体験談 - ハンターバンク

体験談

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.8 高波健一さん

イノシシから守りたかったのは、畑ではなく、うちのワンちゃんでした。 [その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて今回ご登場いただく高波健一さんは、ハンターバンクのフィールドよりも標高の高い、もっと山を上がった箱根から小田原に通っています。これまでお話をうかがったハンターの皆さんとは動きが逆になっているわけで、山に住んでいるなら近所で狩猟ができるのでは、と思ったのですが、そこには全く興味がなかった高波さん。それがなぜハンターバンクに参加したのかというと……。

──早速ですが高波さん、今回このお話をうかがうにあたって気になったのは、箱根にお住まいで、箱根からハンターバンクの小田原に通って狩猟をされている、ということだったんです。で、失礼ながら箱根って、小田原よりもだいぶ……山ですよね?
高波さん: 山ですねえ。山の中です。生まれも育ちも箱根なんですが、ウチの周りには平らなところがない感じですね。小田原のほうが街場です。
──狩猟に関する興味はどんなところから?
高波さん: いえいえ、狩猟のことなんて知りませんでしたし、興味もありませんでした。ただ、家の近くでもイノシシが出てまして、ゴミ箱が荒らされたり……。それに、犬を飼っているんですけど、散歩をしているときにイノシシが出て、ワンちゃんが襲われそうになったことがあったんですよ。
──うわっ! それ、怖かったですね。
高波さん:  怖かったですねえ。いきなり現れて、10メートルぐらい先から突進してきたんです。こちらも慌てて「こらーっ!」っと大きな声を出したら、2メートルぐらいのとこで逃げて行ったんですが、結構これ危ないな、と思っていて。野生鳥獣被害って聞いても、その印象しかなかったですね。
それがなんでハンターバンクに……。
高波さん:  イノシシにワンちゃんが襲われそうになって、そいつが逃げていかなかったら、まあやっつけるしかないわけですよね。で、もしそのイノシシを倒したら、そのイノシシどうすればいいんだろう、と思ったんです。自分じゃなにもできないし、処理に困るよな、と。そんなとき、ワンちゃんの写真を投稿しているSNSがあるんですが、そこにハンターバンクの広告が出てきたんです。それがなんだか面白そうで、しかも小田原なら近くて、ウチからクルマだと30分もかからないくらいの距離なんですよ。ハンターバンクだと、自分たちで箱わなを設置できて、自分たちでイノシシを処理して、料理して食べるまでを体験できるということで、入門プランという3カ月のお試しコースに参加してみたんですよね。
──なかなかユニークなきっかけですね。箱根の場所柄だと、近所にもハンターさんがいたりするんじゃないかと思うんですが、そういうつながりはなかったんですか?
高波さん: いや、それまでは興味がないというか、縁のない世界だったので知らなかったわけですけれど、ハンターバンクを始めてから、そういうアンテナが敏感になったというか……。同級生が銃で狩猟してたり、役場の人が紹介してくれたり、逆に「狩猟する人が足りないんで手伝ってくれないか?」とか言われたり……探してみると、身近なところにもハンターさん、結構いたんですよ。
──先ほどの「もし出くわしたイノシシをやっつけちゃったらどうしよう」という話ですけど、その時点では「イノシシを食べたい」という発想はなかったんですか?
高波さん: 散歩の途中で出くわしたイノシシに突進された時は、それどころじゃなかったので……。でもまあ、そのときから「どうすればいいのかな」と考えていたことへの答えが、ハンターバンクで見つかりそうだったんです。
──それで、まずは「入門プラン」でハンターバンクに参加してみたら、お試しの3カ月の間にめでたく捕獲があったわけですね。
高波さん: そうなんです。ちょうど縞模様が消えたくらいの子どものイノシシだったみたいですね。もう年末の28日で、次の日には解体小屋も閉まっちゃう、というタイミングで、ギリギリでしたね。
──それはラッキーでしたね。そのときは止め刺しから解体まで、実際にご自身で作業されたんですか?
高波さん: はい、5人のチームで、みんなやりたがっていたんですけど、ジャンケンに勝って自分が止め刺しをしました。止め刺しなんて初めての経験だったんですけど、その前にハンターバンクの解体体験にも参加していたので、剥皮とかバラシとか、全体の作業としてはわりとスムーズにできました。ただ止め刺しは、考えていたよりもイノシシのカラダは硬かったな、という感じでしたね。もっとサクッといけるものかと思っていたんですよ。それから内臓摘出なんですが、解体体験で用意されていたイノシシは内臓も抜いてあって、カラダも冷めていたわけですけど、自分で止め刺しをしたイノシシの内臓は温かくて、臭いも感触もリアルだったわけで、それが気持ち悪いとは思わなかったんですが、なるほどこういう感じなのか、と思いましたね。
──それまで鶏を締めたり、といった経験はあったんですか。
高波さん: いや、そういうのはないですね。というか、魚もヌルヌルして触るのイヤなんですよ。小学生のころはミミズとか捕まえてたんですけど、大人になって……30歳を過ぎたころからは、もう虫も触るのがイヤになってましたね。
──じゃあイノシシの止め刺しなんて、結構な冒険でしたね。
高波さん: そう……なんですけど、なんか、別に苦もなくできましたね。なんというか……頭を切り離した時点で、もう肉に見えてましたね。目が合わなくなったら、自分の中では肉になってたんです。
──で、その肉を5人で山分けにして、持って帰って料理して食べたと思うんですけれど、どうでした?
高波さん: それがですね……あの、前にどこかの飲食店でイノシシ肉の料理を食べたとき、それが固くて、あまり美味しくなかったんですよね。そのイメージがあったんで、今回の獲物のイノシシも焼き肉とかで食べるつもりはなくて、干し肉にしたんです。適当に切って2〜3日かけて干した肉を、大きな寸胴鍋に網の棚を5段ぐらい作って並べて、薪ストーブの上で火を入れたんです。自分の分と犬の分、しょっぱいヤツと味のないヤツを作りました。
──全部それにしちゃったんですか?
高波さん: 全部です。美味しくない、ってイメージがあったんで、カレーとか肉じゃがみたいなこともなく、干し肉に……。ハンターバンクでバーベキューしたときのイノシシは、すごく美味しかったんですけど、あれは熟成とか、そういう特別な処理が効いていて美味しかったのかな、とか思いまして……。
──なるほど。で、その干し肉の仕上がりはどうだったんですか?
高波さん: ワンちゃんは、もう唸りながら食べてましたね。美味しかったんでしょうね。で、人間用の干し肉は、味付けが難しかった! 何回かに分けて作ったんですけど、結局は市販の焼肉のタレに漬けたのがいちばん美味しかったですね。ただ、バーベキューのときに食べた脂身の部分がすごく美味しかったのに、網で火入してたら脂はほとんど下に落ちちゃってたのは残念でした。

高波さんのお話は[その2]へと続きます。

高波健一さん(たかなみ・けんいち)

生まれも育ちも、さらには仕事も地元、という箱根っ子。もともと狩猟に興味はなかったものの、増えすぎたイノシシは、気がついたらすぐそばに迫ってきていました。そんなドッキリ体験からハンターバンクを見つけた高波さんの目標は、自宅の近くにも箱わなを置くこと。ワンちゃんとの散歩の平和のためにも(そして美味しい干し肉のためにも!)ハンターバンクで修行中です。

ハンター体験記

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.7 松本吉保さん

丸ごと美味しく食べるなら、自分の手で──それもハンターバンクの魅力です。[その2]

念願がかなって自分の手でイノシシを解体し、肉にして食べることができた松本さんですが、自分の手で獲物を仕留めた、という感覚よりも、もっとああしたい、こうしたかったという反省の色が強かったそうです。そこには〈美味しく食べる〉ことへのご自身の情熱だけでなく、父親としての〈食育〉にかける想いもあるようで……。

──山の恵みをめでたく自分の獲物として手に入れて、そこから自分の手で肉にしたものを食べるということができたんですけれども、実際にそれを食べてみて、どうでした?

松本さん: 美味しかったですよ、もちろん。獲れたこともうれしかったですし、止め刺しから解体して肉にするのはやりたかったんで、それを自分の手でやる機会を得て、よかったですね。もっと美味しく食べたいので、ちゃんと脂をたくさん残したいとか、肉を切り分ける場所とか、もっと勉強したいな、というのはありますけどね。より効率的なナイフの使い方があるんだろうなと思って、そこら辺を勉強したいと思いました。

──今回のイノシシは自分で解体したわけですけど、買うにしても、ハンターさんからもらうにしても、普通はモモとかロースとかバラバラで来るところが、今回は丸ごと手に入ったわけですよね。どこの部位でも食べられる、という状態になったと思うんですけど、どこを食べました?

松本さん: あの時は料理がうまい仲間もいたので、アバラは骨付きで、スペアリブで食べました。あとは塩だけで焼いて食べるとか、煮込みみたいにして食べました。それとレバーもハツも、大体は焼いて食べましたね。それから脚を1本もらってるんで、ちょっと生ハムでも作ってみようかと思って。

──松本さん、内臓を食べたいとおっしゃってましたけど、大腸や小腸、いわゆる「もつ」類はどうしました?

松本さん: そこは本当はやりたかったんですけどね、時間がなくて断念しました。内臓の中でも、もつは、そのまま家に持って帰るのではなく、捕獲現場の近くに処理ができる環境がないと無理だろうと思うんで、解体小屋の水場のところで全部やりたいですけどね。1時間とか2時間とか、もつの処理だけで現地で時間がとれればいいんでしょうけど……。あの日も、初めは13時に集合です、みたいな連絡だったのが、もうちょっと早いほうがいいという話になって、11時半ぐらいに変更になったんですけど、それでも皮を剥いで、肉を取ったら、もう時間はギリギリで、イノシシを丸ごと食べようと思ったら、作業のスピードも要求されるんですよね。

──いかに早く止めて、いかに早く内臓を出して、いかに早く皮を剥いで……なんか、食いしん坊トークではあるんだけど、ただの食いしん坊とちょっと違うな、という感じがしますね。

松本さん: そうかもしれませんね。家でも魚はよく捌きますけど、捌いたからOKなのではなく、本当に美味しく食べられないと意味がないと思っているので、自分で肉にしたから、ということよりも、それが美味しい肉になっていたかのほうが大事なんですよね。もしかしたら最初のころに、丸ごとの魚を捌いて刺身にしたときには「お、やったぜ!」なんて思っていたかもしれませんけど、もうとっくに忘れちゃいました。

──捕った肉を持って帰って、ご家族で食べられたと思うんですが、反応はいかがでした?

松本さん: 妻には「臭くないの?」とは言われました。食べたら「美味しい!」と言ってましたけどね。翌日からは肉じゃがになったり、ホイコーローになったり、いろんな料理にしてくれて、毎日食べてます。

──じゃ「がんばってもっと獲ってきてね」という感じに……。

松本さん: なってないですね。家の冷凍庫もいっぱいだから……。

──お子さんはどうでした?

松本さん: 美味しい!と言って食べてましたね。子どもにはいい食育をしてあげたいな、というのがあって、ブタやウシだけではなく、いろいろな種類の肉を食べさせたり、カモなどでは内臓を含めた丸ごとの食材を見せたりもしているんです。それで、自分でも勉強して食育関連の資格も取ってみたんですけど……やはり座学だけじゃダメだなと思ったんで、勉強は勉強として、子どもには食べた魚の絵を描かせたりとか、やっていましてね。魚を1匹調達したら、ちゃんと絵を描かせて、長さと重さと住処と料理方法と味と、というフォーマットを作って、最後は食べた感想も書いて、5つ星で評価するんですけど、そういうことをやっていくと魚の種類も覚えるんです。私も妻も台所に立つわけですが、子どもも自然と台所に立つようになってきましたね。

──ああ、いいですねそれ。

松本さん: 子ども用の包丁を買い与えていたのですが、ある時、普通に出刃で三枚おろしをしようとしてたんで、ちゃんと教えました。今は魚も捌き始めている感じなんです。この間の解体体験でも普通に猪の首に包丁を入れてたんで、まあ順調、って感じですね。
(ここでリモート取材の様子を息子さんがのぞきに来ました)

──こんにちは、今お父さんからいろんなお肉を食べたことがあるという話を聞いたんだけど、どの肉がいちばん美味しかった?

息子さん: いちばん、を決めるのは難しいけど……ウマの肉、アナグマの肉、カモの肉、イノシシの肉。あ、ヒツジも好き。

──すごいね。じゃあ、お父さんの獲ったイノシシを食べてみて、どうだった。他のお肉と比べて……。

息子さん: 他の肉より脂が美味しかった!

松本さん: そう、脂がサクサクして甘いって言ってたよね。よかった。いい食育してると思いませんか?

──すばらしいですね。ところで、ハンターバンクでこれからまたイノシシが獲れてくればどんどんいろんなことができる、という状況だと思うんですけれども、実際に箱わな猟をしてみて、改善したいところって、なにかありましたか?

松本さん: いや、現場ではまだちょっと思いついてないですね。もっとヌカをがんがん撒けばイノシシが来るのか、そこもちょっと分かってないんですけど……本当は月いちで3頭ぐらい獲れると最高だろうな、と思いますけどね。そしたら止め刺しとか内臓を出すとか、枝肉にばらすとか、技術も向上するんじゃないかと思います。とはいえやっぱりみんな社会人なので、必ずしもすぐ休みが取れて集合できるという人ばかりじゃないんです。捕獲の頻度が上がればみんなに解体の機会ができて、もっといい体験ができるんじゃないかなと思いますので、そこもまた勉強、ですね。でもまあ、十分に楽しめてると思います。

──あとハンターバンクでの活動、あるいはハンターバンクを通じてご自身の個人的な活動としてでもいいんですけれども、次はどんな風にしてみたいですか、というのを最後にうかがいたいのですが……。

松本さん: あの、トレイルカメラによく、キジが映ってるんですよ。昔、子どものころに食べたきりなんで、あれもちょっと食べたいな、とは思ってます。

──ですね。ありがとうございました。

松本吉保さん(まつもと・よしやす)

魚も鳥も丸ごと、内臓までとことん食べたい!という食いしん坊の鑑。いずれは大きな獣も自分の手で、と思っていたところにハンターバンクへの誘いがあって、ついにイノシシの解体も経験。念願はかなったものの、そこにはまだまだ反省すべき点があったと、勉強の道は続きます。家庭では実践的な食育の道も模索していて、息子さんの将来も期待できそうです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.7 松本吉保さん

丸ごと美味しく食べるなら、自分の手で──それもハンターバンクの魅力です。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

魚も鳥も、内臓まで全部を食べたいから丸ごと調理したい、という松本吉保さん。いずれは大きな獣も全てを自分の手で、と考えていたところに、ハンターバンクとの出会いがありました。そこで猟果にも恵まれ、念願だった、丸ごとで大きくて生きている獣から、という流れを自分の手で経験することができたのですが、そこには食いしん坊ならではの反省もあって……。

──今回お話をうかがうにあたってSNSも拝見したのですが、小田原のフィールドには、お子さんも一緒にいらっしゃることが多いんですか?なんか、可愛らしい写真が……。

松本さん:いや、あれはハンターバンク主催のイノシシ解体体験の時だったんですよ。子どもは、まだその一度だけですね。

──ハンターバンクでは、グループとしてはどんな感じで参加されてるんですか?

松本さん:まだスタートして2カ月ほどなんですが、友人に誘われまして、それで登録して活動を始めたという状況です。グループとしては8人、かな。まあ全員が知り合いなんですが。

──そもそもハンターバンクに参加するきっかけは何だったんですか?

松本さん: メンバーの一人がハンターバンクという存在を見つけてきて、これやろうよということで、仲間内で参加したい人間を募って、手を挙げたのがその8名だった、ということですね。

──メンバーの一人とおっしゃいましたけど、どんな感じのグループだったんですか?

松本さん: 自分たちでいろいろ獲って食べよう、みたいなことをわりとやっているグループなんで、釣りをしたり、魚を突いたりとか。で、そういったメンバーの集まりの中で「イノシシやってみよう、興味あるやついないか」みたいな流れですね。

──狩猟免許はお取りになったんですか?

松本さん: 私は持っておりません。これからの取得も、そこまではちょっと想定していないですね。

──なるほど。では、ハンターバンクでの猟果はどんな感じなんですか? 2カ月ほど活動をされていて……。

松本さん: 一度、イノシシが3頭まとめて獲れたということがありまして、まだそれだけですね。だいたい2歳ぐらいのヤツじゃないかとかいわれていましたけどね。

──扱いやすいというか、程よいサイズのが3頭も入った、ということですね。まあ、結構な猟果ですね。

松本さん: そうですね。箱わなを設置してから獲れたのも早かったんですが、なかなか獲れない方もいらっしゃるということをうかがいましたんで、ラッキーでした。

──頻度としては、どのぐらい通ってらっしゃいます?

松本さん: いや、通ってはないです。今のところ、掛かった時に1度行ったということですね。解体体験もありましたので、合わせて2回です。ヌカを撒いていただくのはグループのメンバーでなく、ホストさんに撒いていただいていまして、なにか特別な餌を撒きたいときにはメンバーが行く、と。直近ですと、トレイルカメラでイノシシの姿が全く見えなくなってしまったので、箱わなの場所を変えてみようということで、先週の土曜日にメンバーが何人か行っていました。

──松本さんのグループは、わりと省エネなタイプなんですね。それでも、なかなか獲れないチームもある中で3頭も獲れたんですから、山の神さまに愛されているチームなんでしょうね。

松本さん: ありがたいですね。全員が都内で会社員なので、なかなか行けないっていうのがなんともな……とは思うんですけども、いろいろとホストさんにお願いしながらやっています。

──それでも獲物にちゃんと巡り合えるというのがハンターバンクのシステムのいいところだと思うんですが、実際にその強みを活かしているチームだな、という感じがしますね。ところで松本さんは、ハンターバンク以前にも、例えば鳥を絞めたりといった経験はあったんですか?

松本さん: 絞めてはいませんが、鳥は、業者さんから羽付き内臓付きのカモを買ってたりして、家で羽をむしって内臓を抜いて食べたことはあります。

──なるほど。でも、内臓や毛がついていると大変じゃないですか?

松本さん: 内臓、食べたいんですよ。内臓を食べたいんで、処理される前の方がありがたいんです。
そうなると羽付きになるんですよね。

──なるほどね。食べるんだったらとことん食べたい、丸ごと食べたい、という強い思いをお持ちだった、っていうことなんですね。

松本さん: そうですね。親もきれいに魚の骨の周りを食べますし、最後は骨も焼いて食べたりしてましたから、そういうのを見て育っていて、丸ごとに馴染みがあったんだと思いますね。

──それにしても大きな獣に関しては、生きてるところから止め刺しをして、剥皮して、内臓摘出をして、という解体の作業をされるのは、今回のハンターバンクでの猟果が初めての経験ということですか?

松本さん: そうですね。解体体験では内臓が抜いてあるものでしたし。

──生きているところから止め刺しや解体をされてみて、率直な感想としてはどうでした?

松本さん: 命を頂戴するということで、感謝をして、ちゃんと丸ごと食べよう、という感じでした。実は止め刺しが一発で仕留められなくて……イノシシが暴れて、もう一回刺し直しをするっていうことをやったんで、ちょっとそこは反省してます。私、ずっと剣道をやっててですね、突くとなるとついつい喉を突いちゃうんで、胸を突くべきだったな、と。どこをどう突くかっていうところをちゃんと予習してやるべきだったと、そこら辺は勉強不足でした。

──解体体験の時には、どの部分から刃先を入れて、どの方向に刺すんですよ、みたいな説明もあるんじゃないかと思うんですが……。

松本さん: ああ、そうでした。忘れてました。そこはちょっとやっぱり、ドキドキしてたんだと思います。その時に考えていたのは、うっかり心臓に刺さってハツが食べられなくなったら嫌だな、と……。それで、胸を刺そうという気持ちにはなってなかったですね。ちゃんと刺すべきところを、経験の豊富な人に聞いて、忠実にやるべきでしたね。

──なるほど。それにしても、止め刺しに失敗した理由がハツを刺したくなかったから、って、そういう人もなかなかいないですよね。

松本さんのお話は[その2]へと続きます。

松本吉保さん(まつもと・よしやす)

魚も鳥も丸ごと、内臓までとことん食べたい!という食いしん坊の鑑。いずれは大きな獣も自分の手で、と思っていたところにハンターバンクへの誘いがあって、ついにイノシシの解体も経験。念願はかなったものの、そこにはまだまだ反省すべき点があったと、勉強の道は続きます。家庭では実践的な食育の道も模索していて、息子さんの将来も期待できそうです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.6 鈴木毅人さん

300年間に渡って山林を守ってきたホストさんは、山だけでなく里との繋がりも考えていました。[その2]

鈴木さんの会社がホストとして提供してくれているフィールドは、小田原市の中心部からすぐ近く。周辺には公園やレジャー施設も数多く、休みの日には多くの人が集まるエリアです。そんな場所で山を守っていくためには、関係者しか立ち入らないような山奥の守り方とは違って、里に近い山ならではの難しさもあるようですが……。狩猟とは違う目的で山に来る人が、狩猟に興味を持つようになる。あるいは小田原の山に縁のなかった人が、遠くから来てくれる。そんな相乗効果への期待も、ホストとしてハンターバンクに参加することの面白さだと話してくれました。

──そういえば鈴木さんご自身は狩猟されるんですか?

鈴木さん: 狩猟免許はまだ取ってないですね。興味はあるので、いずれ取ろうとは思ってますけど。ただ、現場では合法な範囲で、止め刺しから解体まで全部経験はありますよ。

──ということは、生きてる獣がどういう流れで肉に変わっていくのか、命がおいしく変わっていくプロセスというのは、実体験として経験値はたくさんあるんですね。

鈴木さん: ありますね。しかも僕の場合、肉に見えてくるタイミングがわりと早いんです。どのくらいの状態から肉に見えてくるか、っていろんな人に聞くんですけど、僕は皮を完全に剥き終わってなくても、もう食べ物に見えてきちゃってますね。

──なるほど。それはなかなかレベルの高い……。

鈴木さん: 魚突きとかもやるんですよ。魚突きって、獣を締めるのに比べてなんでもないかな。と思いきや、やっぱりグロテスクなんですね。魚だって内臓が飛び出たままでも生きていて、逃げていくんで。だからこそ、真剣に捕ってあげないとかわいそうだと思うんです。そこが雑だと、ただの残虐行為になっちゃうんですよ。そういうのずっとやってたんで、獣の場合も、そこに抵抗感はないですね。あと、水族館も回遊水槽とか、見ているともうお腹が空いちゃってしょうがないですね。

──ハンターバンクに参加しているハンターさんとか、狩猟に興味があって見学に来る人だと、そういう人も少なくないでしょうね。

鈴木さん: そうでしょうね。でも、マウンテンバイクのコースに遊びに来てくれているお客さんも、その辺りに興味のある人はすごく多いんですよ。バーベキューで「この山で獲れたイノシシを出します」なんていうと「最高ですね!」と返ってくるような感じで。もちろん個人差はあると思うし、親子で来ているお客さんにとっては「子どもにどこまで見せるか」という部分では「絶対にダメ」という人もいらっしゃいますけど、基本的には皆さん、山が好きなんですよね。だからといって、じゃあレジャーのお客さんに止め刺しから体験してもらえるかといったら、それはさすがに難しいと思うんですが、内臓を抜いて、皮を剥いで……という段階からなら、サービスとして成り立つんじゃないかとも思っています。もうひとつのレジャー施設、ワイヤーで樹間を飛んでいくほうのお客さんはもっとお子さま連れなんですが、この山でも獣が山を荒らしているんだよ、という背景と、だから獲って食べるんだよ、というバーベキューの部分なら提供できると考えています。

───ハンターバンクでの成果って、ハンターさんの場合には「イノシシが獲れた!」という部分でわかりやすいんですが、鈴木さんの会社のような多角経営のホストさんの場合だと、獣害が減ったという実績に加えて、相乗効果への期待もある、ということなんですね。

鈴木さん: そう思ってます。より多くの人、いろんな層の人が来てくれて、そこから狩猟に興味を持っている人がまた小田原に来て、うちの山でちょっとやってみたいな、という人が増えてくれるといいな、と思っていますね。

──実は今回、初めてホストさんにお話をうかがえるということで、なにを持って成果と捉えていらっしゃるのか知りたいと思っていたんですよね。もちろんハンターさんが増えて、猟果も増えて、目に見えて獣の数が減れば、それは大きな成果なわけなんですが……。

鈴木さん: うちの山の場合は、管理してる部分が山奥ではなくて、里山なんですよ。それも近くに公園があったりとか、普通に人が入ってくるような範囲で。その意味ではロープで区切らないと子どもが入ってくる可能性があるような場所ですし、設置した箱わなが歩いている人から見えるなら説明の看板も設置したほうがいいかな、という場所なんです。そう考えると、深い山で深刻な獣害に悩まされているエリアとは、ちょっと違うと思うんですよね。いま、アクティビティー的にハンターバンクを楽しんでいる人がいて、それがだんだん増えて、間口として広がっていく……という規模感でやっていければいいかな、と考えています。あと、野生鳥獣による林業被害というところでは、木の皮をめくられて甘皮を食べられることによって木がダメになる、っというのはもちろんなんですが、うちの山ではそれ以上に深刻なのが、シカであればヒル、イノシシであればマダニなんですよね。この10年でまだヒルは見ていませんが、マダニはうちのスタッフでも結構やられています。いずれ丹沢あたりからシカが入ってくれば、間違いなくヒルもついてくるわけで、気持ち悪いですよね、お客さんとしたら。丹沢では実際にそれで潰れたレジャー施設もありますし、もうギリギリのところだと思います。うちの山でトレイルランニングしていても、10年前には足を出したスタイルで走っていて平気だったのが、最近はシューズの中に入っていたりしますからね。そういう意味で、レジャーのお客さんのためにも、山の獣が増えないように、これ以上は降りてこないようにしておきたいわけです。でないと、マウンテンバイクを習いに来た子どもさんや、散歩の犬が、マダニを連れて帰ることになりかねないので。それは絶対に避けたいんですよね。

──そのあたりは「山奥での食害が減った」という話とは別の、里に近い山ならではの成果、ということなんですね。

鈴木さん: そもそもハンターバンクって、ひとつの場所だけで展開していくものではなくて、地域を広げていったり、面で考えていかなきゃならないものだと思うんですよね。獣は山から山に移動しますからね。その意味では、濃度としては高くなくても、横につながりながら広くやっていくのが大事だと思うので、いろんな地域でいろんな成功事例が増えていくといいですよね。

 

──本当にそうですね。ありがとうございました。

鈴木毅人さん(すずき・たかひとさん)

自然に関われる仕事を探して東京から移住し、小田原でちょっと変わった林業会社に転職。これからの林業、山林経営を考える中で必要と思う森林のレジャー業を展開してきましたが、そこでハンターバンクのホストも行うことになり、担当者として奮戦中。趣味はトレイルランニングで、ジビエも大好き。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.6 鈴木毅人さん

300年間に渡って山林を守ってきたホストさんは、山だけでなく里との繋がりも考えていました。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

さて、ここまで5人のハンターさんにお話をうかがってきましたが、今回はハンターではなく、ホストさん。ハンターさんに箱わなを置く場所を提供したり、日々の見回りをしてくれる農林業者さんたちです。今回のホストさんはここ小田原の荻窪で、300年間に渡って山林を守ってきた林業会社。担当者の鈴木毅人さんは、ハンターバンクに参加することで、自分たちの山だけでなく周囲の山々や、その先のことにまで広がる想いを聞かせてくださいました。

──今回はホストとしてハンターバンクに参加している人を、ということでご紹介をいただいたんですけれども、鈴木さんは林業の会社にいらっしゃるということでいいんですか?

鈴木さん: 自分はレジャー業からこの仕事に入っていましてね。この小田原に山を持っているのはうちの代表で、70ヘクタールほどの山を300年ほど守ってきて、当代で八代目になるんですけれど、まあ今は木が高く売れないので、林業としてはやりづらいわけですよ。そういった中で、こりゃ木を刈って売る、いわゆる林業だけではダメだということで、多角的な経営を取り入れていて、今はレジャー業も展開してるんです。そこで自分は、樹上に張ったワイヤーにハーネスでぶら下がって、空を飛んでいくアスレチック施設とか、あとマウンテンバイクのコース運営なども担当しています。

──あ、先日フィールドを見に行ったときに、マウンテンバイクの人たちもたくさんいましたね。

鈴木さん: あと、そういったレジャー業とは別に、農園もやっているんです。季節によって梅だったり、タケノコだったり……そういう意味では、林業だけではなく農業の視点からも山を見ているかな、というところかもしれませんね。

──面白い会社なんですね。

鈴木さん: そうですね、あまりないケースなんです。なので、林野庁さんをはじめ多方面から注目されているかも知れません。エネルギー関係でもメガソーラーとかやってますし、水力発電が元々あったり、そういったものを全部総合した、多角的な山林経営というところで、色々なところから視察に来られます。

──なるほどね。で、鈴木さんご自身は、そこの会社に入る段階では、いわゆる木こりさんになるつもりだったんですか。

鈴木さん: いや、自然に関われる仕事を探して、東京から移住して、ここ小田原のアウトドアレジャー施設のマネージャーに、とお声がけいただいたんですけれど、もっと面白いことを仕掛けたいですね、という話を代表としまして、今はいろんなことをこの山でやっている……というところですね。

──じゃあ「山で飯を食ってくぞ」という思いが、そこで現場とフィットして、今に至るわけですね。

鈴木さん: はい、そうです。今は使われない山が多いので……特に里山、町に近い山ですね。小田原の場合、市街地からクルマで5分、高速道路からなら降りて3分という山なのですが、でもそこに300年の木なんかが生えてるわけですよ。で、せっかくそんな山を持っているにもかかわらず、林業として成り立たないってのは残念なことなんですが、でもまあ林業は繰り返しますので、また先々その木が売れるはずなので、それまできちんと山を管理すること、どうやって維持するかということが大事なので、今はそういった仕事をして10年になりますね。山そのものは江戸時代からで、代々ずっと個人で山を管理されていたんですよ。レジャー業も先代まではやってなかったので、新しい取り組みなんですけどね

──鈴木さんご自身にとっては、こちらにジョインされて、実際に自分のフィールドができて、その時点では野生鳥獣被害というのは認識があったんですか?

鈴木さん: もちろん自然の仕事の中には野生鳥獣被害対策なんかもあるとは知っていたんですが、実際にその山に入ってみて……というか、趣味がトレイルランニングなんですよ。もともとトレランの為に、実はその山にはもう入っていたんですね。で、まあ10年前には尾根沿いにしかいなかったシカが、今はどんどん下りてきて、もうすぐ隣にシカがいるという状態ですね。食害の面積も広くなって、個体数も圧倒的に増えたんだろうな、というのが実感です。まだ小田原はそこまで害がひどいということではないんですけど、個体数ってある程度に達したところから、いきなりぼんと増えるじゃないですか。真剣に対策しなきゃいけないね、と考えるようになったのが、5〜6年前ですかね。

──イノシシはどうですか?

鈴木さん: 増えてますね。イノシシの場合は明らかに形跡を残していくので、足跡以外にも、掘り返しの跡とか、もう至るところにある状態ですね。掘り返すことによって虫を食べたりするんですけど、それで根がダメになって、ミカンの木がやられてしまったり、あとタケノコ、食われちゃうんですね。タケノコ守るのに竹柵を作って……今の日本では竹そのものも田畑を侵食したり家屋の床を突き破ったりで竹害といわれたりしていますが、うちの山では獣害を竹害対策で対策する、みたいなことになってます。まあ山の獣は移動するんで、餌が食べられないとなれば隣に行きますし、隣りがダメになれば戻ってきたり、もうずっと追いかけっこというか、戦っていますね。

──ハンターバンクのホストになって、いろいろなところからハンターさんが通ってくるようになる前から、このエリアにも狩猟者さんがいらっしゃったと思うんですが、積極的に山の獣の相手をしてくれる人たちと連携していく、というアプローチは、どうだったんですか。

鈴木さん: もちろん猟友会さん、山に入ってくる人たちが3団体くらいあったんですが、管理してる側としては、連絡もくれないでそこら辺で勝手にやらないでくれ、という感じもありましたね。例えばレジャーのお客さんのところにまで獣を見失った猟犬が飛び出してきちゃったりして……休みの日だと子ども連れの家族が300人くらいいるわけですが、怖い思いをさせちゃったりしたことも……そうですね、色んなお話がありました。

──それでも狩猟で山の獣を押し返していかないと、シカもイノシシもどんどん増えて、山林経営はますます難しくなっていく、という……。

鈴木さん: そうですね。しかも山林経営の多角化ということで、レジャーのお客さんもたくさんいらっしゃるわけで、なにかと難しい部分もあったんですが、そこで出会ったのが、まさにうちのニーズにピッタリな、ハンターバンクさんだったんですよ。事業モデルが箱わな猟ということで、放たれた猟犬がレジャーのお客さんを驚かせることもないし、効果的な設置場所もこちらで検討できますし、都市部から新しいハンターさんが来てくれるわけですからね。

──いわゆるWin-Winな関係性、ですね。

鈴木さんのお話は[その2]へと続きます。

鈴木毅人さん(すずき・たかひとさん)

自然に関われる仕事を探して東京から移住し、小田原でちょっと変わった林業会社に転職。これからの林業、山林経営を考える中で必要と思う森林のレジャー業を展開してきましたが、そこでハンターバンクのホストも行うことになり、担当者として奮戦中。趣味はトレイルランニングで、ジビエも大好き。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.5 小蝶辺明日子さん

大きな自然の循環の中に、ハンターバンクで自分の居場所が作れました。[その3]

動物の痕跡を探しながら、ひとり静かに山林を忍び歩いて……。ふんわりと思い描いていたという、そんな〈狩猟者さん〉のイメージとは、ずいぶんと違ったスタイルで狩猟デビューをすることになった小蝶辺さん。存在すら知らなかった〈箱わな〉でのハンター体験は、実際に自分で手を動かしてみれば、いろいろと納得のいくものだったようです。

──ところで、小蝶辺さんが最初におっしゃっていた狩猟者のイメージ、山で動物の痕跡を追いながら、最後はひっそりと近づいて……といったスタイルでは、基本的には銃を使わないと捕獲は難しいと思うのですが、それはこれからの挑戦で、ということですか?

小蝶辺さん: もともと狩猟者さんに対する私のイメージが、そういう山歩きの感じだったんですよね。狩猟といえばまず鉄砲、そうでなければくくりわな、みたいに考えていて……実は〈箱わな〉なんて、その存在すら知らなかったんです。それがハンターバンクで箱わな猟を体験して、設置とか誘引とか準備の手間はかかるけど、上手にできれば効率のいい手法のひとつなんだな、ということもわかったんですよね。それに、初心者でも危険性が少ない、という点は、箱わなでの捕獲を経験してみて、実感しましたね。実際に箱わなの中でイノシシが突進する様子とかを見ると……私たちの箱わなに入ったのはそんなにサイズの大きいイノシシではなかったんですが、それでもやっぱり「すっごく力が強いんだなあ」と思ったんで。あれがくくりわなだったとしたら、ちゃんと脚にかかっていても、イノシシはワイヤーの長さの分だけ……まあ、かなり動けるわけですよね……。

──くくりわなの獲物に近づくには、細心の注意だけでなく、度胸も必要でしょうね……。

小蝶辺さん: そういうわけで、単独でも狩猟するとなったら、まずは箱わなから始めて経験を積んでいくのが無難な気はするんです。とはいえ単独でいきなり箱わな猟を……というのも、猟ができる、箱わなが置ける場所を探したり、運ぶ手段を用意したり、そもそも自分だけで高価な道具をあれこれそろえたりするのは初心者には難しいわけで、誰か師匠を見つけて教えてもらうしかないのかな……。その点でも、まだ狩猟免許を持っていない素人の、右も左も分からない段階でも飛び込める、というハンターバンクのサービスは、ありがたかったですね。

──都市部の住人としては、そもそも土地勘もない、知り合いもいないところで狩猟することになるわけですからね。その中で、新米に優しくて教えるのが上手なベテランの狩猟者さんと出会う、というのは、現実的にはなかなか……。

小蝶辺さん: 私たちのグループではサポート付きのサービスを選んだんですが、マッチングしたホストさんやサポートハンターさんが本当にいろいろと助けてくださって、教えてもらうだけでなく、現場でのサポートがすごく手厚かった、っていう印象がありますね。狩猟にまつわるいろんなことを一気に経験できて、その中で、自分として「狩猟と、どう向き合いたいのか」というところまで改めて考えることができたのも、すごくよかった。

──なるほど。新米ハンターさんが銃を使ったグループ猟でデビューしたとしても、例えば自分の目の前に獲物がちゃんと現れるとは限らないし、現れたとして、自分で撃ててもちゃんと当たるとは限らないわけですものね。それで「獲物を仕留めた」というところまでを「一連の経験」だとすると、その一連の経験ができるまで、1シーズンや2シーズンでは足りないことも……。

小蝶辺さん: かなり時間がかかるでしょうね。実は私たちのグループにも銃猟の免許を持っているメンバーがいるのですが、グループ猟での経験としては、解体はみんなでやったけど止め刺しはまだ……みたいな話でした。それが箱わな猟なら、捕獲から止め刺し、解体までを一連の、自分の行為としてちゃんと経験できる、というのは大きかったですね。

──では逆に、ハンターバンクがもっとこうだったらいいな、と感じたことは、なにかありますか?

小蝶辺さん: どうですかねえ……パッと出てこない。あ、でも、これは私の考えが甘かっただけかもしれませんが、獲物がかかると「こんなにたくさんの肉ができちゃうよ」っていう現実は、先にわかっておきたかったですね。

──そこは……いよいよご自宅に冷凍ストッカーを、ですね。お話、ありがとうございました。

小蝶辺明日子さん(こちょうべ・あすこ)

大きな自然の食物連鎖に憧れて、自分もその一部になりたい、という子どものころからの願望を、ついにハンターバンクで実現。お仕事では生物多様性のマクロな世界もテーマとして扱っていらっしゃいますが、もともとは分子生物学のミクロな世界を勉強されていたそうで、いまや粘菌からイノシシにまで循環の輪が広がった新米ハンターさんです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.5 小蝶辺明日子さん

大きな自然の循環の中に、ハンターバンクで自分の居場所が作れました。[その2]

ハンターバンクと出会ったことで、子どものころからの憧れだった、大いなる自然の循環の一員になることができた小蝶辺さん。あれこれと苦心しながらも、めでたく猟果に恵まれて、無事に止め刺しや解体を経験できました。ところが、長年の夢が現実となったその瞬間は、それまで考えてもみなかった、意外な課題を突きつけてきたそうです。

──さて小蝶辺さん、ハンターバンクでの活動をスタートしてから3カ月ほどで猟果に恵まれた、ということで、初めての止め刺しや解体も興味深く、楽しく経験されたわけですね。で、その後にはまさに食物連鎖として〈食べる〉という行為ができるようになるわけですが、そこはどんな感じだったんですか?

小蝶辺さん: 実はですね、その〈食べる〉という行為の前の段階で……解体して、切り分けた肉を持ち帰る、というところがすごく、たいへんだったんです……。理想のイメージとしては、本当に余すところなくきちんと食べて、というのを思い描いていたんですけれど、その日は親イノシシと子イノシシで一度に3頭も獲れて、それをなんとか止め刺しして、解体して、それだけでもう、ありがたいというより疲れ果ててしまって……。作業が雑になってしまったのも反省しているんですが、私たちは6人のグループで活動していて、その日は参加できたのが3人だけだったんですよ。そもそも自分は一人暮らしだし、そんなに消費できないのだから少しだけ分けてもらえればうれしいな、ぐらいの気持ちでいたんですけれど、結局その日は3人でその肉を持ち帰らなきゃいけない、ということになって、それがプレッシャーに変わってしまって……正直なところ、ちょっとつらかったんです。

──全部で何キロあったんですか?

小蝶辺さん: トータルでは量っていないのでわからないんですが、私が持ち帰ったのは、骨付きの状態で6〜7キロぐらいでしたね。しかも、その日に参加した別のメンバーの一人も、それほど大量の肉は持って帰れない、ということで、なんか最後の一人に押しつけるみたいな感じになっちゃって、すごく心苦しかったんです。あの人、一人で20キロぐらい持って帰ってくれたんじゃないか、っていう……。

──そのあたりは事前に具体的なイメージができていなかった、というか、ギャップがあったということなんでしょうか……。

小蝶辺さん: そうですね。自分の家の冷凍庫も一人暮らし用のサイズだし、既にいろいろと食材が入ってるところに肉を入れなきゃならないわけで、そうなると、それほど量を持って帰れないのだけれど、でも仕留めちゃったし……みたいな状況になってしまって、もっとちゃんと覚悟したうえで臨んだほうが良かったな、というのは、すごく感じました。理想と現実のギャップというか、それまではまず肉をキロ単位で考えたことがなくて、それがどれぐらいの分量になるのか、というようなことを認識できていないまま現場に臨んでしまったな、という……自分の甘さですね。

──これから技術が向上してコンスタントに獲物が掛かるようになってきたら、冷凍ストッカーも必要になってきますよね。

小蝶辺さん: 皆さんそうおっしゃいますね……冷凍ストッカーないと収拾つかなくなるよ、って。あと、やっぱり個人消費だと食べられる量も本当に限られているわけで、有害鳥獣駆除としてたくさん捕獲するといっても、そこは個人消費の限界を感じました。だからこそ、それがちゃんと食肉流通とかでうまく循環できるシステムが大切だし、必要なんだな、と思いますね。

──まあでも反省点はあるとして、ともかく実際に食べるところまでいったわけですよね。自分で獲った肉を食べてみて、率直な感想としては、いかがでした?

小蝶辺さん: 実はその、獲った当日にいろんな部位をちょっとずつ切って、さっと焼いて、本当に塩味だけ、ちょろっと塩を振っただけで食べ比べたんですが……。

──それはなかなか面白い食べ比べですけど……。

小蝶辺さん: それが……美味しいとは思えなくて、すごい血生臭さを感じて、これやっぱり止め刺しが悪かったのかな? それともその後の解体処理が悪かったのかな? とかいろいろ考えちゃって……。で、あんまり美味しいと思えない肉がまだこんなにもあるんだ、という負担を感じつつ、骨を外して冷凍庫に詰め込んだんです。ですが、その後に煮込み料理なんかにしてみたら、それはわりと美味しくできまして、改めて「なんだこれ美味しいんじゃん」と思っているところです。疲れ果てて帰った当日に、ちゃんとした味付けもしないで焼くだけで食べたのは、なんだか固くて美味しくなかったわけですが、それがちゃんと調理をしたことで変わったのか、ちょっと時間が経って肉質そのものが変わったのか……そこはよくわからないんですけれど、とにかく初日に「美味しい!」と思えなかったのは、それはそれでショックでしたね。

────まあその肉は手際の問題もあって、いささか放血不良があったかもしれませんし、解体の直後で肉の固さもピークなところを味見しちゃった、ということで、それはなかなか厳しいものがあったんでしょうね。

小蝶辺さん: 全然これ美味しくないんだけど、って他のメンバーもボヤいてました。

──ともあれ、それは肉として美味しいか美味しくないか、という観点での感想なわけですが、自分の手で作った肉として食べた、という点では、どうでしたか? もちろんそれが初めての経験だったと思うんですが……。

小蝶辺さん: 正直なところ、その日は丸1日かけて、本当にいろいろと初めての経験をして、かなり疲れていて、おまけにちょっと食べたら美味しくない!というショックもあって、もう「これを消費しなきゃいけないのか……」というプレッシャーが大きくて……。止め刺しとか解体そのものは楽しかったんですけど、家に帰ってみれば、なにかを達成したというよりは、ネガティブな気持ちのほうが大きかったですね。

──自分が思い描いていたジビエとは違った、という感じですか?

小蝶辺さん: そうなんです。それまでにもイノシシとか食べたことはあって、その時は美味しかったんです。というか、どちらかというとヤギとかヒツジとか、獣臭い肉は好きだったんですよね。だから、自分で獲ったイノシシを食べたら絶対に美味しい!と感じるはずだ、ってタカをくくってたんですけど、実際にはあれれ?という……。ジビエ料理でいわれるところの、いわゆる獣臭さというのは、きちんとしたプロの料理人の演出としての獣臭さだった、というのがよくわかりました。

──じゃあ次の獲物では、美味しくなれ!と思いながら、止め刺しでいかにキレイに放血させるか……みたいなところがポイントですね。

……ということで、リアルな「新米ハンターあるあるネタ」をご披露いただいた小蝶辺さんですが、今回のお話はもう少しだけ……[その3]へと続きます。

小蝶辺明日子さん(こちょうべ・あすこ)

大きな自然の食物連鎖に憧れて、自分もその一部になりたい、という子どものころからの願望を、ついにハンターバンクで実現。お仕事では生物多様性のマクロな世界もテーマとして扱っていらっしゃいますが、もともとは分子生物学のミクロな世界を勉強されていたそうで、いまや粘菌からイノシシにまで循環の輪が広がった新米ハンターさんです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.5 小蝶辺明日子さん

大きな自然の循環の中に、ハンターバンクで自分の居場所が作れました。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

子どものころから憧れていた、大きな、大きな自然の循環。それは食物連鎖の仕組みの中に、自分も食べ、そしていつかは食べられる存在としてありたい……というユニークな発想でした。そんな小蝶辺明日子さんが大人になって知ったのは、狩猟という行為は、他の生き物の命を食べるということ。すなわち、自然の循環に積極的に関われる手段のひとつだということです。そして、そこにはハンターバンクがありました。

──まずはハンターバンクに参加したきっかけからうかがいたいのですが、もともと狩猟に興味があったとか、家族にハンターさんがいらっしゃったとか……。

小蝶辺さん: いや、ただただもう個人的な興味が子どものころからあった、って感じですね。そのころに狩猟という言葉がどんな意味なのか知っていたわけではないのですが、生き物が生き物を捕まえる、みたいな、食連鎖的なところから来ている興味なんです。

──食物連鎖とか弱肉強食とか、子どもにとって興味の対象になりやすいテーマではありますが、その食物連鎖の中に自分が入ろう、とは、なかなかならないと思います。それは「私も食物連鎖の上の方に行くぞ」みたいなことだったんですか?

小蝶辺さん: それはちょっと違って、食物連鎖のピラミッドの頂点というよりは、自然界で巡り回って循環している、その中に自分も入る、というイメージが強かったんですね。根っこにあるのは、自然の偉大さへの憧れだと思います。自分が死んだら動物や微生物に食べられたりして、自分が上に立つだけではなく、大きな自然の中の一部になりたいな、みたいな憧れが、ずっとあったんです。もっとも、循環の一部になりたいという基本的な想いと、そのうちのひとつが狩猟なんだ、とわかったのは、大人になってからですけどね。

──なかなかユニークなお子さんだったわけですね。そして大人になって、気がついて、ついには〈狩り〉がしたくなった、という……。ハンターバンクに参加される前にも、例えば狩猟の見学に行ったり、動物解体ワークショップみたいなことを体験したり、ということはあったんですか?

小蝶辺さん: 私の場合はハンターバンクが初めてですね。実は仕事の関連で有害鳥獣への対策なんかを調べているうちに、たまたまハンターバンクを見つけて、すぐに飛び込んだ、って感じでした。仕事の関連というのは生物多様性のリサーチだったりするんですけれど、その分野でもイノシシやシカが増えているのが問題だ、と聞くので、ちょっと面白いなと調べていくうちに……。

──そうすると小蝶辺さんの中では、自然の大きな循環の中に自分も居場所を見つけたいという長年の想いと、生物多様性について考えていく時に避けることができない有害鳥獣対策どう向き合うかということが、ハンターバンクという場所でちょうど交わった、ということなんですね。

小蝶辺さん: そうですね。そもそも狩猟っていきなりは入りづらい世界で、どこで何をしたらいいのかもよくわからないわけですが、そういう素人でもとりあえず飛び込める、という環境だったのが、すごく良かったと思います。

──なるほど。で、実際にハンターバンクで狩猟という活動をされて、試行錯誤があって、やっと猟果に恵まれる日が来たわけですが、大きな食物連鎖、自然の循環の話からすると、実際にそれが現実になって、どういう感じだったんですか?

小蝶辺さん: こういう言いかたはちょっと良くないのかもしれないですけど、止め刺しとか解体とか初めてのことばかりで、この関節はこう動くんだとか、この筋肉はこの骨につながってるんだとか、そういうところからして、すごく楽しかったんです。もちろん反省点もあって、止め刺しがうまくいかなくて時間がかかってしまったり、解体もきれいにできなかったり……もっと冷静に、ささっとできるようになりたいな、っていう想いが強くなりました。さっと止め刺しできたほうが動物にとってはいいのかな、というのもありますし、血管の位置とかもっと勉強しとけば良かったな、とすごく反省しました。そこから解体までの技術向上というのも、その後で肉を食べるという意味で、せっかく捕ったのだからおいしい肉にしたいよね、という気持ちになりました。でもまあイノシシも箱わなの中で動いていますし、なかなか難しかったですね。

──ともあれ、ハンターバンクに参加して、捕獲から止め刺し、解体をして、命が肉に変わるというところを経験したことで、これで自然の大きな循環の一部になれた、というわけですね。

小蝶辺さん: そうですね。まあ昔は釣りもしてたんですが、鶏を締めたりとかはしたことがなかったので、食物連鎖の中で考えると、魚の次がイノシシで、自分もいまそこに、ということですね。

──大きな自然の循環、という視点で、なかなかユニークな狩猟観をお持ちの小蝶辺さん。ところが実際の猟果に恵まれて、いざ自分の手で肉を得てみると、そこには考えてもみなかった意外な問題が……。

小蝶辺さんのお話は[その2]へと続きます。

小蝶辺明日子さん(こちょうべ・あすこ)

大きな自然の食物連鎖に憧れて、自分もその一部になりたい、という子どものころからの願望を、ついにハンターバンクで実現。お仕事では生物多様性のマクロな世界もテーマとして扱っていらっしゃいますが、もともとは分子生物学のミクロな世界を勉強されていたそうで、いまや粘菌からイノシシにまで循環の輪が広がった新米ハンターさんです。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.4 溝口尚重さん

旅から持ち帰った〈想い〉は、ハンターバンクで〈現実〉になりました。[その2]

若き日の旅の記憶に鮮明なのは、アジアの寒村で目にした、ホカホカと湯気を立てる豚の解体の光景。それ以来、ずっと抱えてきたのは「自分が食べるものなのだから、すべてを自分の手でやってみたい」という想いでした。そんな長年の夢をハンターバンクで実現させた溝口さんの中では、はたしてなにかが〈変わった〉のでしょうか? それとも……。

 

──さて溝口さん、ハンターバンクに参加されて、猟果にも恵まれて、念願かなってチベット族の村で見た屠殺と解体の記憶を、やっとご自身でも追体験できた……というわけですね?

溝口さん: ハンターバンクの話を聞いて「これはいい機会だ」と思って参加を決めたわけですが、そのときはまだ狩猟免許の取得にはこだわっていなくて、まずは参加させてもらって、あわよくば自分でも肉がさばければな、くらいの感じでした。それが実際に参加したら、運良く2頭もかかりまして、いよいよ自分の手で〈肉を作る〉機会が持てることになったわけです。

──チベット族ではないにせよ、昔の日本でも、魚を獲って、締めて、さばいて食べるというプロセスの次の段階としては、例えば飼っていた鶏を締めて、解体して食べるというステップもあったわけですが、溝口さんの場合には魚釣りからイノシシの捕獲と止め刺し、解体へと一気にジャンプしたんですよね。

溝口さん: ああ……あまりそこには躊躇がないというか、魚も鶏も豚もイノシシも同じかな、という感覚で、どうせ同じだったらデカいやつのほうがチャレンジングだな、くらいですね。

──冒険、という感じでもなかったということですか?

溝口さん: ハンターバンクに参加すると決めてから、実際にその瞬間が来ることはわかっているというか、むしろその瞬間が早く来ないかな、と思っていたわけで、その間にいろんなシミュレーションはしてたように思います。解体の手順はああして、こうして……多分、想いがくすぶっている期間が長かったんで、気持ちの中では「自分が食べるものだから、自分で作るんだ」というイメージが醸成されていたんじゃないですかね。あの旅が23歳のときですから、もう、26年前……結構な期間ですね。まあ、人は当たり前のように肉を食べているわけで、だとすれば誰かが生き物を殺して、その肉を作っているわけなんです。それを、食べている自分だけが、なにかきれいな感じでいるのは変だな、と思うんですよね。

──それはその通りなんですが、でもスーパーマーケットでパックの肉を買ってきて、料理して食べていても、なかなかそこまでには思いが至らないですよね……。

溝口さん: いま話しながら、自分の中になにか源流みたいなものがあるのかな、と思い出してたんですけれど、九州に住んでいた小学生ぐらいのとき、養鶏をしている親戚がありまして、正月に訪ねると鶏料理がいっぱい出てくるんですよ。これ、いま締めたばっかりだよ、って感じで。その直前に子どもたちは鶏と遊んでいて、戻ってきて部屋に入ると、さっきまで遊んでいた鶏の仲間が、美味しい肉になって並んでいるわけです。そこで、いとこの子なんかはショックで泣き出しちゃったんですけど、ぼくは食べることができたんですよね。そうか、たしかにさっきも鶏と遊んでいたけど、いまここにあるこれって、食べものだよな、と。それはそれ、これはこれ、と切り分けて、泣かずに美味しく食べることができた、というのが、源流としてあるのかな、と思います。

──そうかもしれないですね、それは。

溝口さん: 生きていればそれは動物なんだけど、でも食べるものに変わるんだ、と、実際に目の前で置き換わって、たぶんそこで初めて気づいたというか、理解したんだと思います。それからチベット族の話だけじゃなく、パキスタンでも宿の主人が「これから鶏を締めて、美味しいディナーにするからね」と話してくれたりして、その辺を駆け回っているニワトリとかヤギとか「これ今夜のオレたちの晩メシなんだなあ」という目で見ていたので、あまり違和感がないというか、かなり前から「そういうものだ」と思ってたのかもしれませんね。それに……これちょっと哲学的というか思想的な話かもしれませんけれども、命は循環する、というか、感謝しながらいただいて、いつか自分が死んでも、もしかしたらまた鳥が食べるかもしれないし、あるいは微生物が分解して……という食物連鎖の中に、自分の肉体そのものはあるわけですし……そういう意味では動物をそんなに特別視していないというか、感情論よりも事実として、命をいただいて、また返して、みたいな流れの中に自分もいるんだな、とは思ってたような気がします。感情が入っていないわけではないのですが……。

──感情が入っているかどうか、ではなくて、感情とは別の軸もちゃんとある、という印象でお話をうかがっていました。客観性が失われていない、というか、それが理系センスなのかなあ、と……。

溝口さん: まあでも、実際にイノシシを解体したときには、内臓がすごく温かくて、その温かい中に手を差し入れて引き出すというのは、ちょっと想像の域を……理系センスとか客観的な見方とかを超えていたな、とは思いましたけどね。それに、ウリ坊が……止め刺しは首をかき切って締めたんですが、まさに手の中で命が失われていく、というのを自分で体験したので、さすがにグッと来るものがありました。ああ、いただいちゃったな、と……。

──なるほど……。ところで、狩猟免許はどうなったんですか?

溝口さん: 猟果のあとになりましたが、ちゃんと取得しました。でも、自分の場合もそうでしたけれど、興味はあっても機会のなかった人が、狩猟免許の取得がまだでも狩猟体験ができるというのはハンターバンクの最大の魅力ですから、皆さんぜひチャレンジしてほしいな、と思います。狩猟をしている人たちを探すのもなかなか難しいし、たとえ見つかったとしてもその人たちが受け入れてくれるかどうかもわからないわけですが、ハンターバンクのようなサービスがあると敷居が下がって、まず「やってみる」ということができるのは、メリットが大きいですよね。それに、獣害で困っている農家さんの助けになる、というのもいいですよね。

──さらなる猟果、期待しています。ありがとうございました。

溝口尚重さん(みぞぐち・なおしげ)

ハンターバンクで挙げた猟果を前にして、旅の記憶の中の〈想い〉を、ご本人いわく「ずっとくすぶらせてきた」という宿題の答え合わせは、狩猟欲とはどこか別種の、それはでは人まかせだった「肉を得るプロセス」を自分の手で確かめることができた、という達成感だったようです。ノスタルジーかと思ったら、きっちり理系なお話でした。

さまざまなスタイルで「ハンターバンク」を利用しているハンターさんたち。
狩猟を始めたきっかけも、活動のペースも多種多様なのですが共通するのは
〈自分らしく〉楽しんでいること。そのあたり、聞いてみました。

ハンター体験記 Vol.4 溝口尚重さん

旅から持ち帰った〈想い〉は、ハンターバンクで〈現実〉になりました。[その1]

狩猟の現場が遠い都市生活者でも、全くの未経験者でも、そして、場合によっては狩猟免許の取得がまだでも……興味と熱意さえあれば誰でも気軽に、しかも手軽に狩猟生活をスタートできるのが、ハンターバンクの最大の魅力。そんなハンターバンクのフィールドでは、さまざまなバックグラウンドを持つハンターさんたちが、自分らしいスタイルで、今日も〈山の恵み〉である獲物たちと向き合っています。

アジアを旅したバックパッカーが目を奪われた、片田舎の村で見た屠殺と解体の光景。それまでは深く考えることもなく口にしていたブタ肉の、豚から肉になるまでの一連のプロセス。それ以来「食べるなら、自分で肉にしてみたい」という想いが長年にわたってくすぶっていた、という溝口尚重さんにとってのハンターバンクは、いちどは経験してみたかった屠殺と解体が、自分の手で実現できる場所でした。

──ハンターバンクに参加される〈きっかけ〉も皆さんさまざまだとは思いますが、溝口さんの場合には「獣を獲る」という〈狩猟〉よりも「肉にする」という〈屠殺〉や〈解体〉への想いが強かったようですね。まずはその出どころのエピソードから、お話をうかがえますか?

溝口さん: もう20年以上も前のことなんですが、若いころにはバックパッカーだったんですよ。まあ貧乏旅行で、中国とかインドとか、東南アジアあたりを8カ月ぐらい、あちらこちらフラフラと旅をしていたんです。そんなある日、たまたまチベット族の村で、これから豚を屠殺するぞ、という、どこか物々しい感じの庭先に遭遇しちゃったんです……。結構な奥地のほうまで行くと、当時でも豚とか鶏とか、みな自分たちで普通に締めて、食べていたんですよね。

──庭先! 戦前ならともかく、さすがに当時の日本ではもう見ることのできなかった風景ですね。

溝口さん: でしたね。それで、その日はめちゃくちゃ寒かったんですけれど、結局はなんだか3時間ぐらい、ずっとそこで見ていたんです。おそらくはその家の主人の手で屠殺され、解体されて、最後にはホカホカと湯気を立てる、いわゆる大バラシの状態になったわけです。それまで自分でも日常的に食べていたブタ肉が、まだ生きている豚の状態から大きな肉の塊になるところまでを見たのは、もちろんそれが初めての経験でした。

──それは衝撃的な光景だった、ということなのでしょうか。

溝口さん: そうですね……まあショックを受けた、とまではいかなかったんですが、現実に自分が食べている肉という存在がここから始まっていたんだ、というのを初めて目の当たりにしたというか……。基本的な知識としては持っていたわけですし、それに当時でもすでに近代化していた日本の畜産における屠殺や解体のプロセスとは違う、いわゆる原始的な方法だったとは思うんですが、それでも「ああ、こうやるんだな」と思って、どこか納得したんですよね。

──頭の中にだけあったイメージが、現実味を帯びてきた、というか……。

溝口さん: その日の光景が自分の中での原体験になっているんだと思うんですが、やっぱり自分が食べる肉は、いちどは自分の手で肉にしてみたいな、という想いになって……これはいつか自分でやらなきゃな、と。

──それから20年を超える時間が流れたわけですが……。

溝口さん: そうですね。アジア放浪は23歳の時でしたから、もう26年も前の話になりますね。でも、それからずっと、自分で屠殺して解体して肉にして食べる、という一連のことをやってみたいと、漠然と思っていたんです。それが日本に帰ってきて、屠殺や解体とは縁のない仕事で社会人になって、ずいぶんと年月が過ぎていたわけですが、つい最近になって、たまたまハンターバンクのことを耳にしまして、一気に再燃したわけですね。まあこの話がなくてもどこかでチャレンジはしていたんだろうな、という感じではありますけれど、自分としてはずっと、どこかで挑戦する機会をうかがっていたのかもなあ、と思うんです。

──若き日の旅の記憶は、ずっと生きていた、ということなんですね。

溝口さん: それにもうひとつ思い出したんですが、こちらもいまから30年も前に、小林よしのりさんが『ゴーマニズム宣言』というマンガを出して、かなり社会的な話題にもなったんですよね。その中に、豚の屠殺についての話もあったんです。内容としては「現代の屠殺場ではこういう風にやってますよ……これをなにも知らずに食べている、ってのはいかがなものか……」みたいなことを書いた話があって、それも自分の中では伏線になっていたのかもしれませんね。アジアの旅から日本に帰ってきて、日常の暮らしの中でしばらくの間は忘れていたんですけど、いずれどこかでその現場、例えば屠殺場の見学とかしてみたいな、というような願望も、ずっと心の奥底にあったのかもしれませんね。

──さて、そんな長年の想いを抱えてハンターバンクに参加された溝口さんですが、実際に狩猟という行為を通じて〈自分の手で肉にする〉ことを経験したいま、長年の想いはどう結実したのでしょうか……。

溝口さんのお話は[その2]へと続きます。

溝口尚重さん(みぞぐち・なおしげ)

ハンターバンクで挙げた猟果を前にして、旅の記憶の中の〈想い〉を、ご本人いわく「ずっとくすぶらせてきた」という宿題の答え合わせは、狩猟欲とはどこか別種の、それはでは人まかせだった「肉を得るプロセス」を自分の手で確かめることができた、という達成感だったようです。ノスタルジーかと思ったら、きっちり理系なお話でした。