取っていまして……。もともと狩猟には興味があって、というか好奇心が強くて、なんでも自分でやってみたいんですね。狩猟も、ご先祖さまはやっていたはずなのに、いまはやらなくなっているんだよなあ、と思っていました。まあ難しくいえば文化的な興味なんですが、例えば子どものころに、エスキモーの狩りの映像で子どもたちがまだ温かい新鮮な血を分けてもらって飲んでいるのを見て「世界って広いなあ」と思っていたんですが、でもその子たちって自分と同じような年代だけど、どんなこと考えてそういうことしてるんだろうな、とか、自分もそういうことをしたらどんな気持ちになるんだろうな、とか、そういう子どものころの好奇心が、狩猟への興味につながったんです。それで狩猟免許も取得したんですが、実際に活動をスタートするためのフックというか、なにかそういうものが猟友会などに用意されているわけではなくて、いざ狩猟を始めるためには全部を自分で能動的にやらなくちゃいけなかったんですよね。でも、なにから手をつけたらいいのかわからないまま時間だけがズルズルと過ぎていってしまって、なにかきっかけが欲しいな、こんなことしていると猟期もすぐに終わっちゃうぞ……と考えていたところに、SNSでハンターバンクの広告を見つけたんです。お、これはいいかも、それにいつも通勤で使っている小田急電鉄さんがやってるんだ……と思って、それで参加してみようかと思ったんです。
──だとすると、そこで運よくハンターバンクを見つけてなかったら……。
栗木さん: ペーパーハンターまっしぐら、だったかもしれないですね。なにかしらきっかけになることをつかもうとはしていたんですけれど、狩猟者の知り合いもいない個人としては、それもなかなか難しくて……。
──なるほど……。では小林さん、同じことをうかがいますが、ハンターバンクに参加することになったきっかけはなんだったんですか?
小林さん: 私は凝り性なところがありまして、去年から料理をするようになったんですが、そこでジビエ料理を試しに作ってみたら、これは美味しいな、と。その中でも、フランス料理の古典的な手法のひとつに「シヴェ」というのがあるんですが、これは動物の血をソースに使うんですね。それをやってみたいな、と思っていたんですが、その動物の血というのがなかなか手に入らなくて、もちろんネットで通販もあるんですが、豚の血で2キロとか、そういう単位なんですよ。それはさすがに手に余るので、どうしたもんかなあと思っていたところ、SNSでハンターバンクを見つけたんです。これなら肉だけでなく新鮮な血も手に入るし、いろいろと面白そうだな、ということで……。
──なかなかすごいお話ですね。シヴェのソースから狩猟の道に入る、というのは初めて聞きました。小林さんは、もともとジビエがお好きだったんです?
小林さん: いやあ……まあ食べたことはあったんですが、レストランでジビエ料理が出てきたら、みんなで「思っていたほど臭くないね」とか「うん、美味しいじゃん」とか面白がってるレベルだったんです。その時点では自分でシヴェのソースを作るだなんて、思ってもいなかったんですけどね。それが突如として料理にはまって、作ったものをSNSとかに上げていると、やっぱり料理の見栄えもよくしたくなるんですよ。それでフランス料理に手を出したら、フレンチのクラシックにはジビエがあるわけで……。農林水産省が主催している「ジビエ料理コンテスト」というのがあるんですが、それに出品しようとジビエの肉を手に入れたりしているうちに、そこからどんどんとはまっていきましたね。そんなところにハンターバンクが、というわけです。
──おふたりともユニークな入り口からハンターバンクに参加された、ということかと思うのですが、実際に狩猟を経験してみて、まずはどんな感想だったんでしょうか。
栗木さん: あの、そもそも「動物を殺めるのが好き」という人もなかなかいないとは思うんですが、もともと動物は可愛いし、愛でたい、という気持ちのほうが強かったので、積極的に「仕留めたい」という気持ちはなくて……。実際に獲物が箱わなに入ると、トレイルカメラの映像が届くので、その様子もわかるわけですよね。それで、いざ捕獲できたぞ、週末に現場に行くぞ、となったときには眠れないくらいドキドキして……。
──そのとき箱わなに入ったのは、どんな獲物だったんですか?
栗木さん: 成獣のメスのイノシシ1頭に、仔イノシシが7〜8頭、ぞろぞろと……。まだレクチャー期間の3カ月の間のことだったんですが、初の猟果としては、大猟でした。でもそれが現実のこととなると、なにかちょっと恐怖感もあったりして、本当にそんなこと自分でやるのか……という感じで、当日になっても気持ちとしては荷が重かったんですよね。ただ、ハンターバンクに参加するとなった時点で自分で決めていたんですが、もしもメンバーの中で積極的に止め刺しをしたいという人がいなければ、そこは率先して自分が手が挙げたいな、と思っていまして、実際にその大きなメスを自分が止め刺ししたんですが、そのときはやっぱり、ちょっとモヤっとした……というか、なんともいえない、不思議な気分になりましたね。
──でもまあ余韻にひたる間もなく、すぐに解体に取り掛からなきゃ、ですよね。

栗木さん: ええ、その日のうちに解体まで終わらせなければならないわけで、仔イノシシたちも止め刺しして解体小屋に移動したんですが、まあ解体の作業中にも「おお、生々しいな……」という感じはありました。ただ、それまでにも箱わなの見回りとか誘引エサの使いかたとか、小林さんを初めチームのみんなとはコミュニケーションが取れていて、それなりに親睦も深まっていたんですよね。そんな仲間といっしょに、獲物を解体していったわけですが、最終的に気持ちの決着がついたのは、最後にみんなでその肉を分かち合うところで、部位ごとに仕分けられた肉を前にして「その左モモ、持ってっていいよ」とか「ここ希少部位だから全員で分けようぜ」とかやってるときに、なにかこう、内面から湧き上がってくる喜びのようなものがあって、それまで精神的にもキツかった部分が消化されていく感覚というか……うまくいえないんですけど、子どものころに感じていた疑問も、そこでちょっと「ああ、なんか、こういうことなのかな……」というのがつかめた感じがあって、その幸福感というのは、ほかではちょっと得難い感覚だな、と思いましたね。

──ふむ……。それは強い絆が生まれたことを感じさせるお話ですけど、でもその仲間の皆さんって、もともとのお知り合いでもなかったんですよね? なにかすごく密度の高いつながりを感じますが……。
栗木さん: ええ、知らない人たちでした。でも、そもそもハンターバンクに参加してくる時点でバイアスがかかっているというか、まあちょっと変わった、面白い人が多いわけですよ。大人になってからの友だちの作りかたというか、やっぱり趣味や嗜好を通して仲良くなっていくときの近付きかたというか、距離の縮まりかたというのがあって、まあ絆も深まりやすいですし、それに「命を扱っている」という緊張感もあって、仲間意識が芽生えやすいのかもしれないですね。目的を共にして、協力して作業して、最後は獲物を分かち合って、コミュニケーションの密度も高くなりますからね。
──いろいろと奥の深いお話ですね。では次に小林さんにも、初めての獲物と向き合った率直な感想をうかがいたいのですが……その前にまず、念願のシヴェの材料は手に入ったんですか?
小林さん: 自分が犬を飼っているのもありまして、どちらかといえば動物愛護というか……農林業被害のある地域のイノシシやシカも、害獣として駆除しなければいけないというのは頭ではわかっていても、いざその場面になったら「ああ、やっぱりかわいそうだなあ」と思ったりするのかなあ、という感じだったんです。それこそ、YouTubeとかで止め刺しの方法を事前に勉強する中でも、どこか「かわいそうだな」とは思っていたんですね。でも、それがいざ、そういう場面に立ち会ってみると、場の空気というのもあるんでしょうけれど、みんな淡々とやるべきことをやる、という感じで、むしろそういう場面で「かわいそう」と騒ぎ立てることのほうが、イノシシにも、というか、その命に対しても失礼なのかな、と感じまして……なにか、当たり前の営みのひとつとして受け入れられた、というのはありますね。
──小林さんとしては、狩猟への入り口が料理だったわけですからね。
小林さん: まあ料理のプロセスのいちばん手前の、というとドライに聞こえちゃうかもしれないですけど、ふだん肉を食べているのだって、誰かが同じことをしているわけですよね。それをたまたま自分が、自分のこととしてやっている、ということですかね。もちろん有害鳥獣駆除という側面もあるので、多少は社会に貢献できているのかな、というところもありますし、初めての止め刺しでもためらう、ということはなかったですね。で、実感としては我ながら上手にできた、と思っています。一発できれいに刃も入りましたし、苦しませることもなく止め刺しできてよかったな、という感じですね。それよりも解体が……あの脂を肉に残しながら皮を剥ぐ、というのが難しいな、と思いました。以前に猟師さんから肉をもらったこともあるんですが、その肉のキレイさとは違うな、という感じですね。扱いやすく、しかも美味しい状態にする、というのはめちゃくちゃ大変ですね。
栗木さん: あの、止め刺しは箱わなに入った現場でやるわけですが、そこから車で運んで小屋のところで解体するわけですよね。現場はやっぱり地面が血みどろだというのもあって、まだドキドキした気持ちをひきずっていたんですが、小屋に移動したら気持ちとしては好奇心のほうが勝ってきて、どうやって解体してどういう部位の肉が取れるのかな、みたいなモードになりましたね。そのうえで、哺乳類なので解剖学的にはイメージしやすいはずなのに、首を落とすにしても一苦労があったりして、そういうところを1分の1のスケールで体験できたというのは、面白かったですね。その時点ではもう肉に見えてましたし。
小林さん: 私も、小屋に移動したあたりからは肉に見えちゃってました。
栗木さん: ブラシでダニを落としているところですら、もう完全に、肉としての下処理でしたね。
──非日常だったものが、日常になった瞬間、ということなんでしょうね。
小林さん: ただ、それにしても狩猟ってとても非日常な体験なわけで、いわゆる「吊り橋効果」みたいなものなのか、非日常を共有することで仲良くなれる、みたいな感じもありましたね。
──そういうこと、あるかもしれませんね。ところで、レクチャー期間から猟果に恵まれて、そのあとも継続してハンターバンクでの活動しているわけですが、それからの捕獲実績はどんな感じなんですか?
小林さん: そのあとも、たぶん5〜6頭は獲れてるんですけど、実はボクら、止め刺しや解体には行けてないんですよ。やっぱり、ハンティングって獲れるタイミングをコントロールできないので。毎日その場に行ける、というわけではないですからね。
栗木さん: そうなんです。その間はチームの皆さんにお願いしている感じですね。
──まあそれでも狩猟ができる、というのがハンターバンクのいいところですからね。
栗木さんと小林さん、おふたりのお話は[その2]へと続きます。

栗木リョータさん(くりき・りょうた)

持ち前の好奇心から、子どものころに感じていた〈問い〉への答えを、ハンターバンクでついに見つけることができたという、三つ子の魂の持ち主。とはいえ、狩猟免許を取得しただけでは、その答えにはたどり着けていなかったのかもしれません。ともあれ、納得のハンター生活を満喫中の栗木さんですが、次なる好奇心の矛先は、どこに向かうのか……。

小林洸介さん(こばやし・こうすけ)

フランス料理の面白さに目覚めた小林さんが作ってみたかったのは、動物の血で作るシヴェのソース。単なるジビエ料理というだけでなく、そのための素材を調達するためのハンターバンク、というきっかけは、まさに凝り性ならでは。次なる挑戦は、材料にたっぷりの血を使ったソーセージ「ブーダンノワール」ですが、素材はもちろん自分たちで獲ったイノシシです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.9 鈴木農人さん

ハンターバンク、長く続いて、広がってもらわないと困るんです! [その2]

ホストとして場所を提供している箱わなに捕獲があれば、それだけ自分の畑の被害も減っていく。そう実感している鈴木さんですが、だからといって「その時に獲れるだけ獲ってしまえばいい」と考えているわけではないそうです。山の獣と向き合うのは、自然と向き合うこと。それは長い闘いであり、長い付き合いでもある。そこには5年後、あるいは10年後をイメージした、山の農家さんならではの想いが、ありました。
──鈴木さんの畑の箱わな、捕獲の成績って最初から好調だったんですか?
鈴木さん: いやいや、実はいちばん最初のころ、このあたりの仲間の農家で、みんなでハンターバンクのホストをやってみようという話になったんですが、私のところだけ獲れなかったんですよ。ほかの箱わなにはどれも入ってたのに……。それで「なんでオレんとこだけ入らねえんだ?」ってずっと思ってたんですけど、箱わなの場所を変えてみたら、なんだかいちばん入るようになったんです。でも、その場所の違いっていうのが、まあよくわからないんですよね。それもまた、ハンターさんといっしょに勉強していければいいかな、と思っています。それに、これは親しくしている地元の猟師さんから聞いた話なんですが、イノシシも親から学ぶことって、あるみたいなんです。エサのありかとか、箱わなの危険性とか。ところが、子イノシシが教わる前に親イノシシが死んじゃったりして、箱わなを知らないまま育っちゃったイノシシもいるらしいんです。そういうイノシシはヌカに誘われてヒョイっと箱わなに入っちゃったりするかもしれないわけで、そういうところも面白いですよね。
──そういえば先ほど、今日も大きいのが箱わなに入ってる、とおっしゃってましたけど、それは親イノシシというか、大人のイノシシですよね?
鈴木さん: それがたぶん、この辺りに出没していたいくつかの家族の、親イノシシとしては最後の1頭なんだと思います。前に親イノシシと子イノシシがまとめて箱わなに入って、ということがあったわけですが、その子イノシシって、別の母イノシシのところの子イノシシもいっしょに入ってたみたいなんですよね、サイズ的に。で、今日のイノシシはたぶん、残ってた母イノシシかな、と。
──だとすれば、それでちょっと落ち着きそうですね、このエリアとしては。
鈴木さん:  農家としては、助かりますね。
──ところで、鈴木さんの畑に来てるのは、イノシシだけなんですか?
鈴木さん:  いや、イノシシだけじゃなく、この5年くらいは、シカも来てますね。で、ハンターバンクにホストとして参加してよかったと思っていることのひとつは、トレイルカメラでどんな動物が来ているのか、実際に見ることができる、ってところなんですよね。箱わなの周辺でなにか動きがあると、それに反応して撮影した画像をアプリに送ってくれるんですが、これまでは夜中に荒らされていても、あとからその痕跡を見つけるだけで動物たちの行動は全然わからなかったわけですけど、どんなところからどんな風に入ってきているのか、そういうことが見えるようになりました。シカの食害というのは直接的な被害で、どうやら4年目、5年目あたりの太さの木が食べごろらしく、その樹皮がかじられちゃってるんです。ほかにもタヌキとか、アナグマとか、ハクビシンとか、いろいろ来てるのが写っていて、もちろんいろんな動物がいるのはわかってましたけど、それが可視化されたわけですね。どれくらいの数がいるのか、どういう風に行動しているのか、その実物が映っているって、これ農家にとってはすごく大きな知見になるんです。仮にイノシシが減ったら、その分だけシカが出てくる可能性もあるわけで、いま周辺の農家さんもそこを心配してるんですよね。
──そこはまた新たな対策が必要ですね。

鈴木さん: 近隣の農家さん、皆さん金属の柵でそこそこ農地を囲ってらっしゃるんですが、まあイノシシ用の高さですからね。シカが跳び越えられない高さとなると2メートルは必要らしいので、なかなか大変なんです。それをどう対策するか、というのをみんなで考えるためにも、トレイルカメラの映像があれば、いいアイディアが出てくるかもな、と思ってるんです。これまでは近所の農家さんで集まっても、夜中の動物の姿なんて、想像だけで話し合ってたわけですからね。 なので、このハンターバンクの取り組みがどんどん広がっていけば、私たちの知らない対策をやってる地域があって、そういう地域と横のつながりができたりするかもしれないわけで、面的に広がっていけば農家としては本当にありがたいな、というところなんですよ。それに……これ私ずっと思っているんですが、いまは同じエリアの中でも、例えばハンターバンクの箱わなのすぐ近くに、知らない猟師さんのくくりわなが仕掛けてあったりするんですよね。いろんな人がいろんなところで、それぞれのわなを仕掛けていて。わなをどこに仕掛けているか、最近の農業被害やイノシシの出没情報とか、情報が共有できて連携が取れるようになったらいいなと思っています。そこもハンターバンクが面的に広がって、わなの設置の情報や捕獲の成果が共有できたら、ムダがなくなるんじゃないかと思っているんです。なにしろ個人の箱わながずっと使われてなくて、もう錆び付いて、草ぼうぼうになってるようなのもありますからね。辞める人は勝手に辞めちゃうから……。

──そんな箱わなの残骸でも、動物からしたら怪しい存在なので、寄り付かない、ってこともあるんでしょうね……。
鈴木さん: かもしれませんね。とにかくハンターバンク、本当にいい取り組みだと思うので、それが続いていってほしいわけですけど、まあ獲れなかったら楽しくないので、ハンターさんもモチベーション下がっちゃいますよね。なので、このエリアだったらこっちの端とこっちの端の2カ所で、みたいなコントロールで、イノシシの被害が出ている場所をフォローしながらコンスタントに捕獲ができる状況を維持していけるのが、ホストにとってもハンターさんにとってもいいと思うんです。一時期に集中的にイノシシを獲って、それで数が減ったら被害も減るわけですが、獲れなくなるのでハンターさんも来なくなって、何年かしたらまたイノシシが増えてくるのにハンターさんいないじゃん、みたいなことになったりしたら、農家としては困るわけですよ。逆に、ハンターバンクが農家の間でも広がっていけば、ホスト農家からの情報も増えて、知恵も集まるわけですから、獣害対策としても、ハンターさんの捕獲効率としても、よくなっていくと思うんです。そういう意味では、これもまた持続可能性の話なんですよね。
──なかなか難しい問題ですが、たしかに大きな課題ですね。ありがとうございました。

鈴木農人さん(すずき・たかひと)

小田原のエリアでは珍しい、シキミ(樒)とサカキ(榊)を専門に栽培する農家さん。ハンターバンクには初期からのホストさんとして参加し、箱わなの設置場所を提供する。最近は捕獲成績も好調で、それにともなってイノシシの被害も減ったのはうれしいものの、イノシシが減った分だけ、次はシカが増えてくるのでは、とお悩み中。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.9 鈴木農人さん

ハンターバンク、長く続いて、広がってもらわないと困るんです! [その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

 

さて今回は、ハンターバンクがスタートした時から会員のハンターさん達に狩猟の場を提供してくださっているホストの農家さんである鈴木農人さんにお話をうかがいました。ここ10年ほどでイノシシが増え、畑の足元を荒らされるようになって困っていたところで、耳にしたのがハンターバンク。それまで狩猟には縁がなかったそうですが、人任せではない獣害対策として、自らホストとなって挑戦してみることにしたそうです。さてさて、その成果はどのように……。

──お名前、農の人と書いてタカヒトさんとお読みするんですね。これはご両親か、ご親戚か、命名されたかたにセンスがあったというか……やっぱり代々の農家さんでいらっしゃるんですよね?
鈴木さん: まあ後を継ぐことを仕組まれた名前、というか……そういうことですね。うちはシキミとサカキを専門にやってまして、食べるものを作ってない農家、ということになります。静岡県なんかだとシキミやサカキをメインでやっている地域もあるんですが、栽培としてはここ小田原あたりが北限になるので、専門でやる農家がないんですよね。
──シキミは仏事の、サカキは神事のお供え、というイメージがあるんですが、そんなに需要があるものなんですか?
鈴木さん: 日本の家って神棚と仏壇の両方があったりしたので、もともとは日常の暮らしの中にも需要があったんですよ。それで、昔はこのあたり、小田原や早川には野菜やミカンを作りながらその傍らでシキミやサカキをやっている農家がたくさんあったんですが、だんだん作る人も減ってきて……。そのうちにオレンジの輸入自由化ということがあって、国産ミカン類の価格が暴落したんですが、うちはその時にミカンをやめて、シキミとサカキに全面的に切り替えちゃった、ということなんです。
──なるほど。で、そんな鈴木さんはハンターバンクにホストとして箱わなを置く場所を提供されているということなんですが、ホストさんになったきっかけはなんだったんですか? やっぱりシキミやサカキがイノシシの食害で……。
鈴木さん: いや、食害というよりも、石垣や土手が掘り返されて崩されるので困っていたんです。シキミもサカキも常緑樹で、畑を回って剪定をし、きれいな枝葉を切って出荷するんですが、イノシシに荒らされると作業性が悪くなっちゃうんですよね。そもそもシキミって、葉にも根にも毒性があるので、野生動物は避けて通るんですよ。で、実はサカキも同じように「直接の食害はない」と考えていたんですが、最近どうやらイノシシが根っこをかじっているんじゃないかと感じています。サカキの畑だけ、根元が掘り返されてるんですよ。まあ何十年も育っているような大きな木なので、それですぐに枯れるということでもないんですが、葉の生育にはちょっと影響が出ているのかもしれませんね。
──ご自身でなにか対策はされていたんですか?
鈴木さん: 食害のような直接の被害がないと考えていたこともあって、どうしたものかと思いつつも、具体的にはなにもしないでいたんですよね。そりゃ以前からイノシシがいたことはいたんですが、畑を荒らされるということは、そこまで多くなかったんです。それがこの10年くらいで、だんだん荒らされるのがひどくなってきて、いよいよ困ったなあ、と……。そんなときにハンターバンクの話を聞きまして、これはいい機会かな、と思いまして、ホストとしてハンターバンクに参加して、そろそろ2年になりますかね。
──捕獲の実績はどんな感じですか?
鈴木さん: 去年の暮れから3回、捕獲がありまして、全部で11頭、かな。いちど、親イノシシといっしょに子イノシシがたくさん入ったこともありまして、回数のわりには数が多くなってますね。このあと行きますけど、今日もわりと大きいのが入ってるんですよ。
──それはぜひ見せてください! それで、畑が荒らされるといったイノシシの被害に対する抑止効果としては、どんな感じですか?
鈴木さん: ものすごく出ましたね、効果。以前とは、だいぶ状況が違います。イノシシの出てくる数が減ったので、おのずと被害も減ったんだと思います。まあイノシシの行動範囲がきちんとわかっているわけではないので、なんとも言えない部分はありますが、まわりの農家さんもわりと広い範囲で「イノシシ、見なくなったよね」という話になってます。近所ではホストとして参加しているのはうちだけなんですけどね。これまでも自分の農地をフェンスでぐるりと囲ってた農家さんが少なくなかったんですが、それでもどこからか入っちゃってたんですよね、イノシシが。でもうちの農地にハンターバンクの箱わなを置いたことで、近隣農家さんでも侵入される回数が減ったし、もちろん作物を食われる回数も減っているようですね。
──まさしく効果てきめんですね。ところで、鈴木さんが場所を提供されているその箱わなをシェアして活動しているハンターさんのグループがあるわけですが、そのハンターさんたちとのやりとりって、どんな感じなんですか?
鈴木さん: もちろん畑に出ているときに顔を合わせれば、そこで話もするし、情報交換もするし、ということなんですが、基本的にはチャットアプリを使ったやりとりですね。皆さん毎日は来ることができませんから、私が見回りをして、イノシシを誘引するためのヌカを撒いたりしてるわけです。それに対して「ヌカをもう少し多めに撒いてくれませんか」とか、アプリで依頼があったりするわけですね。で、そのヌカがどんなふうに食べられているか、あるいは食べに来ていないのか、周辺に掘り起こされた形跡はあるのか、ないのか、そんなことも書き込んで、やり取りをしています。
──箱わな周りの状況を毎日ずっと観察していらっしゃると、狩猟者的な視点もだいぶ身についてきたんじゃないですか?
鈴木さん: ものすごく出ましたね、効果。以前とは、だいぶ状況が違います。イノシシの出てくる数が減ったので、おのずと被害も減ったんだと思います。まあイノシシの行動範囲がきちんとわかっているわけではないので、なんとも言えない部分はありますが、まわりの農家さんもわりと広い範囲で「イノシシ、見なくなったよね」という話になってます。近所ではホストとして参加しているのはうちだけなんですけどね。これまでも自分の農地をフェンスでぐるりと囲ってた農家さんが少なくなかったんですが、それでもどこからか入っちゃってたんですよね、イノシシが。でもうちの農地にハンターバンクの箱わなを置いたことで、近隣農家さんでも侵入される回数が減ったし、もちろん作物を食われる回数も減っているようですね。
──それはもう、単に場所を提供してるだけ、という感覚じゃなくなっている、ということですよね。

鈴木さんのお話は[その2]へと続きます。

鈴木農人さん(すずき・たかひと)

小田原のエリアでは珍しい、シキミ(樒)とサカキ(榊)を専門に栽培する農家さん。ハンターバンクには初期からのホストさんとして参加し、箱わなの設置場所を提供する。最近は捕獲成績も好調で、それにともなってイノシシの被害も減ったのはうれしいものの、イノシシが減った分だけ、次はシカが増えてくるのでは、とお悩み中。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 番外編 石崎英治さん

ハンターバンクを狩猟初心者にこそオススメできる理由 [その2]

いまやブームというよりも市民権を得た印象もある昨今のジビエ事情ですが、10年以上にわたってその最前線を走ってきた石崎さんは、全国の事例を数多く見てきた鳥獣被害対策のコンサルタントでもあります。そんな石崎さんが「これ、面白い!」と感じたハンターバンクの魅力のポイント、取り組みとしての強みはどこにあるのか、もう少し掘り下げて話していただきました。
──さて石崎さん、ハンターバンクというサービスを知った人の中には「そもそもなんで電鉄会社の小田急さんがハンターバンク?」と感じる向きも少なくないと思うのですが、そこはどんな経緯があったんですか?
石崎さん: まあ社外の人間として、という範囲の話になりますが、小田急電鉄の沿線で発生しているシカやイノシシの鳥獣被害に対して、地域貢献として課題解決に貢献したいということで社内プロジェクトが立ち上がって、私のところにも相談があったんですね。そこから鳥獣被害対策のコンサルタントとして意見交換しているうちに、コンセプトがどんどん面白く仕上がっていって、最終的には私自身もプロジェクトに参加することになった、という流れですね。
──ほかではあまり聞いたことのないサービスですよね?
石崎さん: そうですね、ハンターバンクって、いろいろとユニークな取り組みなんですよ。例えばいまサービスを展開している小田原のフィールドですが、ハンターバンクを導入したことで、そこでは会員のハンターさんと、場所を提供しているホストさんが、課題解決に対して同じ目線で話ができて、目標を共有できているんです。日本における狩猟って、法的に認められた資格や方法、期間であれば、市街地や公道、国立公園など狩猟が禁止されている場所でなければどこでも自由に狩猟ができる、というのが大原則なんです。つまり、狩猟者さんと土地の所有者さんがしっかりと話をする機会って、実はあまりなくて……そのために、狩猟者さんが勝手にわなを仕掛けたり、勝手に畑に入ったり……といったトラブルも起きていますし、逆に土地の所有者である農家さんの側でも、鳥獣被害対策が狩猟者さんや行政まかせになって、当事者なのに自助努力がなくて……といった課題もあるんですよね。
──まあ地元で顔見知りだったりはすると思いますが、それ以上である必要はない、ということですね。
石崎さん: それがハンターバンクだと、例えばホストさんがミカン農家だとすれば、どこにイノシシが出ているのかという話をするとき、ざっくりと「ミカン畑が掘り返されて困る」というレベルではなく、ミカン農家さんの目線から品種ごとの収穫期の違いによる対策ポイントの話なんかも聞けるわけです。いまの時期なら極早生を植えてあるエリアが狙われていて、その次は大津や青島の……これは私たちがミカンを食べるときにはあまり意識していない「温州みかん」の中の品種の話なんですが、そんな感じで理解が深まれば、ハンターさんの立場にすれば、季節が進むことで移動していくイノシシの出没ポイントがわかるということですから、箱わなを置くべき場所の精度も上がるわけですよね。地域住民である農林業者さんと、鳥獣被害対策の担い手でもある狩猟者さんの間では、そういうコミュニケーションってなかなか取れないんです。それが、ハンターバンクでは成立している。単なる狩猟者ではなく、ハンターさんが地域の農家の方々と同じ目標を共有する同志のような関係性を築けている、ということなんです。
──都市部から通ってくるハンターさんも多いと思いますが、地域との関係性を深め、近い距離感が持てるようになる取り組みなんですね。

石崎さん: まあ小田原のフィールドに関していえば、電車を降りた駅からも、高速道路を降りたICからも、実際にすごく近いんですけどね。

神奈川県小田原エリア

──そうですね。ところで〈狩猟〉って、ときには「動物がかわいそうじゃないか!」というようなご意見があったりもするんじゃないかと思うのですが、アドバイザーとしては、そこはどう受け止めているんですか?

石崎さん: まず、狩猟すなわち野生鳥獣の命を奪う行為に対して、それがかわいそうだとか、残酷だとかいう意見があることは理解できますし、否定するつもりもありません。その一方で、仕掛けた箱わなにイノシシが入って見事に捕獲できたときってうれしいものですし、その捕獲につながる工夫のあれこれも、楽しいものであるんです。それを〈食育〉として推進するわけでもありませんが、命をいただいて食べることで生きていくというのは動物として当たり前のことであり、その一方で私たち人間としては、そこに〈よろこび〉や〈楽しさ〉や〈美味しさ〉があり、そして〈悲しみ〉といった感情もあるということは、狩猟をしていると実感できるものです。個人的には、それを知る人が増えるというのも悪くないことだと思うんですよね。
──なるほど。たしかに、人間もまた生き物ですからね。
石崎さん: それに、いまも鳥獣被害の問題が解決していない以上、基本的には〈捕獲〉は続けていく必要があるわけです。そのためには、これからの捕獲の担い手として、新しい狩猟者は必要です。狩猟者を増やし、育てていく……というのはおこがましいのですが、途中で諦めずに、長く続けていってもらえないと、被害に悩んでいる農林業者さんも困るわけですよね。この鳥獣被害の問題は全国に共通する課題なんですが、前回の話でも触れたように、対策としてのジビエが成立する地域であれば、ジビエ生産を続けながら新しい狩猟者も増やせると思います。ところが全国のほとんどの地域では、捕獲頭数が少ないなどの理由で対策としてのジビエ生産が成り立たず、捕獲の担い手を増やすというところにもつながりません。しかし、そういった地域でも、というか、ジビエが解決策にならないそういった地域にこそ、ハンターバンクの仕組みは相性がいいと考えています。なんとか広げていけるといいな、という感じですね。
──ハンターバンク、全国に広がっていくといいですね。たまにワーケーションを兼ねて、旅先でひと月くらい箱わなをセットしたりして……。
石崎さん: それは夢のまた夢かもしれませんが、とにかくハンターバンクは狩猟をはじめること、狩猟を楽しむことのハードルを下げていると思います。なので、興味を持ったかたは、ぜひぜひ気軽に参加していただければ、と思います。まずは狩猟という行為を経験して、それを楽しんでもらうことで、その先にある鳥獣被害対策や地域の課題解決といったテーマも実感できるプログラムになっていると思います。私も全力でサポートしますので、ハンターになりたいと思った人は、オンラインや現地での説明会などで、なんでも聞いてみてください。もちろん、鳥獣被害に悩んでいるけどジビエはさすがに無理じゃないか、と考えている自治体の担当者の皆さんのご相談にも乗れると思います。
──心強いですね。今回はいろいろと掘り下げたお話がうかがえました。ありがとうございました。

石崎英治さん(いしざき・ひではる)

北海道大学の大学院まで林学に取り組んだものの、研究対象だった森がエゾシカに食べられて壊滅したことに衝撃を受け、今度はエゾシカ対策の研究を重ねた結果「美味しく食べて減らせばいいんだ」とジビエの生産を株式会社北海道食美樂(北海道新冠町)と株式会社おおち山くじら(島根県美郷町)で、ジビエの卸売業を株式会社クイージ(東京都日野市)で行う食いしん坊。鳥獣被害に苦慮する自治体のコンサルティングにも従事するかたわらで、ジビエの利活用を普及啓発するNPO法人伝統肉協会の理事長としても奮闘中。 

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 番外編 石崎英治さん

ハンターバンクを狩猟初心者にこそオススメできる理由 [その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも手軽に、そして安全に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回は趣向を変えて、ハンターバンク事務局の石崎英治さんにお話をうかがいました。すでに活動されているハンターさんへのアドバイスをはじめ、説明会や解体講座などでのサポートなど、初めて狩猟を楽しむハンターさんにとっては頼れる相談役の石崎さんですが、実は根っからの狩猟者というわけでもなく……。ハンターバンクというサービスをどういう視点で捉えているのか、聞いてみました。
──ハンターバンクに参加している会員ハンターさんにとっては、捕獲にうまくこぎつけられない時に助言を受けたり、捕獲後の解体で困ったときに頼りになる相談役としてすっかりお馴染みの石崎さんですが、ここではまず自己紹介からお願いします。小田急電鉄の社員ではないと聞いていますが、どういうバックグラウンドをお持ちなんでしょう?
石崎さん: ひとことで言うと、ジビエの人で、鳥獣被害対策の人ですね。ハンターバンクの事務局としてハンターの皆さんとやりとりさせていただいていますが、鳥獣被害対策のコンサルティングや、島根県でイノシシ肉の生産を、北海道ではエゾシカ肉の生産をしている肉屋さんでもあります。
──もともとは趣味の狩猟としてこの道に入って、という感じなんですか?
石崎さん: いや、それが違いまして……北海道大学の大学院まで林学という林業の勉強をしていたんですが、研究フィールドにしていた森がエゾシカに食べ尽くされるという経験をして、森を守るという立場からエゾシカと向き合うようになったのがきっかけですね。で、増えすぎたエゾシカを減らさなければならないんだったら、せっかくだからそれを美味しく食べられるようにするのがいいんじゃないか、ということでジビエを扱うようになった、ということなんです。そういうことをもう10年以上やってます。

──10年以上となると、いわゆるジビエブームの先駆けでもあったわけですね。それがどうしてハンターバンク事務局に……。

石崎さん: きっかけは、狩猟の楽しい体験を広げることで地域の鳥獣被害対策を進めるというハンターバンクのコンセプトに共感したことですね。これまで長く、ジビエの利活用で鳥獣被害対策を進めてきたのですが、地域をさらに広げて、対策を続けていくことに、限界を感じていたんです。というのも、捕獲したエゾシカやイノシシをジビエとして利活用するのは、鳥獣被害対策の推進と、新しい事業を作るといった効果もありますが、ジビエ事業の採算性をとるのは難しいことなんです。地域内で一定以上の捕獲頭数がないと、採算は取れません。「この地域でもジビエをやりたい!」なんて地元の声でジビエ事業を開始する地域が少なくありませんが、いざやってみると捕獲頭数が足らなくて継続できないなんて話、あるんですよね。

──よその地域に成功事例があるからといって、簡単に真似ができることでもないんですね。

石崎さん: そんな中で、ジビエでは対策にならない地域に対して、都市部のペーパーハンター問題に着目し、都市部の狩猟免許保持者と鳥獣被害に悩む地域、お互いをマッチングすることでジビエではない解決策を提案してきたハンターバンクのコンセプトには、共感できるものがあったんですね。山賊ダイアリー、罠ガール、ゴールデンカムイなどなど、狩猟を扱うマンガが流行したからかも知れませんが、都市部では狩猟免許をとる若い方が増えています。とはいえ、せっかく狩猟免許を取ったのに、実際に狩猟に出ることがない、いわゆるペーパーハンターになってしまう方も多くいらっしゃいます。話を聞くと、狩猟する場所がない、狩猟する仲間がいない、スキルを教えてもらう機会がない。などなど、初めの一歩が踏み出せない方が多いんですね。

──それはもったいない話ですね。

石崎さん: そうなんですよ。鳥獣被害対策を考えたら狩猟者さんの絶対数も必要なんですが、それ以前に狩猟って、自分で自然から食べものを得ることであって、楽しく、うれしい体験であるはずなんですよね。山の獣と知恵比べをして、最初は見向きもされないわけですが、あるときその獣が自分の獲物に、山の恵みとしての〈肉〉になるわけです。そして、もちろん食べたらすごく美味しい! でもこれまでは、どうすれば捕獲の成功にたどり着けるのかわからないとか、それでもがんばって続けていると、どんどん大変なことが出てくるとか……初心者にはなかなか長い道のりだったりもしたのですが、ハンターバンクの仕組みなら、初心者でも十分に楽しく狩猟が体験できる。そこもいいな、と思ったんですよね。

──せっかく興味を持ったのだから、楽しくやりたいですよね。そのためのポイントって、どんなところなんでしょう。

石崎さん: そう、狩猟は楽しく、そして安全に、というのが大切なポイントです。狩猟初心者にとっては、狩猟道具はどういったものなのか、安全な道具なのか、どこで準備すればいいのか、どう扱えばいいのか、といった難しさがあることはイメージしやすいと思うのですが、実は狩猟をはじめてからも、どこにわなを置けばいいのか、それを見極めるのは大変なことなんですね。それに、獲物がかかって解体したら、そこで出たゴミはどうすればいいのか……。狩猟って、やってみないとわからないことも山ほどあるわけです。そこがハンターバンクだと、箱わなは用意されているし、解体時のきれいな水とゴミを回収するゴミ箱がついている解体小屋もあるし、どこに獲物が出没しているのかはホストさんが教えてくれる……、それでハードルはかなり下がるわけです。そもそも初めて獣と対決し、首尾よくわなにかけたとしても、そこから逃れようとする獣の激しい動きには、初心者はかなり驚かされるものだと思いますが、さまざまな狩猟方法の中でも、箱わなって最も安全な方法なんですよ。そうやって、やってみなければわからなかった狩猟のハードルを、先回りして下げておく。狩猟免許の取得後にさまざまな壁にぶつかって辞めてしまう若手の狩猟者さんが少なくないという課題に対しては、これから狩猟をしてみよう、と思った人に向けて「こんなはずじゃなかった」という結果にならないような仕組みを整えておくのは、大切なことだと思います。狩猟の楽しさを安全に味わってもらう工夫を用意しておく。そこがすごいんですよ、ハンターバンクって。

──なるほど。ハンターバンク、狩猟がテーマでワイルドなように見えますが、安全に楽しくを実現するために、先手先手で工夫をしているんですね。
石崎さんのお話は[その2]へと続きます。

石崎英治さん(いしざき・ひではる)

北海道大学の大学院まで林学に取り組んだものの、研究対象だった森がエゾシカに食べられて壊滅したことに衝撃を受け、今度はエゾシカ対策の研究を重ねた結果「美味しく食べて減らせばいいんだ」とジビエの生産を株式会社北海道食美樂(北海道新冠町)と株式会社おおち山くじら(島根県美郷町)で、ジビエの卸売業を株式会社クイージ(東京都日野市)で行う食いしん坊。鳥獣被害に苦慮する自治体のコンサルティングにも従事するかたわらで、ジビエの利活用を普及啓発するNPO法人伝統肉協会の理事長としても奮闘中。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.8 高波健一さん

イノシシから守りたかったのは、畑ではなく、うちのワンちゃんでした。 [その2]

入門プランの3カ月の間にもめでたく猟果に恵まれて、止め刺しから解体までひと通りの経験を積むことができた高波さん。もともと興味もなかった狩猟だったのに、始めてみたらいつの間にか次の目標が、そのまた次の目標が、と浮かび上がってきて、どうやら新米ハンターを卒業する日も遠くなさそうです。
──ところで、高波さんとしては3カ月のお試しが終わって、いまは通常プランでハンターバンクでの活動を継続されているわけですね?
高波さん: そうですね。同じ時期に入門プランだったメンバーのうち、11人が継続してるんですけど、チームを分けて4つの箱わなでやっていたのを、獲物が来そうな2カ所に絞って、チームも分けないで、同じ時期にスタートした11人でシェアする感じになってます。
──がんばればまた獲れそうな感じがあった、ということですよね。
高波さん: もちろんそれもあるんですが、いろいろ勉強したいというのもありまして……。実は、ひと通りの作業をやってみて流れもわかったので、自分でも箱わなを買ったんですよ。
──それはまた思い切りましたね。いずれは箱根の、ご自宅の近くでも、ということですか?
高波さん: あの、年末にホームセンターで1万円引きのセールをしてまして……。ま、まだ狩猟免許はないので、今年の試験で免許を取って、それで箱根のどこかに設置しようと思ってたんですけど、箱根は豚熱が出て、イノシシがいなくなっちゃったんですよね。散歩してても、犬も反応しなくなってて……。ともかく、何年かかるのかわからないですけど、豚熱が落ち着いてまた箱根にイノシシが増えてきたら、自分の箱わなが置けるように、それまではハンターバンクで経験を積んでおこう、ということですね。小田原のフィールドは安定的に獲物が獲れそうですし、ハンターバンクで知り合った人もいるわけで。
──その日のためのハンターバンク、ということですね。それにしても箱わな、いきなり買う人もあまりいないと思いますけどね……。
高波さん: 自分、仕事で溶接もやっていて、ウチにも溶接機あるんですよ。それで鉄筋を買ってきて自分で箱わな作ろうかな、とも思ったんですが、ちゃんとやるとなると10センチ間隔で200〜300カ所くらい溶接しなけりゃならないんです。もちろん材料費もかかるわけですから、安くなってるときに買っといたほうがいいかな、と……。
──じゃあ「その日」が来るまでは、買った箱わなは大事にしまっておいて……。
高波さん:いや、それがですね……「箱わな買っちゃてさ〜」という話をしたら、弟の奥さんの実家がミカン畑とかキャンプ場とか持ってて、そこにイノシシが出てるからなんとかしたい、という話になりまして、免許を取ったらそっちでも置かせてもらえそうなんですよね。
──あっという間に自分のフィールドがまたできそう、ってことですね。狩猟免許の試験、がんばらないといけないですね。
高波さん: 弟はもう「獲れたら肉ちょうだい」とか言ってますからね。
──なんか、もともと狩猟に興味がなかった高波さんなのに、頭の中が一気に狩猟マインドになってますね。
高波さん: そうですね。実際にハンターバンクで箱わなをセットしても、ウチらの箱わなだけひと月くらい来てなかったんですよ、イノシシ。トレイルカメラにも映ってなくて。それでチームの何人かが現場を見に行こうという話になって、自分はそのとき行けなかったんですけど、箱わなを置いた場所のちょっと下に獣道があったぞ、という話になって……。
──そのメンバーの皆さんは下から歩いて上がってた、ということだったんですか?

高波さん: そうなんです。自分はいつもクルマかバイクだったので、あの山を歩くってことがなくて、箱わなのすぐ近くしか見てなくて、その獣道には気が付いてなかったんですよね。それで、その獣道から箱わなまでの間に、ヌカを丸めて埋めていったら、見事にイノシシが誘引されて、箱わなのところまで寄ってくるようになったんです。そこからは、家から近いのもあって自分がしょっちゅう通うようにして、箱わなの近くのエサを多く撒いたり少なく撒いたり、いろいろ試してたら、そのうち箱わなの中で親子3匹が食べるようになって、それで「年内に勝負!」ということで蹴り糸をひとつ手前にセットして、2日くらいで子イノシシが獲れた、ということだったんです。

──それはいい判断でしたね。
高波さん:  運も良かったとは思うんですが、やっぱり歩かないとダメだ、ってことでしょうね。ともかく、犬の散歩で出くわしたことからはじまったイノシシへの興味ですけど、ハンターバンクで活動してみて、いろんなことがわかってきました。トレイルカメラでイノシシの動きが見えるのも、足跡だけで見ているのとはイメージが全然、違うんですよ。いちどトレイルカメラで見ておけば、カメラがない場所でもイノシシの動きを想像しやすくなると思います。
──なるほど。いい学びがあったみたいですね。
高波さん: 次は……獲れたイノシシの、肉としての処理のことですね。血抜きとか冷却とか管理方法とか、そこはもっと勉強したいところです……肉を美味しくするためには。
──やっぱり次の猟果では、干し肉はもっと極めて、ほかの肉料理にも挑戦してくださいね。では最後に、この記事でハンターバンクに興味を持たれたかたに、ひとことお願いします。
高波さん: ハンターバンクって、自分が思っていたよりも敷居は高くなかったですよ、というのは知っておいてもらいたいですね。迷ったらやってみよう!みたいな感じで、仲間が増えるといいな、と思います。
──そうですね。どうもありがとうございました。

高波健一さん(たかなみ・けんいち)

生まれも育ちも、さらには仕事も地元、という箱根っ子。もともと狩猟に興味はなかったものの、増えすぎたイノシシは、気がついたらすぐそばに迫ってきていました。そんなドッキリ体験からハンターバンクを見つけた高波さんの目標は、自宅の近くにも箱わなを置くこと。ワンちゃんとの散歩の平和のためにも(そして美味しい干し肉のためにも!)ハンターバンクで修行中です。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.8 高波健一さん

イノシシから守りたかったのは、畑ではなく、うちのワンちゃんでした。 [その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回ご登場いただく高波健一さんは、ハンターバンクのフィールドよりも標高の高い、もっと山を上がった箱根から小田原に通っています。これまでお話をうかがったハンターの皆さんとは動きが逆になっているわけで、山に住んでいるなら近所で狩猟ができるのでは、と思ったのですが、そこには全く興味がなかった高波さん。それがなぜハンターバンクに参加したのかというと……。

──早速ですが高波さん、今回このお話をうかがうにあたって気になったのは、箱根にお住まいで、箱根からハンターバンクの小田原に通って狩猟をされている、ということだったんです。で、失礼ながら箱根って、小田原よりもだいぶ……山ですよね?
高波さん: 山ですねえ。山の中です。生まれも育ちも箱根なんですが、ウチの周りには平らなところがない感じですね。小田原のほうが街場です。
──狩猟に関する興味はどんなところから?
高波さん: いえいえ、狩猟のことなんて知りませんでしたし、興味もありませんでした。ただ、家の近くでもイノシシが出てまして、ゴミ箱が荒らされたり……。それに、犬を飼っているんですけど、散歩をしているときにイノシシが出て、ワンちゃんが襲われそうになったことがあったんですよ。
──うわっ! それ、怖かったですね。
高波さん:  怖かったですねえ。いきなり現れて、10メートルぐらい先から突進してきたんです。こちらも慌てて「こらーっ!」っと大きな声を出したら、2メートルぐらいのとこで逃げて行ったんですが、結構これ危ないな、と思っていて。野生鳥獣被害って聞いても、その印象しかなかったですね。
それがなんでハンターバンクに……。
高波さん:  イノシシにワンちゃんが襲われそうになって、そいつが逃げていかなかったら、まあやっつけるしかないわけですよね。で、もしそのイノシシを倒したら、そのイノシシどうすればいいんだろう、と思ったんです。自分じゃなにもできないし、処理に困るよな、と。そんなとき、ワンちゃんの写真を投稿しているSNSがあるんですが、そこにハンターバンクの広告が出てきたんです。それがなんだか面白そうで、しかも小田原なら近くて、ウチからクルマだと30分もかからないくらいの距離なんですよ。ハンターバンクだと、自分たちで箱わなを設置できて、自分たちでイノシシを処理して、料理して食べるまでを体験できるということで、入門プランという3カ月のお試しコースに参加してみたんですよね。
──なかなかユニークなきっかけですね。箱根の場所柄だと、近所にもハンターさんがいたりするんじゃないかと思うんですが、そういうつながりはなかったんですか?
高波さん: いや、それまでは興味がないというか、縁のない世界だったので知らなかったわけですけれど、ハンターバンクを始めてから、そういうアンテナが敏感になったというか……。同級生が銃で狩猟してたり、役場の人が紹介してくれたり、逆に「狩猟する人が足りないんで手伝ってくれないか?」とか言われたり……探してみると、身近なところにもハンターさん、結構いたんですよ。
──先ほどの「もし出くわしたイノシシをやっつけちゃったらどうしよう」という話ですけど、その時点では「イノシシを食べたい」という発想はなかったんですか?
高波さん: 散歩の途中で出くわしたイノシシに突進された時は、それどころじゃなかったので……。でもまあ、そのときから「どうすればいいのかな」と考えていたことへの答えが、ハンターバンクで見つかりそうだったんです。
──それで、まずは「入門プラン」でハンターバンクに参加してみたら、お試しの3カ月の間にめでたく捕獲があったわけですね。
高波さん: そうなんです。ちょうど縞模様が消えたくらいの子どものイノシシだったみたいですね。もう年末の28日で、次の日には解体小屋も閉まっちゃう、というタイミングで、ギリギリでしたね。
──それはラッキーでしたね。そのときは止め刺しから解体まで、実際にご自身で作業されたんですか?
高波さん: はい、5人のチームで、みんなやりたがっていたんですけど、ジャンケンに勝って自分が止め刺しをしました。止め刺しなんて初めての経験だったんですけど、その前にハンターバンクの解体体験にも参加していたので、剥皮とかバラシとか、全体の作業としてはわりとスムーズにできました。ただ止め刺しは、考えていたよりもイノシシのカラダは硬かったな、という感じでしたね。もっとサクッといけるものかと思っていたんですよ。それから内臓摘出なんですが、解体体験で用意されていたイノシシは内臓も抜いてあって、カラダも冷めていたわけですけど、自分で止め刺しをしたイノシシの内臓は温かくて、臭いも感触もリアルだったわけで、それが気持ち悪いとは思わなかったんですが、なるほどこういう感じなのか、と思いましたね。
──それまで鶏を締めたり、といった経験はあったんですか。
高波さん: いや、そういうのはないですね。というか、魚もヌルヌルして触るのイヤなんですよ。小学生のころはミミズとか捕まえてたんですけど、大人になって……30歳を過ぎたころからは、もう虫も触るのがイヤになってましたね。
──じゃあイノシシの止め刺しなんて、結構な冒険でしたね。
高波さん: そう……なんですけど、なんか、別に苦もなくできましたね。なんというか……頭を切り離した時点で、もう肉に見えてましたね。目が合わなくなったら、自分の中では肉になってたんです。
──で、その肉を5人で山分けにして、持って帰って料理して食べたと思うんですけれど、どうでした?
高波さん: それがですね……あの、前にどこかの飲食店でイノシシ肉の料理を食べたとき、それが固くて、あまり美味しくなかったんですよね。そのイメージがあったんで、今回の獲物のイノシシも焼き肉とかで食べるつもりはなくて、干し肉にしたんです。適当に切って2〜3日かけて干した肉を、大きな寸胴鍋に網の棚を5段ぐらい作って並べて、薪ストーブの上で火を入れたんです。自分の分と犬の分、しょっぱいヤツと味のないヤツを作りました。
──全部それにしちゃったんですか?
高波さん: 全部です。美味しくない、ってイメージがあったんで、カレーとか肉じゃがみたいなこともなく、干し肉に……。ハンターバンクでバーベキューしたときのイノシシは、すごく美味しかったんですけど、あれは熟成とか、そういう特別な処理が効いていて美味しかったのかな、とか思いまして……。
──なるほど。で、その干し肉の仕上がりはどうだったんですか?
高波さん: ワンちゃんは、もう唸りながら食べてましたね。美味しかったんでしょうね。で、人間用の干し肉は、味付けが難しかった! 何回かに分けて作ったんですけど、結局は市販の焼肉のタレに漬けたのがいちばん美味しかったですね。ただ、バーベキューのときに食べた脂身の部分がすごく美味しかったのに、網で火入してたら脂はほとんど下に落ちちゃってたのは残念でした。

高波さんのお話は[その2]へと続きます。

高波健一さん(たかなみ・けんいち)

生まれも育ちも、さらには仕事も地元、という箱根っ子。もともと狩猟に興味はなかったものの、増えすぎたイノシシは、気がついたらすぐそばに迫ってきていました。そんなドッキリ体験からハンターバンクを見つけた高波さんの目標は、自宅の近くにも箱わなを置くこと。ワンちゃんとの散歩の平和のためにも(そして美味しい干し肉のためにも!)ハンターバンクで修行中です。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.7 松本吉保さん

丸ごと美味しく食べるなら、自分の手で──それもハンターバンクの魅力です。[その2]

念願がかなって自分の手でイノシシを解体し、肉にして食べることができた松本さんですが、自分の手で獲物を仕留めた、という感覚よりも、もっとああしたい、こうしたかったという反省の色が強かったそうです。そこには〈美味しく食べる〉ことへのご自身の情熱だけでなく、父親としての〈食育〉にかける想いもあるようで……。

──山の恵みをめでたく自分の獲物として手に入れて、そこから自分の手で肉にしたものを食べるということができたんですけれども、実際にそれを食べてみて、どうでした?

松本さん: 美味しかったですよ、もちろん。獲れたこともうれしかったですし、止め刺しから解体して肉にするのはやりたかったんで、それを自分の手でやる機会を得て、よかったですね。もっと美味しく食べたいので、ちゃんと脂をたくさん残したいとか、肉を切り分ける場所とか、もっと勉強したいな、というのはありますけどね。より効率的なナイフの使い方があるんだろうなと思って、そこら辺を勉強したいと思いました。

──今回のイノシシは自分で解体したわけですけど、買うにしても、ハンターさんからもらうにしても、普通はモモとかロースとかバラバラで来るところが、今回は丸ごと手に入ったわけですよね。どこの部位でも食べられる、という状態になったと思うんですけど、どこを食べました?

松本さん: あの時は料理がうまい仲間もいたので、アバラは骨付きで、スペアリブで食べました。あとは塩だけで焼いて食べるとか、煮込みみたいにして食べました。それとレバーもハツも、大体は焼いて食べましたね。それから脚を1本もらってるんで、ちょっと生ハムでも作ってみようかと思って。

──松本さん、内臓を食べたいとおっしゃってましたけど、大腸や小腸、いわゆる「もつ」類はどうしました?

松本さん: そこは本当はやりたかったんですけどね、時間がなくて断念しました。内臓の中でも、もつは、そのまま家に持って帰るのではなく、捕獲現場の近くに処理ができる環境がないと無理だろうと思うんで、解体小屋の水場のところで全部やりたいですけどね。1時間とか2時間とか、もつの処理だけで現地で時間がとれればいいんでしょうけど……。あの日も、初めは13時に集合です、みたいな連絡だったのが、もうちょっと早いほうがいいという話になって、11時半ぐらいに変更になったんですけど、それでも皮を剥いで、肉を取ったら、もう時間はギリギリで、イノシシを丸ごと食べようと思ったら、作業のスピードも要求されるんですよね。

──いかに早く止めて、いかに早く内臓を出して、いかに早く皮を剥いで……なんか、食いしん坊トークではあるんだけど、ただの食いしん坊とちょっと違うな、という感じがしますね。

松本さん: そうかもしれませんね。家でも魚はよく捌きますけど、捌いたからOKなのではなく、本当に美味しく食べられないと意味がないと思っているので、自分で肉にしたから、ということよりも、それが美味しい肉になっていたかのほうが大事なんですよね。もしかしたら最初のころに、丸ごとの魚を捌いて刺身にしたときには「お、やったぜ!」なんて思っていたかもしれませんけど、もうとっくに忘れちゃいました。

──捕った肉を持って帰って、ご家族で食べられたと思うんですが、反応はいかがでした?

松本さん: 妻には「臭くないの?」とは言われました。食べたら「美味しい!」と言ってましたけどね。翌日からは肉じゃがになったり、ホイコーローになったり、いろんな料理にしてくれて、毎日食べてます。

──じゃ「がんばってもっと獲ってきてね」という感じに……。

松本さん: なってないですね。家の冷凍庫もいっぱいだから……。

──お子さんはどうでした?

松本さん: 美味しい!と言って食べてましたね。子どもにはいい食育をしてあげたいな、というのがあって、ブタやウシだけではなく、いろいろな種類の肉を食べさせたり、カモなどでは内臓を含めた丸ごとの食材を見せたりもしているんです。それで、自分でも勉強して食育関連の資格も取ってみたんですけど……やはり座学だけじゃダメだなと思ったんで、勉強は勉強として、子どもには食べた魚の絵を描かせたりとか、やっていましてね。魚を1匹調達したら、ちゃんと絵を描かせて、長さと重さと住処と料理方法と味と、というフォーマットを作って、最後は食べた感想も書いて、5つ星で評価するんですけど、そういうことをやっていくと魚の種類も覚えるんです。私も妻も台所に立つわけですが、子どもも自然と台所に立つようになってきましたね。

──ああ、いいですねそれ。

松本さん: 子ども用の包丁を買い与えていたのですが、ある時、普通に出刃で三枚おろしをしようとしてたんで、ちゃんと教えました。今は魚も捌き始めている感じなんです。この間の解体体験でも普通に猪の首に包丁を入れてたんで、まあ順調、って感じですね。
(ここでリモート取材の様子を息子さんがのぞきに来ました)

──こんにちは、今お父さんからいろんなお肉を食べたことがあるという話を聞いたんだけど、どの肉がいちばん美味しかった?

息子さん: いちばん、を決めるのは難しいけど……ウマの肉、アナグマの肉、カモの肉、イノシシの肉。あ、ヒツジも好き。

──すごいね。じゃあ、お父さんの獲ったイノシシを食べてみて、どうだった。他のお肉と比べて……。

息子さん: 他の肉より脂が美味しかった!

松本さん: そう、脂がサクサクして甘いって言ってたよね。よかった。いい食育してると思いませんか?

──すばらしいですね。ところで、ハンターバンクでこれからまたイノシシが獲れてくればどんどんいろんなことができる、という状況だと思うんですけれども、実際に箱わな猟をしてみて、改善したいところって、なにかありましたか?

松本さん: いや、現場ではまだちょっと思いついてないですね。もっとヌカをがんがん撒けばイノシシが来るのか、そこもちょっと分かってないんですけど……本当は月いちで3頭ぐらい獲れると最高だろうな、と思いますけどね。そしたら止め刺しとか内臓を出すとか、枝肉にばらすとか、技術も向上するんじゃないかと思います。とはいえやっぱりみんな社会人なので、必ずしもすぐ休みが取れて集合できるという人ばかりじゃないんです。捕獲の頻度が上がればみんなに解体の機会ができて、もっといい体験ができるんじゃないかなと思いますので、そこもまた勉強、ですね。でもまあ、十分に楽しめてると思います。

──あとハンターバンクでの活動、あるいはハンターバンクを通じてご自身の個人的な活動としてでもいいんですけれども、次はどんな風にしてみたいですか、というのを最後にうかがいたいのですが……。

松本さん: あの、トレイルカメラによく、キジが映ってるんですよ。昔、子どものころに食べたきりなんで、あれもちょっと食べたいな、とは思ってます。

──ですね。ありがとうございました。

松本吉保さん(まつもと・よしやす)

魚も鳥も丸ごと、内臓までとことん食べたい!という食いしん坊の鑑。いずれは大きな獣も自分の手で、と思っていたところにハンターバンクへの誘いがあって、ついにイノシシの解体も経験。念願はかなったものの、そこにはまだまだ反省すべき点があったと、勉強の道は続きます。家庭では実践的な食育の道も模索していて、息子さんの将来も期待できそうです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.7 松本吉保さん

丸ごと美味しく食べるなら、自分の手で──それもハンターバンクの魅力です。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

魚も鳥も、内臓まで全部を食べたいから丸ごと調理したい、という松本吉保さん。いずれは大きな獣も全てを自分の手で、と考えていたところに、ハンターバンクとの出会いがありました。そこで猟果にも恵まれ、念願だった、丸ごとで大きくて生きている獣から、という流れを自分の手で経験することができたのですが、そこには食いしん坊ならではの反省もあって……。

──今回お話をうかがうにあたってSNSも拝見したのですが、小田原のフィールドには、お子さんも一緒にいらっしゃることが多いんですか?なんか、可愛らしい写真が……。

松本さん:いや、あれはハンターバンク主催のイノシシ解体体験の時だったんですよ。子どもは、まだその一度だけですね。

──ハンターバンクでは、グループとしてはどんな感じで参加されてるんですか?

松本さん:まだスタートして2カ月ほどなんですが、友人に誘われまして、それで登録して活動を始めたという状況です。グループとしては8人、かな。まあ全員が知り合いなんですが。

──そもそもハンターバンクに参加するきっかけは何だったんですか?

松本さん: メンバーの一人がハンターバンクという存在を見つけてきて、これやろうよということで、仲間内で参加したい人間を募って、手を挙げたのがその8名だった、ということですね。

──メンバーの一人とおっしゃいましたけど、どんな感じのグループだったんですか?

松本さん: 自分たちでいろいろ獲って食べよう、みたいなことをわりとやっているグループなんで、釣りをしたり、魚を突いたりとか。で、そういったメンバーの集まりの中で「イノシシやってみよう、興味あるやついないか」みたいな流れですね。

──狩猟免許はお取りになったんですか?

松本さん: 私は持っておりません。これからの取得も、そこまではちょっと想定していないですね。

──なるほど。では、ハンターバンクでの猟果はどんな感じなんですか? 2カ月ほど活動をされていて……。

松本さん: 一度、イノシシが3頭まとめて獲れたということがありまして、まだそれだけですね。だいたい2歳ぐらいのヤツじゃないかとかいわれていましたけどね。

──扱いやすいというか、程よいサイズのが3頭も入った、ということですね。まあ、結構な猟果ですね。

松本さん: そうですね。箱わなを設置してから獲れたのも早かったんですが、なかなか獲れない方もいらっしゃるということをうかがいましたんで、ラッキーでした。

──頻度としては、どのぐらい通ってらっしゃいます?

松本さん: いや、通ってはないです。今のところ、掛かった時に1度行ったということですね。解体体験もありましたので、合わせて2回です。ヌカを撒いていただくのはグループのメンバーでなく、ホストさんに撒いていただいていまして、なにか特別な餌を撒きたいときにはメンバーが行く、と。直近ですと、トレイルカメラでイノシシの姿が全く見えなくなってしまったので、箱わなの場所を変えてみようということで、先週の土曜日にメンバーが何人か行っていました。

──松本さんのグループは、わりと省エネなタイプなんですね。それでも、なかなか獲れないチームもある中で3頭も獲れたんですから、山の神さまに愛されているチームなんでしょうね。

松本さん: ありがたいですね。全員が都内で会社員なので、なかなか行けないっていうのがなんともな……とは思うんですけども、いろいろとホストさんにお願いしながらやっています。

──それでも獲物にちゃんと巡り合えるというのがハンターバンクのシステムのいいところだと思うんですが、実際にその強みを活かしているチームだな、という感じがしますね。ところで松本さんは、ハンターバンク以前にも、例えば鳥を絞めたりといった経験はあったんですか?

松本さん: 絞めてはいませんが、鳥は、業者さんから羽付き内臓付きのカモを買ってたりして、家で羽をむしって内臓を抜いて食べたことはあります。

──なるほど。でも、内臓や毛がついていると大変じゃないですか?

松本さん: 内臓、食べたいんですよ。内臓を食べたいんで、処理される前の方がありがたいんです。
そうなると羽付きになるんですよね。

──なるほどね。食べるんだったらとことん食べたい、丸ごと食べたい、という強い思いをお持ちだった、っていうことなんですね。

松本さん: そうですね。親もきれいに魚の骨の周りを食べますし、最後は骨も焼いて食べたりしてましたから、そういうのを見て育っていて、丸ごとに馴染みがあったんだと思いますね。

──それにしても大きな獣に関しては、生きてるところから止め刺しをして、剥皮して、内臓摘出をして、という解体の作業をされるのは、今回のハンターバンクでの猟果が初めての経験ということですか?

松本さん: そうですね。解体体験では内臓が抜いてあるものでしたし。

──生きているところから止め刺しや解体をされてみて、率直な感想としてはどうでした?

松本さん: 命を頂戴するということで、感謝をして、ちゃんと丸ごと食べよう、という感じでした。実は止め刺しが一発で仕留められなくて……イノシシが暴れて、もう一回刺し直しをするっていうことをやったんで、ちょっとそこは反省してます。私、ずっと剣道をやっててですね、突くとなるとついつい喉を突いちゃうんで、胸を突くべきだったな、と。どこをどう突くかっていうところをちゃんと予習してやるべきだったと、そこら辺は勉強不足でした。

──解体体験の時には、どの部分から刃先を入れて、どの方向に刺すんですよ、みたいな説明もあるんじゃないかと思うんですが……。

松本さん: ああ、そうでした。忘れてました。そこはちょっとやっぱり、ドキドキしてたんだと思います。その時に考えていたのは、うっかり心臓に刺さってハツが食べられなくなったら嫌だな、と……。それで、胸を刺そうという気持ちにはなってなかったですね。ちゃんと刺すべきところを、経験の豊富な人に聞いて、忠実にやるべきでしたね。

──なるほど。それにしても、止め刺しに失敗した理由がハツを刺したくなかったから、って、そういう人もなかなかいないですよね。

松本さんのお話は[その2]へと続きます。

松本吉保さん(まつもと・よしやす)

魚も鳥も丸ごと、内臓までとことん食べたい!という食いしん坊の鑑。いずれは大きな獣も自分の手で、と思っていたところにハンターバンクへの誘いがあって、ついにイノシシの解体も経験。念願はかなったものの、そこにはまだまだ反省すべき点があったと、勉強の道は続きます。家庭では実践的な食育の道も模索していて、息子さんの将来も期待できそうです。